【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第34話 雨降って地固まる
アークエンジェルは地球軍第八艦隊先遣隊のモントゴメリーと合流する事に成功した。
連絡艇が接舷しフレイ・アルスターの父親ジョージ・アルスターがアークエンジェルに乗艦してきた。
ジョージ・アルスターは旧プラント理事国の一つ大西洋連邦外務次官を務める重鎮でブルーコスモス寄りの発言が目立つ。
フレイ自身はブルーコスモスでは無いが、コーディネイターに否定的な発言をするのは父親の影響が大きい。
ジョージ・アルスターがマリューの手を強く握って感謝を告げるとマリューは困り果てた顔で微笑んだ。
先ほどから彼は「フレイを救ってくれて感謝に堪えない。よくやってくれたラミアス艦長」
とマリューの手を取った後、ムウやナタルの手を取り感涙にむせんで感謝している。
「パパ!会いたかった!怖かったのよ!」
「フレイ遅くなってすまない」
そしてフレイとの絆を確かめるように抱きしめあう。
その様子をサイは笑顔で見つめ、キラ達も嬉しそうに笑いあった。
「サイ君ありがとう。流石フレイの婚約者だ。早速大々的に婚約者を守った勇気ある少年と銘打って宣伝しよう。きっと戦時国債も大量に売れるぞ」
「いえ流石にそれはやりすぎだと思います」
「何を言う。君こそ英雄だよサイ・アーガイル君。君のような立派な男こそフレイの婚約者に相応しい」
「俺はべつにそんなに大した事をしていません。それだったらキラのほうが余程活躍しました」
サイがそう言うとトールがキラを押し出した。
キラが慌てる間もなくジョージ・アルスターがキラの手を取って感謝の握手をした。
マリューやムウやサイ達が拍手する。
その和やかな空気を打ち砕く一言がフレイの口から飛び出す。
「パパ、その子コーディネイターよ」
───沈黙。
だがそれは一瞬の事だった。
ジョージ・アルスターがフレイを窘める。
「フレイ、キラ君はフレイを助けてくれたのだろう?ならそのような言い方はやめなさい」
「でもパパ、私たちのヘリオポリスを破壊したのはコーディネイターよ」
「ならなおの事だよ。キラ君はフレイやサイ君だけでなく、沢山のナチュラルを救ってくれた英雄じゃないか。わかったらキラ君に謝りなさい」
「でもパパ!!」
「フレイはパパのいう事が聞けないのかい?」
ジョージ・アルスターがフレイに強い口調で言うとフレイは小さい猫のように大人しくなる。
そしてキラに向き直り頭をさげた。
「今まで酷い事言ってごめんなさい。キラは私達を助けてくれたのに私嫌な事ばかり」
「そんなのいいんだよ!!こうやってフレイがお父さんと再会できただけで僕は」
そう言ってフレイとキラの会話を見ていたジョージ・アルスターは、笑顔の裏で汚らしいコーディネイターのガキをどのように政治宣伝に使うか考えていた。
ブルーコスモスもコーディネイターとの融和を目指す穏健派やコーディネイターへのテロや殺害を肯定する過激派など一枚岩ではなく、コーディネイターの能力に危機感を覚えている者や宇宙鯨こと「エヴィデンス01」の発見で教義の矛盾を突かれた宗教関係者なども参加している。
だが宗教は暴力を肯定しない思想も多分に含まれている為、「エヴィデンス01」の発見で宗教を失った人々が悲惨な戦争を継続している事実がある。
ブルーコスモスが過激化した決定打は、プラント最高評議会議員である物理学者オーソン・ホワイトにより開発されたニュートロンジャマーにより核分裂が不可能になり、深刻なエネルギーに陥った地球で10億人の凍死、餓死者が出た事で反コーディネイター思想が蔓延した事だ。
これにはニコルの父親ユーリ・アマルフィも開発に関わっている為、責任の一端はある。
先に核ミサイルを撃ち込んだのは地球であるが、あまりにも非道な報復を受けた地球側が激怒するのも当然と言える。
