【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第27話 キラの恋人
ニコル達の追撃を振り切りアークエンジェルは月基地への航路を一直線に取ろうとしたが、度重なる戦闘と物資不足の為デブリベルトへと逃げ込んだ。
特に水不足は深刻で最重要補給物資だったのだが宇宙空間に水があるはずがない。
通常の方法ならば、だが。
デブリベルトには農業プラントだったユニウス・セブンがある。
農業プラントだから当然水がある。
「あそこから水を!?本気ですか!?」
マリューとムウから破壊された水を調達するという事を聞かされたキラ・ヤマトは憤りを露わにした。
血のバレンタインの悲劇の発端となった住民が虐殺されたコロニー。
犠牲者の神聖な墓地だ。
そこを荒らすなんて。
「俺たちだって墓泥棒をしたいわけじゃないさ。でもあそこには水がある。俺たちは生きている、つまり生き続けなくちゃならない」
ムウの言葉にキラは言い返せない。
その通りなのだから。
生きるためにあの惨劇の地へ赴くというのか?
無残な光景が脳裏に浮かぶ。
自分はあそこへ行く資格があるというのか。
コーディネイターがナチュラルに殺された場所に行く資格があるのか。
同じコーディネイターを殺している自分に行く資格があるのか。
◆◆◆
ガモフの艦橋で集まったガモフ艦長ゼルマンとパイロット達は無言で航路図を見つめている。
今回のニコルの作戦でアークエンジェルに大打撃を与える事に成功したが取り逃がしてしまった。
アークエンジェルは不沈艦なのか。
あの攻撃なら間違いなく撃沈できるとみなが思っていた。
「すみません。僕の作戦立案が甘すぎました」
居並ぶ面々にニコルが詫びる。
ニコル自身慢心が無かったのか自責していた。
確かにアークエンジェルにはダメージを与えたがそれまでだ。
アークエンジェルのミサイルやビーム砲の威力は予想を遥かに超えていた。
ニコルはストライクの能力だけを考慮に入れて作戦を立ててしまった。
すべて自分の責任だ。
それを理解しているだけに自分の作戦ミスを認めざるを得なかったのだ。
「あの作戦に穴なんかねえよ」
そう発言したのはディアッカだ。
普段ニコルの事を臆病者呼ばわりしているディアッカだが、アークエンジェルの正面突破を許してしまった責任を感じていた。
アルテミス要塞から脱出したアークエンジェルを狙撃するという務めをディアッカは果たしたが、まさかあれほどアークエンジェルが強固だとは思わなかったのだ。
対艦ミサイルを避けられたミゲルとエマとジャンヌもディアッカに頷く。
ほとんどの対艦ミサイルを巧みな操艦でかわされてしまった。
ありえない動きで避けた操舵手の腕前は理解の範疇を超えていた。
意外な事にいつも激昂するイザークも、忌々しそうに床を踏み鳴らすだけで発言しない。
両腕を胸元で組んでいるイザークはやり場のない怒りに震えていた。
もっとストライクを自分が引きつければと後悔している。
「問題は今後どうするかだ」
ガモフ艦長ゼルマンが発言し航路図を拡大する。
そこにはアルテミス要塞から月への最短コースと月から発進した地球軍第八艦隊の現在位置が記されていた。
ゼルマン艦長は最短コースを指さす。
「この最短コースをとるのが一番可能性が高いがありえんだろう。足つきは我々の攻撃で相当なダメージを受けているはずだ」
そう言ってアークエンジェルの被弾個所を示した3D図を表示する。
多大なダメージを受けている事を示していて、とても最短コースで到達できるとは思えない。
かならず停船して何処かで修理するはずだ。
このあたりに補給基地はないが、まさか停船せず修理など出来るはずがない。
「このデブリベルトに隠れるというのは如何でしょう?」
ニコルが指でデブリベルトを指し示すと皆ありえないという表情をした。
