【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第36話 ブリッツ強襲
智将ハルバートン提督が率いる第八艦隊は大混乱に陥っていた。
旗艦アガメムノン級戦艦メネラオスを筆頭にネルソン級宇宙戦艦が16隻、ドレイク級宇宙護衛艦などが輪形陣を組む大艦隊の中心で修理されていたアークエンジェルが奇襲攻撃されたのだ。
「何が起こっている!?状況を報告しろ!!」
「アークエンジェルを修理中の工作艦ネルチンスクにビームの直撃をうけました!!X207ブリッツの攻撃です!!」
「ミラージュコロイドか。直ちに迎撃せよ!!アークエンジェルを守れ!!」
ハルバートン提督の命令で緊急発進したMAメビウスが一斉にブリッツに迫る。
その攻撃をかわしながらニコルは工作艦ネルチンスクにビームライフルを次々打ち込んだ。
これは陽動だと知将ハルバートンにはわかったが、アークエンジェルを沈められては元も子もない。
当然次はクルーゼ隊が第八艦隊へ総攻撃をしかけてくる。
それがわかっていてもMAメビウスしか持たない第八艦隊は、輪形陣でアークエンジェルを守りつつ戦艦の主砲でMSに対処するしかない。
圧倒的戦力差の前では知恵の出しようが無かった。
その様をクルーゼはほくそ笑みながら見つめる。
「ニコルの攻撃で混乱しているな。流石のハルバートンでもアークエンジェルに直接奇襲されては対処できんらしい。時間だ、MSを出撃させろ」
クルーゼの命令に従い、イージス、デュエル、バスターとジンが次々と発艦していく。
第八艦隊のMAはニコルのブリッツを落そうと必死になっていたので対応が遅れた。
イージスの攻撃でネルソン級戦艦フィッシャーが機関部を破壊され行動不能に陥った。
フィッシャーにヴェサリウスから120㎝単装高エネルギー収束ビーム砲が発射され、直撃を受けたフィッシャーが轟沈した。
「アスランは甘いな。敵は確実に殺さないとまた武器を持って向かってくるぞ」
そのままヴェサリウスとガモフ、増援のローラシア級一隻。
合計16機のMSが第八艦隊に襲い掛かる。
クルーゼ隊に選ばれたパイロット達は技量が違った。
出撃したMAメビウスが次々と落とされる。
ハルバートンはブリッツにばかり戦力を割く訳にはいかず、ブリッツには対空バルカン砲イーゲルシュテルンで対処せざるをえなくなった。
「イーゲルシュテルンではニコルは落とせんよハルバートン」
クルーゼが今回の作戦を立案した時、死地に入るニコルが二つ返事で承諾したのは意外ではなかった。
ザフトアカデミーでクルーゼが見た戦術シュミレーターで、ニコルがイーゲルシュテルンの弾幕を易々と突破した事を思い出していたのだ。
作戦は単純で、ニコルのブリッツが修理中のアークエンジェルを奇襲し地球艦隊の目を引き付けている間にMSで強襲するというものだ。
この作戦はニコルがどれだけハルバートンの注意を引き付けられるかにかかっていた。
10分ほど時間を稼いでくれたらクルーゼには十分だったが既に15分。
ニコルには被弾すれば直ちに戦線離脱を命じていたのだが、ブリッツには傷一つ無い。
「ニコルは予想以上の技量だな。アデス、このまま直進。MSの攻撃を援護する。今日こそ足つきを仕留めるぞ」
クルーゼは勝利を確信したが、アークエンジェルを逃がしては意味が無い。
第八艦隊を失っても地球の国力なら艦隊など幾らでも再建できる。
局地的な艦隊戦で勝っても戦略的に意味が無い事をクルーゼは知っていた。
◆◆◆
「何よ何よ何がどうなってるのよ!?」
アークエンジェルの廊下をフレイが走っていた。
途中で泣いていた女の子の手を取って連絡艇のいる格納庫へ向かう。
そこには連絡艇に乗れず騒いでいる民間人たちがいた。
その民間人のなかに女の子の母親がいたらしく、フレイの連れている女の子を抱きしめてフレイに何度もお礼を言う。
「いえ、そんなのいいんです。それよりこれは?」
「戦闘が始まって連絡艇が発進できないらしいのよ。これじゃ私達、地球に降りられないわ」
「そんな……」
フレイが立ち尽くすと別の兵士が大声で指示する。
ここは危険だから戦闘が終わるまで、安全な隔壁がある艦内に退避という指示だった。
フレイは他の民間人と共に近くの部屋に避難した。
そして部屋の隅っこで膝を抱えて座り込む。
フレイには理解できなかった。
なぜこんな事になっているのか?
