【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。   作:屠龍

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今回はラクスとフレイの会話を書いてみました。
この世界のラクスは前世で父もアスランもカガリもキラも失い、最後はハロを手に最終決戦で亡くなったという設定です。
じつはフレイも前世の記憶持ちにしようかと悩みましたが、いったん書いてみて破綻しましたので書き直しました。
 
『恋人を失い地獄の戦場を戦い抜いた女だ。面構えが違う』


第31話 ラクスとフレイ

 第31話 ラクスとフレイ

 

 通告期限まで20時間を切った。

 キラはどうしていいのか悩んでいた。

 このままではラクスが危険だ。

 ここにいてはいけない。

 

 「こんなの間違っている」

 

 そう言ってキラはラクスの部屋へ向かう。

 ラクスだけでも助けたかった。

 苦しい自分に寄り添ってくれた少女を戦争に巻き込みたくない。

 部屋のロックを解除したら、そこには着替えていたラクスが待っていた。

 

 「ラ、ラクス!?」

 

 「お待ちしていましたわキラ」

 

 ラクスにはわかっていた。

 キラはずっと自分を捕虜にできるような人では無い。

 本来は批判されるべき行為でも、彼の優しさは時に常識を超える。

 キラは優しすぎるのだ。

 とても戦いには向いていない。

 そんな人だからラクスは恋焦がれたのだと。

 

 キラとラクスは一緒に格納庫へ向かうが途中で勤務交代のトールとサイとミリアリアに出会ってしまった。

 三人はキラがラクスを連れている事に驚いたが

 

 「仕方ないな」

 

 「人質を取るなんて悪役のする事だよな」

 

 「それにこの子が月に連れていかれたら酷い目にあうからね」

 

 そう言ってラクスの脱走に手助けをしてくれる事になる。

 自分がいなくなれば最悪アークエンジェルは撃沈され皆死亡するというのに。

 なんて眩しい人たちでしょうとラクスは思った。

 サイさんもミリアリアさんも良い人だったとラクスは思い出す。

 サイとミリアリアは最終決戦でラクスと運命を共にした。

 もう一人のトールという人物とラクスは会ったことが無い。

 

 ……もしかして。

 

 この後亡くなられたのかもしれないと思ってラクスは悲しくなる。

 こんな時代だから人が死ぬのは珍しくないとわかっていても。

 あんな世界は二度と繰り返さない。

 わたくしはその為に生まれ変わったのだからとラクスは決意を新たにした。

 

 脱走の手伝いはして貰えたが、問題は相手側の人選だ。

 今回はアスランがいない。

 前世では全幅の信頼を得られたアスランがいたからこそ成功したとラクスは思っている。

 ラクスはキラに手を引かれ走っている。

 これはけして逃げではない。

 一時は離れ離れになってもきっとキラと再会し、今度こそ添い遂げる為に走る。

 ラクスがキラの手の暖かさに心癒されていた時だった。

 もうすぐ格納庫だという所に艶やかな長い赤髪の整った顔立ちをした美少女が白いワンピースを着て立っていた。

 キラの憧れの人でサイの婚約者。

 フレイ・アルスターだ。

 

 「サイ、あなた何やってるのよ」

 

 「フレイ、これは」

 

 サイが手を伸ばしてフレイに近づくとフレイが一歩後ろに下がった。

 フレイがラクスとキラを指さす。

 その瞳には猜疑心が色濃く浮かんでいる。

 

 「まさかあなた達、この子を連れて逃げようって言うんじゃないでしょうね」

 

 「誤解だフレイ!!俺たちはそんな事しない!!」

 

 サイが誤解を解こうと伸ばした手をフレイが払いのけた。

 

 「だってその子を逃がしたら、あいつらに私達殺されるのよ。そうでしょサイ!?」

 

 冷静に考えればフレイの言う通りだ。

 今ニコル達が攻撃してこないのはラクスを人質にしているからで、もしラクスがニコル達の手に戻れば約束通り攻撃してこないという保証はない。

 むしろそんな約束を信じるほうが間違えている。

 フレイの疑念はもっともだ。

 生き延びたいという感情を優先すれば、ラクスを解放しようなんて馬鹿げている。

 第一その判断をするべきは大人のマリュー達であって、サイやキラ達ではない。

 

 「あんた、まさかその子をつれて自分だけ逃げようって言うんじゃないでしょうね」

 

 フレイがキラを指さす。

 キラはその言葉に動揺を隠せない。

 そんな事考えた事も無いのに、コーディネイターというだけでここまで疑われるのか。

 

 「キラはそんな奴じゃねえよ!!お前今まで何見て来たんだよ!!キラはずっと俺たちを守って戦ってきてくれたじゃないか!!」

 

 普段は温厚なトールが感情を露わにした。

 だがフレイは怯まない。

 