デブリベルトには無数の隕石やら戦艦の破片などが漂っているのだ。
そんな所に隠れたところで周りのジャンクと一緒にデブリの仲間入りが落ちだ。
だが、その意見に対して意外なところから賛同の声が上がった。
「可能性は無くはないな」
イザークだった。
いつもはニコルの事を臆病者呼ばわりしているが、今回の件で作戦能力は認めている。
このデブリベルトならば敵もそう簡単に見つけられないだろう。
稼いだ時間で応急修理できれば月基地まで到達は可能だと判断した。
何より他に隠れる場所がない。
「……イザーク」
「勘違いするな。俺は俺の判断で意見を述べたにすぎない」
「ありがとう」
「違うと言っている」
ニコルがイザークに礼を言うと、イザークは顔を背ける。
その様子を見てミゲルがにやにやしながら、ニコルとイザークの肩を叩いた。
イザークは鬱陶しそうな表情を浮かべるが、振り払う事はしなかった。
そんな二人の様子を見てディアッカが口を挟む。
「それじゃ楽しい楽しいゴミ漁りをしましょうかねと」
ガモフはデブリベルトへ到達する。
まさかデブリ一つ一つを探して回る訳ではないが、アークエンジェルが通れそうな大きさの空間を主に熱源などで探知していく。
その間エマとジャンヌ機はデブリベルトからアークエンジェルが出てこないか監視していた。
◆◆◆
「厄介ね。まだ見つかっていないとはいえ読まれるとは思わなかったわ」
アークエンジェル艦橋の艦長席でマリュー・ラミアス艦長はストローに口づけて経口水を飲んでいた。
先程まで修理指揮していた為、水分補給が必要だったのだ。
元々技術部門が専門のマリューの指示は的確で、コジロー・マードック軍曹の技術もあってアークエンジェルの応急修理は着々と進んでいた。
彼女は戦闘指揮所にいるムウ・ラ・フラガ大尉の方を見る。
彼は今、副長であるナタル・バジルール少尉と共に、ダリダ・ローラハ・チャンドラ二世がまとめた情報を整理していた。
「ただの消去法だな。俺たちが月まで強行軍で向かえると思えないし、どこかに停泊できる場所もない。途中にあるのはここだけって事だ」
「しかしこんな所に紛れ込んだらデブリに衝突して、スクラップになるとは考えなかったのでしょうか?」
「それくらい余裕で回避できると高く評価してくれたんだろうよ」
ムウはそう言ってアーノルド・ノイマン曹長に笑いかける。
ノイマン曹長は「光栄です」と言って肩をすくめた。
キラ達ヘリオポリス組はユニウスセブンの切り取った氷の塊や破壊された弾薬を次々に収容していた。
これで当分飲み水と弾薬には困らないだろう。
破壊されたユニウスセブンを見ていたキラのコクピットに電子音が響いた。
そちらに視線を移すと救命ボートが浮かんでいた。
「まったく君はつくづく落とし物を拾うのが好きだな」
キラが拾ってきた救助ボートを見てナタル・バジルール少尉がため息をつく。
キラが人命を優先する性格なのは理解していたが、戦時中だという事も考えて欲しかったのだ。
救命ボートの扉が開くとピンクの丸いボールのようなロボットが飛び出して来た。
ロボットはハロハロといいながら飛び跳ねる。
そして続いて長いピンク髪のキラと同じ年齢くらいの少女が現れた。
ほんのりと白い肌をした、ほっそりした腕、優しく愛らしい顔には見る者を幸せそうにする笑みが浮かばれている。
その瞳から涙が零れる。
「……キラ」
「───え?」
キラにそう呟くと、少女はキラに宙を舞うように飛んでキラの胸に飛び込んだ。
初対面の女の子に泣きながら抱き着かれたキラは何が何やら訳がわからない。
サイたちヘリオポリス組もキラにこんなガールフレンドがいるとは知らなかった。
「会いたかった。会いたかったですわ」
「え、ええと君は誰?」
「わたくしはラクス・クライン。貴方の恋人ですわ」
「え、ええええっ!?」
その場にいた一同が驚きの声をあげた。