【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
殺伐とした話が好きな方には退屈かもしれませんが。
こういう日常を壊すのがガンダムSEEDという作品の醍醐味でしょうか。
本編でもキラとトールの友情物語とか見て見たかったです。
第4話 ハロ
あの喧嘩騒ぎ以来さらに親しくなったニコルとアスランは大体一緒にいる事が多くなった。
先日の喧嘩騒ぎで叩きのめしたグループは、周りからもよく思われてなかったようでニコルとアスランはちょっとした英雄扱いだ。
アスランがまったく女性に興味がない様子に見えるのでニコルとアスランは同性愛者だという噂も流れている。
無論ニコルは異性愛者である。
ただ美少女と言っても通用しそうな可愛らしい顔立ちなのでそう思われている。
アスランみたいに若くして婚約者がいるのは遺伝子の相性が良い者同士で結婚しないと子供ができにくいからだ。
ニコル達のように両親がコーディネイターは2世と呼ばれ子供ができにくい。
だからお互いの遺伝子で相性の良いもの同士を結婚させるという方法を取ることもある。
アスランはプラント評議会国防委員長のパトリック・ザラの息子で、ラクス・クラインは最高評議会議長のシーゲル・クラインの娘。
絵にかいたような高貴な美男美女で政治的な意味合いも強い。
ニコルの父親も評議会議員でモビルスーツの開発と生産を行う重要な地位にある。
当然ニコルも婚約者の選定が行われているがニコルは遺伝子で伴侶を選びたくないと思っている。
小賢しい青二才だと笑われてもニコルは好きな人と結婚したい。
それに結婚相手はナチュラルでもいいと付け加えれば、小賢しいどころか裏切り者扱いされるのが今のプラントだ。
人を愛するのに遺伝子を選択材料にするなんて馬鹿げてると思う。
自分達は子供を産むための道具じゃない。
でも立場という物がある。
アスランはアスランなりにラクス嬢と親密な関係を作りたいと努力しているのが見て取れる。
こういう生真面目で誠実なアスランを知っている人はあまりいないかもしれない。
ニコルが女性だったらアスランはこういう性格面を見せてくれなかっただろう。
アスランがラクス嬢の事を好きなのかはわからないけど、誠実に接しようとしているのはよくわかる。
そのアスランはニコルの目の前でハロと名付けられた丸い手乗りボールみたいなロボットを作っていた。
「ラクスがハロを気に入ってくれて」
とアスランは言うから微笑ましく思っていたけどそのハロ君は何体目なのだろう?
ハロ職人で生計を立てるつもりだろうか?
アスランが口下手なのは知っていたけど、ここまで凝り性だとニコルは思わなかった。
「少し休憩したらどうですか?」
そう言ってニコルはテーブルにお茶とお菓子を用意しておく。
ニコルが用意したお茶とお菓子を食べる時、年相応な表情をするアスランを見ていると、ニコルが女性だったらアスランに好意を抱いたはずだと思う。
アスランは真面目で誠実で義理堅くて口下手で頑固で凝り性で扱いにくい人物だ。
よほど母性に溢れた心の広い女性じゃないとアスランと相性が合わないと思う。
男性に生まれた自分にその機会は無いけど、アスランの事を理解して愛してくれる人がいれば嬉しいとニコルは思う。
アスランもそんな女性なら添い遂げようとするだろうし。
アスランは浮気とかしないだろうから逆に言えば好きな人が出来ても婚約を破棄したりはしないだろう。
婚約者のラクス嬢がアスランの事を受け止められる母性に溢れている事をニコルは願う。
「いい加減レパートリーが尽きて来た」
「それはまあ、あれだけ作れば仕方ないでしょう」
レパートリーと言ってもミトメタクナイとかアスランの笑いのツボはよくわからない。
本人は真面目にラクス嬢を笑わせたいのだろう。
───多分。
ラクス嬢が心の広い女性であることをニコルは心の底から願った。
「もうレパートリーが尽きたなら別の種類の言葉を選んではどうでしょう?」
「別の種類?」
アスランがティーカップに口づけながら笑顔で返してくる。
控えめに言って可愛い。
ニコルが女性だったら絶対アスランに好意を抱いてるだろう。
「例えば方言とかどうでしょう?」
「───方言か。よしそうしよう。ありがとうニコル」
そう言ってアスランが選んだのはオコルデシカシとナンデヤネンだった。
───ラクス嬢が心の広い女性であることをニコルは心の底から願っている。
「ニコルにも一つ作ろうか?」
「是非お願いします」
アスランがニコルのハロを作ってくれることになった。
色は緑色にしてもらう。
「教える言葉はどうする。入れたい言葉はあるか?」
「そうですね」
ニコルはクッキーをかじりながら考える。
本当はセンソウハンタイとかヘイワヘイワとか入れたいけど流石にそれは軍人としてどうかと思う。
そして考え付いた言葉が。
「ダイスキでお願いします」
「変わった趣味だな。わかった」
ナチュラルもコーディネイターもお互いを理解しあえればいいという願いを込めた。
『ニコルダイスキ、ニコルダイスキ』
「ありがとう。僕もハロが大好きだよ」
ニコルの愛玩ロボになったハロは元気に飛び跳ねている。
ナンデヤネンとオコルデシカシはラクス嬢に届いたころだろう。
是非感想を聞いてみたい。
ラクス嬢ことラクス・クラインはプラントの歌姫として有名でニコルも彼女のファンの一人。
とても美しい澄み渡るような歌声で奏でられる彼女にときめいたのはニコルだけではないだろう。
特に『水の証』という歌がニコルは一番好きだ。
アスランとラクス嬢の結婚式で水の証のピアノバージョンを弾いてみたい。
その前にアカデミーを卒業してこの戦争を生き残ろうとニコルは思う。
「このままいけばアスランの首席卒業はほぼ間違いないですね」
「どうかな。イザークが追い上げて来ているから油断は禁物だ」
「僕が知る限りアスランに油断というのは無いと思いますよ」
ニコルとアスランは卒業前の最終試験に臨むべく勉強を続けていた。
血のバレンタイン。
アスランのお母さんを含む24万人が殺されてザフトに入ったのが昨日のようだ。
戦時だから大幅に短縮されたアカデミーでの教育期間もあと少しで修了。
卒業後はそれぞれの隊に配属されて、アスランと会えるのも最後かもしれない。
ニコル達は軍人でいつ死ぬかわからない。
だからアスランが直接指導してくれた座学も戦闘訓練も頑張ってきた。
自分でもこんなに成長するなんて思っていなかった。
「卒業したらお別れですね」
「そうだな。多分別々の隊に配属されるだろう」
「アスランから貰ったハロを大切にします」
「会える機会がもう無いみたいに言わないでくれ。俺もニコルと会えなくなるのは寂しいんだ」
ニコルとアスランは揃って試験会場へ向かう。
前世でニコルとアスランは同じクルーゼ隊に配属されるが今はわからない。
この結果次第で将来が変わる。