【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第37話 大気圏戦闘
アークエンジェル艦内はパニックに陥っていた。
モビルスーツが艦内で戦闘中など、民間人どころか軍人でも未経験だ。
ニコルは自分が主導権を握っている事に満足していた。
勿論アークエンジェルが破壊されるときは自分も巻き添えになるだろう。
(それでもいい)
ニコルはこの戦争を一刻も早く終わらせたかった。
Nジャマーにより国力に多大なダメージを受け、核兵器も使えない地球はプラントに対抗できないだろう。
だから地球軍は中立コロニーでMS開発するという危険をおかしてまでMSを手に入れようとした。
ストライクが量産されたら地球軍が優位に立つのは間違いない。
敗北したプラントはどのような扱いを受けるだろう。
核ミサイルを撃ち込まれたように大量虐殺されるに違いない。
『キラはニコル様が倒すべき敵ではありませんわ。ニコル様もキラもアスランも、もっと巨大な敵と戦う事になりますわ』
ラクスの言葉の意味がニコルにはわからなかった。
キラは地球軍のパイロットで自分の敵だ。
アスランの親友で、ニコル自身もキラの事が好きだ。
でも個人的感情でプラント六千万人の命を危険に晒すわけにはいかない。
ストライクを倒しアークエンジェルを艦内から破壊する。
生還できるかわからない。
最悪自爆すればいい。
(父さん…母さん…ごめん…僕のピアノ…また弾きたかったな)
◆◆◆
第八艦隊の戦況は苦戦から崩壊に変わっていく。
もはやこれまで。
アークエンジェルが大気圏へ降下するまで持ちこたえる。
ハルバートン提督はいまだに降下に入らないアークエンジェルを呼び出す。
「何をやっている!!第八艦隊はもうもたんぞ!!」
「それがブリッツが艦内に侵入して、戦闘中です!!」
「なんだと!?しかしこのままでは降下ポイントがずれてどこに降りるかわからんぞ!!」
「わかっています!!」
「兎に角急げ!!全力で援護する!!」
スクリーンからハルバートン提督が消え、マリューは頭を抱えた。
艦内に突入したブリッツをなんとかして艦外へ出さなくてはならない。
ブリッツに投降を呼びかけるか?
そんな方法で大人しくなるなら突入なんてしてこないだろう。
最初から自爆覚悟の敵が投降なんてする筈がない。
「ダメージコントロールに集中して!!ブリッツを艦外へ出したと同時に大気圏へ降下します!!」
「しかしそれでは降下ポイントが大幅にずれてしまいます!!」
「他に方法はないの!!」
一刻も早く大気圏へ降下しなくてはならない。
今はキラだけが頼りだった。
マリューはインカムごしにキラに呼びかける。
「キラ君!!多少のダメージではアークエンジェルは沈まないわ!!荒っぽくてもいいからブリッツを叩き出して!!」
「キラ!!キラ!!急いで!!あと四分しかないの!!」
マリューとミリアリアの叫び声に時間が無い事を察したキラはブリッツに体当たりする。
体当たりされたブリッツがストライクの頭を掴み蹴り飛ばした。
格納庫にストライクが叩きつけられて一瞬動きを止めた。
「キラ!!ごめん!!」
ニコルがビームサーベルを抜いてストライクのコクピットを狙って振り下ろす。
だが、その瞬間、ストライクの頭部からイーゲルシュテルンバルカン砲が発射されブリッツの装甲に穴を開けた。
「なっ!?」
咄嵯に身をかわすものの至近距離からの機関砲を避ける事は出来ず被弾してしまう。
被弾にに巻き込まれ機体が大きく揺らいだ。
「うあぁぁあああっ!!」
衝撃に耐えきれず悲鳴を上げる。
「キラァァァ!!」
それでも尚、ビームサーベルを振るいストライクのコクピットを狙って振り下ろすが、それはコクピットを掠めただけだった。
ニコルはスラスターを吹かして離れる。
そして、そのまま反転すると再び攻撃を開始した。
「このぉおおっ!!」
今度は回避行動を取りながらシールドでイーゲルシュテルンを防ぎつつ体当たりしようとする。
しかし、それすらも読まれていたのか、素早く移動されて避けられてしまう。
「流石だねキラ!!」
ニコルはキラの力量に心の中で賛辞を贈る。
まるでこちらの動きが全て見えているようだ。
このままアークエンジェルを大気圏に突入させる訳にはいかない。
ニコルは覚悟を決めた。
レバー横のキーボードを操作し、自爆プログラムを起動させる。
「やめろおおお!!」
ストライクが腕を振り上げてブリッツを掴み艦外へ放り出そうとするがニコルは耐える。
その瞬間、紙で作られた花がニコルの視線を掠めた。
慌てて花が漂ってきた方向を見ると、隔壁のガラス扉の向こう側で女の子が恐怖に引きつった表情でこちらを見ていた。
長く赤い髪をした女の子。
ニコルと同じ年くらいの女の子だろうか?
