【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。   作:屠龍

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今回は少し重めです。ナチュラルでは到達できない先へ向かうという目標を思い出させる話ですね。そして相変わらずニコル君が自分の罪深さを再認識する話でもあります。普通は民間人だと思って撃てませんよね。それをベトナムで強制させたら精神病んだ兵士が続出したのが答えですし。キラもニコルもつくづく戦争に向いてないと思います。あとSEEDだとカガリが一番好きですが、初見でゲリラやってるのを見て『何やってるんだこの子』と思った思い出があります。


第40話 宇宙鯨

 第40話 宇宙鯨

 

 Evidence01

 人類最初のコーディネイター、ジョージ・グレンが木星から持ち帰った地球外生命体の証拠(Evidence)と言われている。

 鯨の骨格に翼のような骨がある化石で、外見が鯨で翼が生えていたのかは全く不明。

 ただ一つだけ確実なのは地球外にも生命が存在していたという証拠だ。

 この化石を見てどう思うのか。

 

 『実物が見たい』

 

 殆どの人がそう思うのではないだろうか?

 だが遺伝子改造していない人間に外宇宙の世界は過酷すぎる。

 ジョージ・グレンもすぐには無理だとわかっていた為、コーディネイターの住むプラントで実験を繰り返しながら外宇宙への探索に人類を導こうとした。

 その彼を暗殺した少年は永遠に宇宙へ旅立つことが出来ないと知ったナチュラルの少年だった。

 

 「楽しくもやっかいな存在だよねこれも」

 

 「やっかい、ですか?」

 

 「だってこんなものを見つけちゃったら希望───っていうか、可能性を信じちゃうでしょ」

 

 そう言ってバルトフェルドはコーヒーをすすった。

 どうやらこれを種に話をしろという事らしい。

 そう察したニコルはキラに向き直る。

 

 「最初に言っておきますが、僕はナチュラルを差別する気なんてありません。僕は元々ピアニストで過去のナチュラルが作った曲を演奏し、人々に喜んでもらえる人生を歩みたかった」

 

 ニコルはそう語りだす。

 この戦争が無ければ今でもピアノを弾いていた筈だ。

 

 「でもニコルは戦場で人を殺してるじゃないか」

 

 キラの言葉にキラを正面から見つめ頷くニコル。

 それは認めなくてはいけない。

 自分は人を殺しているという自覚を無くす訳にはいかない。

 仕方ないとはいえ人を殺すのは辛い。

 戦場に立つというのはそういう事だとニコルは知っている。

 

 「キラだって人を殺してる。そうでしょう?」

 

 「僕だって好きで戦ってない!君たちが襲ってくるから!」

 

 「僕だってそうですよ。地球軍がプラントに襲い掛かってきたから戦っている。ユニウスセブンで沢山の同胞が殺されたから戦っている。普通に生きて恋をして結婚をして家庭を築いて死ぬ。それが許されないなら戦うしかない」

 

 「それじゃ僕達はいつまで戦えばいいんだ!?」

 

 ニコルもキラも戦争の行方なんてわからない。

 考えもしなかった。

 毎日戦って生き延びるのに必死で考える余裕もない。

 まして宇宙鯨とその先へ続く未来なんて考えもしなかった。

 ニコルもキラもカガリもアスランも、みな中学生か高校生くらいの多感な年齢なのだ。

 人生で最も華やかな時期を戦争に費やしている。

 宇宙鯨を見て夢を膨らませてもいい年齢なのに殺し合いをしている。

 もしこれが平和な時代ならニコルは音楽を、キラは機械工学を楽しんでいただろう。

 やっとバルトフェルドの仲介でお互いコーヒーを飲み話す機会を得たのだ。

 平和な時代ならアスランの紹介で、楽しく話し合い笑いあい共に生きていけた二人。

 とても良い親友になれた筈の二人は何度も戦場で銃を向けあった。

 

 「いつまでなんて……僕にわかる筈が無いじゃないですか」

 

 ニコルがキラに面と向かって答えを返す。

 どこかで折り合いを付けなければならない。

 誰が話をするのだ。

 どのように折り合いを付けるのか。

 核ミサイルを撃ち込んだ相手と、どうやって和解する?

 双方多大な犠牲者を出し、疲れ果てた先にしか未来が無いのかもしれない。

 

 プラントでは穏健派のシーゲル・クラインがユニウスセブンへの報復で、全面核戦争を行おうとした過激派のパトリック・ザラを押さえ、地球も国連事務総長が和平に動き尽く失敗した。

 政治家たちでさえこの戦争の幕引きができないのだ。

 最前線にいる少年少女に銃を向けあう以外何ができようか?

