【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第35話 戦う意志
大小様々な艦艇が輪形陣を取ってアークエンジェルを出迎えていた。
地球軍第八艦隊。
智将ハルバートン提督が率いる艦隊は圧巻の一言に尽きた。
旗艦アガメムノン級戦艦メネラオスを筆頭にネルソン級宇宙戦艦が16隻、ドレイク級宇宙護衛艦などを含めれば60隻はいるかもしれない。
アークエンジェルは旗艦メネラオスの隣に控え、大慌てで工作艦による修理が行われる。
「やれやれ、満身創痍とはこのことだな」
アークエンジェルに乗艦したハルバートン提督は、被弾してあちこち損傷だらけのアークエンジェルを見て苦笑する。
対艦ミサイルやビームキャノンなどの直撃を受けても沈まなかった事が、アークエンジェルの強靭さの証明だ。
同時にストライク以外のXナンバー機体を失った事は大きすぎる損失といえる。
マリューやムウ達がハルバートン提督と話をしている頃、やっと退艦できるとダイニングルームで喜んでいるサイやフレイやトールの姿を見ながらキラは壁にもたれながらラクスを思い出していた。
『キラ。わたくしは常にあなたの傍にいます。たとえ遠く離れていても。わたくしはずっとキラの傍にいますわ。だから安心してください、わたくしは必ずキラと再び出会えます』
(ラクス……)
キラが物思いにふけっていると、キラの目の前にトールの手が伸ばされる。
急に視界に入ってきた手にキラは驚き倒れそうになった。
「どうしたんだよキラ。やっと俺たち帰れるんだぜ」
トールの言葉にキラは現実に引き戻される。
軍に保護されたキラ達は一時的な志願兵という扱いで元々は民間人だ。
だがストライクの機密に触れた以上、軍が素直にキラ達を民間人として地球で保護してくれるだろうか?
もし民間人に戻れたとして、このまま現実を何も見ないままでいいのだろうか?
アスランと殺し合いなんてしたくないけど、このまま別れていいのか。
ラクスが言う未来が本当なら、ここで降りて世界から目を背ける事が正しいのか。
『キラが戦死したあと、プラントはジェネシスという最終兵器を地球に打ち込み地球を死の星とすると同時に、地球はプラントに核ミサイル攻撃を行って人類は一部を除いて滅亡したのですわ』
そう語るラクスの涙が嘘には見えなかった。
ラクスとは初めて会った気がしない。
いや間違いなく初めてなのだが、なぜかとても愛しいとキラは思った。
ラクスの本当の笑顔が見たい。
悲しみの歌では無く、喜びの歌が聞きたい。
自分に何が出来るのかわからないけど僕は。
ストライクに乗ってアークエンジェルを守れるのは僕だけなんだ。
そうキラが決意した時だった。
「お前たちここにいたのか」
そう言ってナタル・バジルール少尉が不機嫌そうにキッチンルームに現れた。
そしてキラとサイとトールとミリアリアとカズィに書類を手渡す。
「これは?」
「除隊許可証だ。お前たちは正規の軍人ではないのに戦闘行動に参加した。これは重大な軍規違反にあたるので日をさかのぼって志願したという書類を作成した。これを提出すれば皆除隊したという扱いになる。つまり家に帰れるという事だ」
ナタルの言葉に皆喝采をあげた。
やっと家に帰れる、キラも一瞬だけそう思った。
ラクスの悲しみを知ってこのまま退艦していいのか。
このまま世界の痛みをラクスだけに背負わせていいのか。
もしキラがこの戦いを降りてもラクスは戦うだろう。
そんなラクスを遠くの安全な場所で見ていていいのか?
世界の破滅を知っていながら、その瞬間まで目を閉じ耳を塞いでいいのか。
(───僕はラクスに会いたい。どんな困難が待ち受けていてもラクスの傍に居たい。今度こそラクスと添い遂げて見せる)
除隊許可証を手に喜びにわく仲間の目の前で、キラが除隊許可証を破り捨てた。
「キラ!?」
「キラ何やってるんだよ!?」
「それが無いと除隊できないのよ!?」
周りにいた友達もナタルでさえ驚く。
「僕はここに残ります。このまま降りても戦争は続くんでしょう?世界は平和にならないでしょう?今降りて世界から目を背けても何も変わらない。こんな戦争を終わらせるために僕は戦いたいと思います。それにアークエンジェルには僕の力が必要ですよね」
最後は自意識過剰かなとキラも思ったが、現実問題としてムウだけではアークエンジェルは守れないだろう。
キラの両親を人質にしてまでキラを戦わせようと画策したナタルだが、自分が考えているより現実を見ようとしている少年に敬意を抱いた。
驚いていたナタルだったがキラに微笑んだあと握手した。
「すまないが今後も頼むキラ・ヤマト」
「ナタルさん。こちらこそ」
キラとナタルの会話を後ろで聞いていた聞いていたサイが除隊許可証を破り捨てた。
その笑みは迷いが無かったが、隣の婚約者を思い出す。
「フレイ。キラだけ残して抜けるなんて俺には出来ないよ」
サイがそう言うと隣にいたフレイがサイの手を掴む。
信じられないという様子で瞳を見開く。
「サイ本気なの!?あたしの事放っておいて戦場にいくの?こんなコーディネイターなんかの為に!?」
フレイの言葉にキラが黙り込む。
コーディネイターというだけでこれほど忌み嫌われるなんて。
「すまないフレイ。キラはコーディネイターの前に友達なんだ」
「でも!……でもぉ」
泣き出すフレイを見てサイは優しく抱きしめる。
「ごめんな。フレイとは一緒にいられないけど必ず帰ってくるから待っていてくれ」
「そんなのわからないじゃない。相手はコーディネイターなのよ。あんな化け物相手に勝てる訳ないじゃない!!」
サイとフレイの会話を聞いていたトールが書類を破り捨てた。
「キラとサイが残るなら俺も残るよ。友達見捨てられないしさ。俺がいないとアークエンジェル落とされるかもだし」
「トールが残るならあたしも」
「俺だけって訳にもいかないよな」
トールに続いてミリアリアとカズィも破り捨てた。
皆の視線がフレイに集中する。
民間人のフレイは当然退艦するべきだ。
「フレイ。戦争が終わって生きてたら会いに行くよ」
「サイ……」
そう言ってサイとフレイが抱きしめあった時だ。
『総員第一戦闘配備!!繰り返す!!総員第一戦闘配備』
「おいおいマジかよ!」
トールが慌ててブリッジへと向かう。
「ちょっとまってよ」
「俺も急がなきゃ」
ミリアリアとカズィも走り出しアークエンジェル内は騒ぎ出した。
まだ民間人の退避は終わっていないのだ。
「サイ、私……」
「フレイ、元気で。地上で会おう」
「サイ!」
サイとフレイも慌てて別れ、フレイは他の避難民と共に連絡艇へと向かう。
フレイは立ち去る時、キラの胸倉を掴んで罵る。
「あんたたちが攻めて来なければ、こんな事にならなかったのよ!」
フレイはキラに捨て台詞を吐いて行った。
キラはフレイの言葉に傷ついたが今自分がやるべきことをやらないといけない。
格納庫へ向かう途中でまた振動が響く。
アークエンジェルは旗艦の隣なのに何故直接攻撃されてるんだ。
その疑問の答えはすぐわかる事になる。