第八艦隊先遣隊とアークエンジェルが合流したころ、ラウ・ル・クルーゼのヴェサリウスと増援のツィーグラー、ニコルの乗るガモフも合流した。
ニコルはクルーゼに呼び出される。
懲罰を覚悟でクルーゼの私室に入ったニコルは仮面の下のクルーゼの顔に不機嫌の色を感じたが、それは別の理由だった。
ニコルはラクスが人質に取られた事、速やかに解放しなければラクスの身に危険が生じた可能性、特に追い詰められたアークエンジェルが何をするかわからなかった事を説明した後。
「軽率な判断と越権行為を行った事は事実であり、いかなる懲罰もお受けいたします」
と締めくくった。
クルーゼは頷いた後。
「事情はわかった。私がいなかった事で現場の判断に委ねることになった私の責任もある。この件は不問としよう。ただ私が気がかりなのは君らしからぬ行動だ」
「私らしからぬ行動ですか?」
「あれだけストライクを執念深く追い詰め何度もあと一歩までおいつめた君なら、イザーク達と一緒にストライクを討てたはずだと思ってね。それは後程イザーク達にも事情を聞くが。誤解して貰っては困るが責めている訳ではない。私は地球軍のMS開発計画阻止に積極的に取り組んだ君の働きに感銘を受けていたのだよ」
「それは……ザフト軍人として堂々と討ち果たしたいと考えました」
「彼らが今までの交戦データを手に地球に降りたらどうなるか、君にはわかっているだろう」
「わかっています」
「敵に情けをかけてはいけないよニコル。彼らは敵だ。そうでないと次は君が討たれる事になる。私も優秀な部下を失いたくはないからね」
「肝に銘じます」
「話は以上だ。アスランが君に会いたがっている。婚約者を救ってくれた君にきっと感謝しているだろう」
ニコルがクルーゼに敬礼し部屋の外に出た途端、イザークやディアッカ達に取り囲まれた。
「どうだったニコル?」
「お咎めなしでした」
「それはそうだろう。この状況でニコルを外す訳ないもんな」
そう言ってディアッカがニコルに笑いかける。
ニコルは先日のラクス救出でディアッカの態度が柔らかくなったのを感じた。
「貴様は甘い。だがザフト軍人としては合格だ」
イザークが顔を背けながらそう言うとニコルが吹き出しそうになる。
「何がおかしい」
「いえ、イザークが僕を気遣ってくれるなんてと思って」
「誰が貴様を気遣いなどするか!!」
「ほら、次はイザークの番ですよ」
そう言ってニコルはイザークの背中を押してクルーゼの部屋へ押し込んだ。
その様子を見つめていたディアッカが楽しそうに笑う。
ラクス救出以来、イザークもディアッカもニコルに心を開くようになってきた。
「雨降って地固まるっていうからな~」
ラスティがそういうとミゲルが怪訝そうな顔をする。
それは地球の古い諺だったからだ。
コーディネイターが追い出されたかつての大地。
「でもさ、あいつらの仲が良くなって良かったよなぁ」
「ああ……そうだな」
「最初はギスギスしてたもんな。俺も苦労したぜ」
「殆ど病床にいたくせに」
ラスティの軽口にミゲルが呆れて手をふった。
その様子を見てエマがにんまりと笑みを浮かべる。
「───何だよ?」
「ううん。最近のミゲルは先輩風吹かさなくなったなあって」
「お前は俺の事をなんだと思ってたんだよ」
「勿論先輩として敬ってたよ?」
「怒らないから本心言ってみろ」
「鬱陶しかった」
「お前な!!」
皆の喧騒から少し離れた所で呆れたように見ているジャンヌ。
自分もあのくらい軽口を言い合えればいいのにと思う。
きっとつまらない女だと思われているだろうと考えているとディアッカが隣に来ていた。
「あんまりすぎた事気にするなよ。切り替えは大事だぜ」
「私はお前みたいに軽くは無いんだ」
「言ってくれるね~」
そう言ってディアッカはジャンヌの美しい長い金髪の頭をぽんぽんと優しくたたいた。
ジャンヌはディアッカの手を払いのけて顔を真っ赤にしながら口論を始める。
堅物の自分とこういうやりとりが出来るディアッカの事をジャンヌはとても好ましいと思っている。