【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第39話 歩み寄る二人
この手口と叫びでブルーコスモスだと判断したニコルは拳銃を構え"狙撃"した。
ニコルの撃った弾丸が襲撃者の手を貫通し、襲撃者は短機関銃を取り落とす。
ニコルはそのまま地面を蹴り、手を撃ち抜かれた襲撃者に体当たりした。
「ぐわっ!!」
悲鳴を上げる襲撃者が路地裏に倒れ込むと、すかさずその頭に拳銃を突きつける。
そして躊躇せず引き金を引いた。
乾いた銃声がしたあと、ニコルは襲撃者が持っていた短機関銃を奪い襲撃者に射撃する。
その頃には反撃したバルトフェルドとその部下たちがブルーコスモスの襲撃者を返り討ちにしていた。
キラが蹴り飛ばした最後の一人に、ニコルが拳銃を突き付ける。
「この襲撃を命じたのは誰ですか?」
「言うと思うかコーディネイター」
「そうですか」
ニコルが拳銃の引き金を引こうとする前にバルトフェルドが最後の一人に拳銃弾を打ち込む。
男は口から血を吐きながら「青き清浄なる世界のため…」と呟いて絶命する。
ニコルはカガリを庇って立つキラに向かって歩く。
直接会ったのは宇宙での事なので顔を確かめた訳ではない。
ただ襲撃者の銃撃をかわし、一人を蹴り飛ばしてカガリという少女を守った体術を見て確信していた。
「君はキラ・ヤマト君だよね」
「どうして僕の名前を知ってるんだ?」
「僕はニコル・アマルフィ。会いたかったよキラ」
そう言ってニコルはキラに拳銃を突き付けた。
緊張と恐怖で身体をこわばらせるキラとカガリ。
周りは叫び声と悲鳴と怒号が飛び交っているが三人のいる場所だけ音がしないかのように緊張が走る。
沈黙。
ニコルはキラの心臓を狙っている。
キラはカガリを庇いながら、殺されるかもしれない恐怖に顔を引きつらせる。
ニコルは迷っていた。
ここで引き金を引くべきなのはわかっている。
キラを殺せばアスランはきっと悲しむだろう。
それでもキラを殺すのが正しい。
兵士としてはそれが正しい。
(───殺したくない)
ラクスを解放してくれたキラ。
(───殺したくなんか)
自分を信じてくれたキラ。
(───殺したくなんか無いんだ)
戦争に巻き込まれた民間人を守る為に戦ってきたキラ。
アスランの親友で、短い間に深く知り合ったキラ。
(───この引き金を引け、引くんだニコル)
だがニコルは拳銃の引き金を引くことはできなかった。
沈黙するニコルを見つめ、喉をカラカラに乾かしたキラがニコルに告げる。
「僕は───君の敵じゃない」
それが命乞いの言葉ならニコルは躊躇せずに撃てただろう。
だがキラの瞳は澄んでいた。
本気でそう信じているのだ。
拳銃を突き付けられても、まだ敵じゃないとキラは言う。
『キラはニコル様が倒すべき敵ではありませんわ。ニコル様もキラもアスランも、もっと巨大な敵と戦う事になりますわ』
ラクスの言葉がニコルを迷わせる。
もっと巨大な敵とは何なのか?
もしここでキラを殺せば全て解決するのだろうか。
「───フレイは」
「え」
「───民間人は無事に下船させたのでしょうね?」
ニコルは赤毛の少女の事を思い出していた。
あの可憐な少女と民間人が乗っていたら、アークエンジェルを沈められるのだろうか?
ニコルは葛藤する。
軍艦に乗っている以上、たとえ民間人でも撃つ事は出来る。
無論そうしなければならない。
だがフレイが消し飛ぶ姿を想像したら決心が鈍る。
(───今更何を言っているんだ。僕の手は血に汚れている。今更善人ぶって何がしたいんだ)
ニコルが思いとどまっていると、チリソースとヨーグルトソースで身体を汚したカガリが叫ぶ。
「ザフトの勢力圏内で民間人を降ろせる訳がないだろ!!」
その通りだった。
まだ公にされていないが、ナチュラルの捕虜の虐殺が既に発生していると聞いている。
遠からずナチュラルの民間人への虐殺も発生するだろう。
この世界は狂い始めている。
民間船への攻撃も激しくなってきた現状で砂漠に降ろす訳にもいかない。
水や食料や弾薬も必要だろうに、どこかから調達したのだろうか?