 「今まではそうだけど、もう勝てないって思ってるかもしれないじゃない。だいたいみんな変よ、だってキラもこの女もコーディネイターじゃない。私たちからヘリオポリスを奪った連中の仲間じゃない!!どうして信用できるのよ!!」

 

 フレイの言葉にキラが一歩後ずさる。

 今まで仲間だと思ってくれていた。

 大切だと思ってきた。

 守らなきゃいけないと思っていたフレイが自分の事をそんな風に見ていたなんて。

 キラもフレイも同じ人間なのに。

 

 『君は裏切り者のコーディネイターだろう?』

 

 アルテミス要塞の司令官ガルシアの心無い言葉がキラの心をえぐった。

 裏切り者

 裏切り者

 コーディネイターだから罪なのか。

 ナチュラルなら信用されたのか。

 

 「フレイ酷すぎるよ。キラに謝って」

 

 ミリアリアがキラを庇うようにフレイとキラの間に立つ。

 その瞬間フレイの顔色が変わった。

 

 「なぜ私が謝らないといけないのよ!!キラもこの子もコーディネイターじゃない、それのどこが間違えてるのよ!!」

 

 フレイの叫び声が通路に響き渡る。

 フレイは自分が間違っているとは思っていないのだ。

 自分の信じているものが正義でそれ以外は悪なのだと信じ込んでいる。

 フレイを押しとどめようとするサイ。

 ミリアリアを庇うトール。

 フレイの言葉に傷ついたキラ。

 その沈黙を破ってラクスが語りだす。

 

 「たしかにわたくし達はコーディネイターです。ナチュラルとコーディネイターは同じ人間だというのに戦い憎しみあう。とても悲しい事です。コーディネイターだから悪なのですか?ナチュラルだから善なのですか?」

 

 そう言ってラクスがフレイに手を伸ばす。

 明らかに重ねた年数と意識の違いがそこにはあった。

 ラクスは一度、本物の地獄を見たのだから。

 その手に畏怖してフレイが後ずさった。

 

 「そんなの言われるまでもないじゃない。遺伝子操作されて作られるなんて人間じゃない。自然の摂理に反した化け物よ!!」

 フレイが叫ぶ。

 しかしラクスは首を横に振った。

 そして静かに語る。

 

 「違います。ナチュラルもコーディネイターも同じ人間です。同じ人間なのだから歩み寄る事もできるはずです」

 

 それはまるで神への祈りのように厳かに響く。

 ラクスの声はどこまでも透き通っていて美しい。

 そしてその言葉には人を惹きつける力があった。

 歌姫ラクス・クラインは地獄を経験して芯の強い歌を歌うようになった。

 ニコルにはその歌の根源がラクスの悲しみだと見抜かれたのだが、まだ地獄を見たことが無いフレイはただ畏怖する事しかできない。

 

 「わたくしの事は構いませんがキラには謝ってください。そしてキラを信じてあげてください。キラはけしてあなた達を裏切ったりしません」

 

 「口ではなんとでも言えるわよ。どうやって信用しろっていうのよ!!」

 

 尚もフレイはラクスに食らいつく。

 しかしラクスは怯まない。

 普段のラクスは滅多に怒らないがキラを侮辱された事は許せなかった。

 まっすぐな視線でフレイを見つめる。

 

 「信じて下さい。キラは決してあなた達に嘘などつきません」

 

 その瞳を見てフレイは視線を逸らした。

 これ以上、ラクスの目を見る事ができなかったのだ。

 呑まれるという表現そのもの。

 フレイはラクスのカリスマに呑まれたのだ。

 

 「フレイ。俺もトールもミリアリアもキラを信じている」

 

 サイがそういうとフレイは黙って俯く。

 それを見たラクスは優雅にスカートの裾を持って頭を下げた。

 やがて顔を上げたラクスは穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 「キラ、あなたが私達を裏切ったら、わたし一生コーディネイターなんか信じないから」

 

 そう言ってフレイは部屋へ戻っていく。

 フレイはそこに居られなかった。

 もしいたらコーディネイターとナチュラルが同じ人間だと諭されると本能的にわかっていた。

 フレイにとってコーディネイター嫌いの父の影響でコーディネイターを嫌いになり、父の言う通りサイの婚約者になった。

 母を失ったフレイという少女は父親の作った世界だけでしか生きる道を知らなかったのだ。

 フレイもナチュラルとコーディネイターという、持つ者と持たざる者の相互不信と憎悪が生み出した歪んだ世界の被害者の一人だった。

 

 「ああみえて悪い子じゃないんだ。ただ色々あって神経質になってるんだよ」

 

 サイはフレイのフォローを入れるのを忘れなかった。

 だがサイはフレイの抱える歪みをまだ理解できていなかった。

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