ニコルは慌てて自爆シークエンスを止める。
そしてストライクへ向き直った。
「キラどういうことだ!!なぜ民間人がアークエンジェルに乗ってるんだ!?」
「ヘリオポリスから逃げ遅れた人たちだ!!ずっとこの艦に乗っている!!」
「そんな……くそっ!!」
そう叫んでニコルはカタパルトハッチへ向かう。
民間人を攻撃なんてできない。
このままではアークエンジェルごと地球へ落下してしまう。
アークエンジェルを逃せば地球軍は巨大な戦力を手に入れてしまう。
だがニコルに民間人は撃てなかった
どうすればいいのか分からず、ニコルはカタパルトハッチの前で立ち尽くしていた。
すると突然、通信モニターにキラの顔が現れた。
「もうやめようよニコル。僕は君と戦いたくはない」
「僕だってキラと戦いたくない。それに民間人が乗っている艦を沈める訳にはいかない」
そう言うとニコルは赤髪の少女を見つめる。
戦闘が終わった雰囲気を察した少女が不思議そうにこちらを見ていた。
「キラ。あの民間人の女の子は誰?」
「フレイ。フレイ・アルスター」
「そっか。キラたちはフレイのお陰で命拾いしたね」
「え?ニコル?」
「決着は地上で。次までに民間人を安全な所に避難させておいて。そうでないと僕は民間人を殺した虐殺者になってしまう」
そう言ってニコルのブリッツはアークエンジェルのカタパルトから飛び出した。
そしてアークエンジェルのカタパルトが閉まる。
◆◆◆
「アークエンジェルは直ちに降下開始!!軌道修正、機関40%、微速前進、四秒後に姿勢制御。大気圏突入限界まであと二分」
アークエンジェル艦橋ではマリューが大気圏降下の指揮を取っていた。
アークエンジェルは内と外からの攻撃でボロボロだ。
アラスカですぐに修理をしなければ。
だが降下地点が大幅にズレる事は避けられない。
格納庫内ではニコルを見送ったキラがストライクの中で恐怖に震えていた。
もしあと数秒、ニコルが民間人の存在に気が付かなければ今頃アークエンジェルとストライクはバラバラに爆散して大気圏で燃え尽きていただろう
大気圏突入開始したアークエンジェルを見ながら、ニコルは先ほど見たフレイという少女の事を思い出していた。
彼女を殺さなくてよかった。
ブリッツは落下を制御するので精一杯だ。
無事に降下できるかわからない。
だがアークエンジェルとストライクを逃がすわけにはいかない。
「また…会いたいな」
ニコルは次にアークエンジェルと対する時に、フレイが退艦している事を切に祈った。
たとえあの可憐な少女が乗っていたとしても、ニコルはアークエンジェルを逃がすわけにはいかない。
その前に自分が無事に大気圏へ突入しないといけない。
先ほどからコクピット内部の温度が上昇している。
身体が燃えたように熱い。
『キラはニコル様が倒すべき敵ではありませんわ。ニコル様もキラもアスランも、もっと巨大な敵と戦う事になりますわ』
ブリッツの降下プログラム最後の設定を終えたあと、ニコルは意識を無くした。
ラクスの言葉の意味を知りたいと願いながら。