【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。   作:屠龍

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今回はガモフとアークエンジェル同時進行の話になりました。
ニコルの独断専行を非難する声が強いので独房入りしたニコルと、ラクスを解放するか人質にするかで悩むアークエンジェルです。
この世界のアークエンジェルは機関部の故障でいつもの快速が出せない設定です。


第30話 囚われの少女

 第30話 囚われの少女

 

 ガモフでは緊急の会議が行われていた。

 現在アークエンジェルを追撃中なのはガモフだけで、ラクスが行方不明なのを聞いたラウ・ル・クルーゼの乗るヴェサリウスが到着するのを待っていては、地球軍第八艦隊にアークエンジェルが保護されてしまう。

 勿論クルーゼには報告したが、もし身柄の確保が不可能の場合。

 第八艦隊と合流前に足つき、アークエンジェルを撃沈するようにと返事が来ている。

 ザフトの軍隊には階級が無いが優秀な証である赤服の意見はかなりの発言力がある。

 ただ今回のニコルの行動は明らかにやりすぎだ。

 

 「下手に譲歩して引き延ばされたら足つきは第八艦隊合流までラクス嬢を盾にするだろう。そしてラクス嬢は地球軍の捕虜にされる」

 

 イザークが静かな怒りの表情で発言する。

 いつも怒っているイザークだが今回は本気で怒っているようだ。

 

 「最悪の事も考えておかないとな。クルーゼ隊長の指示だと合流前に撃沈しろって言うんだろ?」

 

 いつも斜めに構えたディアッカだが彼にしては常識すぎる答えだった。

 クルーゼの命令はまるでラクスを殺したがっているように聞こえたからだ。

 まさかそんな事はないが、必要ならそうするしかないとディアッカも思っている。

 

 「しかしニコルはどうする。あのまま独房に閉じ込めておくのか?」

 

 ジャンヌがゼルマン艦長とイザークを見つめて発言すると、全員がため息をついた。

 ニコルは勝手に人質交渉を行ったあげく、ストライクを逃がしたのだ。

 独房入りで済んだのは恩情だろう。

 

 「本人に聞いてみるしかあるまい。俺が話を聞いてくる」

 

 そう言ってイザークが会議室を後にした。

 独房はガモフ艦内の奥にあった。

 けして不潔ではないが快適ともいえない。

 

 「ニコル、気分はどうだ?」

 

 「あまりよくはありません」

 

 そう言って苦笑するニコルの様子にイザークはフッと笑みを漏らす。

 イザークには腑に落ちなかった事が多い。

 ニコルはアカデミーの頃からアスラン経由での知り合いだが、こんな感情的な奴では無かったはずだ。

 イザークに理解できないのも無理はない。

 

 ニコルには過去の記憶でラクスが戻ってくることを知っている。

 だがこの世界は想定からかなり外れてしまっていた。

 アスランもクルーゼ隊長もいないし、ニコル達はラクスが解放された場所にはいなかった。

 もしここでラクスを失ったら未来は決定的に変わってしまうだろう。

 つまりニコルは不測の事態を考えすぎて焦りすぎたのだ。

 だからかなり譲歩した提案をだしてしまった。

 これ以上歴史が変わってしまう前にストライクを落とし、キラ・ヤマトを殺さなくてはいけない。

 

 ───本当にそうだろうか?

  

 ニコルは自問自答する。

 キラ・ヤマトは本当に敵なのか?

 アークエンジェルを撃沈しストライクを撃墜する。

 それが最適の答えの筈なのに、なぜキラを殺すことを躊躇うのか。

 ラクス・クラインの歌が悲しみに満ちているように聞こえた時の違和感が、なぜここまでキラを殺すのを躊躇わせるのか。

 

 「お前の案は譲歩のし過ぎだ」

 

 イザークがそう言うとニコルは素直に頷く。

 あれでは譲歩ではなく言いなりだ。

 

 「なぜあんなことをした?いつものお前なら俺たちに相談して決めるだろう?」

 

 「自分でもわかりません。ラクス様が大切なのは間違いありませんが、アークエンジェルとストライクを地球軍に渡したらどうなるか。僕だってわかっています」

 

 ニコルにもわからなかった。

 ニコルの経験した過去ではアスランがラクスを救出して戻ってきたはずだ。

 このままでは全く知らない未知の未来へと進んでしまう。

 これは何故だろうか?

 ニコルが自分で未来を変えるために必要以上にストライクを撃墜しようと躍起になったからだろうか?

 もし前世通りの道順をなぞったら変化しなかったのだろうか?