「───僕がキラの敵じゃないなら、キラは僕の何ですか?」
ニコルは悲しみの瞳でキラを見つめる。
キラは答えない。
答えが見つからないのだろう。
命乞いで咄嗟に言った言葉ではないのはニコルにもわかる。
だから引き金を引けない。
もっとずる賢い相手なら躊躇なく撃てるのにとニコルは思った。
「あ~ちょっとそこの少年少女達。積もる話は場所を変えて行わないか?」
そう言ってバルトフェルドがニコルの持っていた拳銃を指で掴み射線からキラを離させた。
ニコルもキラもカガリも極度の緊張でバルトフェルドの存在を忘れていたのだ。
バルトフェルドが完璧に殺気を消していた事も大きい。
その言葉を聞いたカガリが激昂して言う。
「そんな事はどうでもいい!!」
いきなり初対面の少年に拳銃を突き付けられたカガリはニコルとバルトフェルドを睨みつける。
「おいおい君はヨーグルトとチリソースまみれじゃないか。命の恩人にそんな恰好で帰らせる訳にはいかないな。それにここで決闘は困る」
そういってバルトフェルドはニコルの顔を見つめ、凄みのある笑みを浮かべた。
「殺すのはいつでもできるだろう?」
「…………」
バルトフェルドの言葉を聞いて、ニコルは拳銃を下ろした。
ニコルの葛藤をみてバルトフェルドが助け舟を出してくれたと気づき、ニコルはバルトフェルドに感謝する。
「いい子だ」
そう言ってバルトフェルドはニコルの頭を優しく撫でたあと、ジープを手配する。
すぐにバルトフェルドの部下がジープを持ってきた。
バルトフェルドはそのジープを自分で運転する。カガリを助手席に乗せ、後ろにニコルとキラを乗せたジープが走り出す。
とても気まずい。
ふと視線をキラに向けると、当然キラは身構えていた。
だがもう拳銃を突き付けるような事をニコルはしないという確信がキラにはあった。
手配したジープでニコルとキラとカガリを乗せて司令部として接収しているホテルへ向かう。
彼の住むホテルは真ん中に噴水があり、草花が整えられて刈込がされており護衛の兵士とジンが整列していた。
その光景を見てカガリは唖然とする。
カガリたちは毎日熱砂の砂漠で寝泊まりしているというのに。
自分たちは相手にもなっていない。
これが厳然たる事実だった。
「おかえりなさいませ」
整列した兵士がバルトフェルドに敬礼する。
その兵士たちに軽く手を振り挨拶を返すバルトフェルド。
そこに赤毛のまだ若い兵士が駆け寄る。
「隊長!!ブルーコスモスに狙われたと聞きましたが」
「聞いてる通りだよ。この子たちのお陰で助かった」
そう言ってバルトフェルドはニコルとキラとカガリを紹介する。
「ですからあれほど護衛を付けてくださいとですね!!」
「客人の前だぞダコスタ君。その話は後で聞くから」
そう言ってダコスタを下がらせるとバルトフェルドは客間に三人を通す。
そこには怪しげな美人でバルトフェルドの愛人アイシャが待っていた。
「アイシャ。この子の服なんだが頼めるか?」
「あら、ケバブね。着替えるからこちらにいらっしゃい」
そう言ってアイシャはカガリをシャワールームに連れて行こうとする
「いや私は別にいい」
「駄目よ。綺麗な髪が汚れたままなんてもったいないわ」
「キ、キラ」
カガリはキラに助けを求めるがキラが助けに入る前にアイシャがカガリを連れ去ってしまう。
応接間にはバルトフェルドとニコルとキラだけが残った。
「まずはコーヒーでもいかがかね。ボクはコーヒーには自信があってね」
そう言ってキラとニコルにソファーに座るように勧めたあとで白磁のコーヒーカップにコーヒーを注ぐ。
ニコルはキラの対面に座る。
コーヒーが運ばれてくる間、キラとニコルは無言だった。
訳が分からぬままコーヒーカップに口づけて苦さに辟易するキラと、優雅な仕草でコーヒーの香りを楽しみながら口づけるニコルにバルトフェルドは優しく微笑む。
「流石アマルフィ家、作法が行き届いているな。キラ君には大人の味は少し早かったかな」
「それで僕達をこんな所に連れてきてどうするつもりですか?」
キラが警戒心を露わにして言うとバルトフェルドはにこやかに笑う。
「言わなかったかい?君に命を助けてもらったお礼と可愛い彼女を綺麗にするためさ」
そんな事の為にわざわざ自分の城に招く酔狂な人ではないだろう。
キラが警戒感を露わにする。
そんなキラをニコルが罪悪感が入り混じった辛そうな瞳で見つめていた。
キラはニコルに先ほどまで拳銃を突き付けられていた事を思い出した。
ニコルがその気ならキラとカガリは殺されていただろう。
ニコルがその気になったら素手でもキラを殺せるはずだ。
キラは運動神経が良いとはいえ、正規の訓練を受けたニコルに格闘技で及ぶはずもない。
「君たち。ボクの部屋で殺し合いをするのはこれを見てからにしてほしいね」
そう言ってバルトフェルドが指さした先にあったのは───誰もが一度は見た事がある胴の半ばから翼の骨格が突き出した化石。
Evidence01と呼ばれる宇宙鯨の化石の複製品だった。
本物はプラントが保有していて地球とプラントが平和な時は観光客がツアーで訪れた事もある。
「ボクはね。キラ君とニコル君が争う原因がこの石ころにあると思うんだ。あ、コーヒーのお代わりいるかい?」
「いえ、僕はもう」
「いただきます。とても美味しいコーヒーですね」
「そうだろうそうだろう。コーヒーの味がわかるニコル君は出世するぞ。いや既に赤服だから将来は最高評議会議員と言う所かな」
そう言ってバルトフェルドは上機嫌でニコルにお代わりのコーヒーを煎れる。
バルトフェルドはこの二人にナチュラルとコーディネイターが共に歩む未来を見た気がした。