戦争なんて知らない、今まで平和なコロニーに住んでいたのだ。
なのにいきなり戦場に連れてこられて何が何なのかわからない。
(なんで私達がこんな事に)
そう思うと涙が出てきた。
フレイは泣きながら床を見ると、先ほどの女の子がハンカチを手にして不安そうにしていた。
「お姉ちゃんこれ」
そのハンカチを見た時フレイは自分が泣いていた事を思い出す。
女の子の手は震えていて泣きたいのを我慢している事に気が付く。
「大丈夫よ。お姉ちゃんの友達が守ってくれるから」
きっとサイが守ってくれる。
そしてキラ、あの子もいる。
「なんであんなコーディネイターに頼らないといけないのよ」
フレイは女の子を抱きしめて泣いていた。
◆◆◆
ニコルはブリッツを駆りながら、イーゲルシュテルンの弾幕をよけて工作艦ネルチンスクに攻撃を集中していた。
アークエンジェルは堅いが工作艦が爆沈すれば無傷では済まない。
ネルチンスクは意外と堅かったが、ビームライフルを一点に集中する事で亀裂が走る。
アークエンジェルからストライクとメビウス・ゼロが出撃して来なかったのが意外だったが貴重なチャンスだと思い攻撃を集中する。
その時ようやくネルチンスクがアークエンジェルから切り離され退避する。
直後ネルチンスクが爆発した。
アークエンジェルが激しく揺れる。
だがアークエンジェルに損害はない。
ここまでは想定内だった。
ネルチンスク轟沈の爆発に紛れて、ニコルはブリッツのミラージュコロイドを発動させて、アークエンジェルのモビルスーツ発進口の近くへと忍び込む。
「このままじゃやられます!!出撃させてください!!」
「仕方ないわ。キラ君戦闘は10分だけよ。10分したら地球へ降下シークエンスを開始します」
「わかりましたキラ・ヤマト。ストライクガンダム発進!?」
発進しようとしたキラのカタパルトが緊急停止してキラは前のめる。
そしてミリアリアの叫び声がした。
「待ってキラ!!ブリッツが!!」
ストライクが発進寸前に開いたカタパルトにブリッツが突入してきた。
ブリッツはランサーダートを発射したあと、ビームサーベルを手にストライクに挑んでくる。
「ニコル!?」
「いくらアークエンジェルが硬くても、内側からなら!!」
ランサーダートをシールドで受け止めたストライクにブリッツが体当たりして、そのままカタパルトに雪崩れ込む。
二機はもつれながら格納庫で対峙した。
「やめろニコル!!こんな所で戦ったら君も吹っ飛ぶぞ!!」
「覚悟は出来ています!!今日こそストライクとアークエンジェルを破壊します!!」
そう言いながらブリッツはビームサーベルを手にストライクへ切りかかった。
ブリッツは容赦なくアークエンジェル内で暴れられるが、ストライクは迂闊に動くことができない。
ストライクはブリッツの腕を掴んで抑え込もうとするが、格闘戦に慣れたニコルに押され気味だ。
ブリッツのパンチをストライクが避けた勢いで格納庫に衝突し、格納庫の壁が破壊されていく。
格納庫にいたコジロー・マードック曹長が艦橋へと通信機で繋いで叫んだ。
「艦長大変だ!!ブリッツの奴、格納庫で暴れてやがる!!」
「なんですって!?」
報告を受けたマリューは激しい振動に艦長席から転げ落ちそうになった。
そのマリューをナタルが受け止める。
「ありがとうナタル」
「いえ!!しかしこのままではアークエンジェルは内部から破壊されてしまいます!!」
「どうすればいいのよ!?」
マリューもナタルも、艦内でMS同士の格闘戦が発生した場合などのマニュアルなど知らない。
ムウもメビウス・ゼロを出撃させるどころの状態ではなくなった。
「キラ君!!兎に角ブリッツを艦外に放り出して!!そのあと大気圏に突入します!!」
「そんな事を言ったって、どうすればいいんですか!?」
接近戦はブリッツの得意な戦闘で、ニコルの技量はキラに劣る物ではなかった。
しかも自爆覚悟で突入してきたのだ。
ニコルがその気ならアークエンジェル艦内で自爆するという最悪の選択肢も選べる。
きっとニコルは躊躇なくそれを実行するだろう。
「やめてくれニコル!!僕は君と戦いたくはない!!」
「言ったでしょう!!僕達は戦争をしているんです!!アークエンジェルとストライクを地上に、アラスカに行かせる訳にはいかない!!」
「だからってこんな無茶を!!」
「無茶をしなければアークエンジェルと君を倒すことは出来ない!!僕だってキラと戦いたくは無い!!けど戦争だから仕方ないでしょう!!」
お互いにビームサーベルを手に相対するストライクとブリッツ。
大気圏突入シークエンスまであと8分