 ただ今更狂いだした歯車が変わることは無い。

 

 「あの譲歩案を飲まない奴らなら仕方がない。ただこちらも易々と足つきを逃がしはしない。わかっているだろうがラクス嬢を取り戻したら足つきとストライクは撃墜する」

 

 イザークの言葉にニコルは血相を変えて独房の格子戸を握った。

 格子戸がガシャンという音を立てる。

 

 「イザーク!!約束を破るのですか!?」

 

 「足つきを逃がすわけにはいかないのはお前もわかるだろう。地球軍が迫っているギリギリのタイミングでラクス嬢が開放されなければこちらが不利になる。あんなMSが量産されてみろ、戦局が大きく変わるのは目に見えているだろう」

 

 「ですがそれがザフト軍人のする事ですか!?」

 

 ニコルの言葉にイザークは黙り込んだ。

 イザークも嫌なのは変わらない。

 だがラクスを救出しアークエンジェルを撃沈するにはそれしか方法がない。

 問題はいつどこでラクスを救出するかだ。

 イザークは踵を返し独房を後にする。

 後ろから聞こえるニコルの悲痛な叫び声がむなしく聞こえた。

 

 ◆◆◆

 

 アークエンジェルの士官室でマリューとムウとナタルはお互いの意見を述べる。

 マリューとムウはいつラクスを開放するかという意見を、ナタルは解放しないという意見で平行線を辿りそうになっている。

 

 「いつどこで開放するかよね。すぐに解放しなきゃあっちは納得しないでしょうし」

 

 「同意見だな。ただ解放した途端ドカンと一発食らわせてくる可能性は高い」

 

 「私は反対です。折角手に入れたカードをみすみす手渡すなど」

 

 「でもこのまま第八艦隊と合流できるまで見過ごしてくれるとは思えないわね」

 

 あと24時間しかない。

 24時間で進める距離も計算したがやはり足りなかった。

 そもそも24時間待ってくれるとは限らないのだ。

 現在第八艦隊の先遣隊がこちらに向かっている。

 高速艦ばかりで編成されているから通常より早く合流できるだろうが間に合うかどうか。

 

 「どうする艦長さんよ?」

 

 ムウにも名案が浮かばない。

 

 「……仕方ないですね。ラクスさんには悪いけど拘束したまま行きましょう」

 

 マリューはラクスを解放しない決断をした。

 解放したら撃沈されるなら、相手が躊躇するのに賭けるしかないと判断したのだ。

 

 「了解しました。ではそのように手配します」

 

 「頼むぜ副長殿」

 

 「はい。ラクス嬢には可能な限り便宜をはかります」

 

 シュンという音を立てて士官室の扉が開きナタルが退室した。

 ナタルが出て行くとマリューは深いため息をつく。

 そのマリューを慰めるようにムウが微笑んだ。

 

 「やれやれ、これでまた厄介事が増えたってわけか」

 

 「そうね……」

 

 「まぁ、いいさ。俺は俺でやれる事をやるだけだしな」

 

 「そうね。ストライクとメビウス・ゼロの出撃準備をお願いします」

 

 「了解。艦長殿」

 

 それだけいうとムウは部屋を出て格納庫へ向かう。

 いつ豹変して牙をむくかもわからないのだ。

 たとえ撃沈されるにしても、黙って沈む訳にはいかない。

 

 その頃キラはアークエンジェル艦橋裏にある展望台へと来ていた。

 今は敵になったアスランと自分を恋人だと言ってくれたラクス。

 ラクスの解放を訴えたアスランの親友ニコル。

 キラにはコーディネイターが敵には思えなかった。

 アスランのお母さんと二十四万人が殺されたユニウスセブン。

 いつからこんな理不尽な世界になったのだろう。

 

 「キラ」

 

 「うわあっラクス!?」

 

 キラが物思いに浸っているとラクスがキラの顔を覗き込んできた。

 ラクスはキラの目元を指でぬぐおうとする。

 キラは慌てて女の子に泣いていた顔を見せないように顔をそむけた。

 ラクスは悲しそうな顔をする。

 

 「キラは優しいのですね。アスランと戦いたくないのでしょう?」

 

 「戦いたくないよ。どうしてこんな事に」

 

 キラが心情を告げるとラクスはふわりと舞ってキラを抱きしめた。

 キラはラクスを抱きしめ返し、女の子の前だというのに泣きだした。

 ラクスはキラが苦しんでいるのを知っている。

 彼女の記憶の中のキラは苦しいのを押し殺してアスランを討った。

 そして壊れてしまった。

 だが時代はキラを壊れたままにしてくれなかった。

 その後出撃したキラは帰って来なかった。

キラの苦しみと悲しみをラクスは知っている。

 そしてキラを失った事でラクス自身も壊れてしまったのだ。

 あんな世界を繰り返してはならない。

 ラクスは自分がまた人生をやりなおしているのは悲劇を避ける為だと思っている。

 

 「理不尽ですわね。キラもアスランも、とても優しくて友達想いなのに」

 

 「ラクスとアスランはどういう関係なの?」

 

 「わたくしとアスランは婚約者ですわ。でも心は通じ合えなかった」

 

 その言葉を聞いてキラはとても悲しくなった。

 婚約者を討たれて平静でいられるほど目の前の少女は強くはなかった筈だ。

 その時どれだけ辛かったのか、聞く勇気はキラには無かった。

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