 

 二人が沈黙し部屋に備え付けの柱時計の秒針の音だけが辺りに響く。

 ドアがノックされて開きアイシャが入ってくる。

 その後ろにカガリが隠れるように立っていたがアイシャがカガリを前に押し出した。

 カガリは金髪を結い薄化粧を施され裾の長いドレスに身を包んでいた。

 

 「おんな…の子…」

 

 キラが思わず呟き、カガリがキラに怒鳴りかかろうとした時だ。

 

 「カガリ・ユラ・アスハ?」

 

 そう呟いてからニコルはしまったと後悔した。

 前世でのニコルはこの時カガリの顔を知らなかったはずだからだ。

 自分の名前を呼ばれたカガリが一瞬だけ呆気にとられた後、ニコルに詰め寄る。

 

 「お前、なぜ私の事を知っている!!」

 

 「……」

 

 ここで映像で見たとか事前情報で各国の関係者は全て覚えていると言えば誤魔化せるだろうかと一瞬だけ考えたが、カガリの獅子のような瞳は全てを見通しそうで逆上させるだけだと判断した。

 

 「オーブ連合首長国のアスハ家の姫で現首長ウズミ・ナラ・アスハの娘カガリ・ユラ・アスハですね」

 

 「お前何者だよ!答えろ!!」

 

 自分の正体をあっさり見抜いたニコルにカガリは詰め寄るが、次の言葉に足を止めざるを得なくなった。

 

 「オーブが中立を宣言しながらヘリオポリスで地球連合と一緒に極秘裏にMSを開発していた事くらいの事は知っていますよ」

 

 「な!?」

 

 「キラ。僕達ザフトが中立コロニーのヘリオポリスを攻撃したのも、元はと言えばオーブがMS開発なんてしてたからですよ」

 

 オーブが中立を宣言したならそれを守るべきだったのだ。

 だが、それをしなかったばかりか、プラントに対して秘密裏に新型MSを開発していた事で中立コロニーを攻撃された。

 無論中立のヘリオポリスを攻撃し破壊したプラント側の責任が許される訳ではないが、オーブにも責任の一端がある。

 そしてその責を負うべき人間の一人が目の前にいる。

 オーブ現首長の娘のカガリも無関係ではない。

 カガリは自分の足元が崩れ落ちていくような感覚に襲われた。

 キラを戦場に立たせた責任はカガリにもあるのだ。

 カガリ個人は全くの潔白だがオーブの姫という地位がある。

 たとえそれがオーブの五大氏族サハク家の独断だとしても。

 

 「オーブはなにがしたかったんですか?中立というなら最後まで中立を守ればいいのにプラントと地球の対立を煽って、あげく貴女はゲリラごっこですかカガリ姫」

 

 「ゲリラごっことはなんだ!!私は真剣に戦っているんだぞ!!」

 

 そう言ってカガリはニコルに殴り掛かる。

 ニコルはカガリの拳を難なく受け止める。

 一見して優男に見えるニコルの腕に阻まれて動けない。

 ニコルがカガリを睨みつける。

 

 「これが遊びでなくて何ですか?こんな細腕で何ができます?」

 

 「黙れ!!」

 

 カガリはもう一度殴ろうとしたがキラに腕を掴まれて止められた。

 

 「ニコル!!カガリもやめるんだ!!」

 

 「離せキラ!!離せ!!」

 

 キラがカガリをニコルから離そうとするが、カガリは怒りが収まらない様子でニコルを睨みつける。

 ニコルはカガリを捉えていた手を離した。

 カガリの瞳には涙が浮かんでいて、ニコルは自分が女の子を泣かせてしまった事に罪悪感を覚えた。

 

 「すみません。言い過ぎました」

 

 そしてニコルはカガリに頭を下げる。

 ニコルもカガリの事が憎いわけではない。

 ただオーブの態度には腹が立っていた。

 ついカガリに辛く当たってしまった事を恥じる。

 言いたい事は色々あるが、それはオーブの首脳陣と会えた時に直接言おう。

 そんな機会があるとは思えないが。

 

 「いや、私こそ熱くなり過ぎた。確かにニコルの言う通り戦場を甘く見ていたのかもしれない。だがニコル。お前が何故私の事を知っている?」

 

 「───それは言えません」

 

 「そうか」

 

 ニコルの言葉に追及しても無駄だとカガリは判断したのだろう。

 ニコルとカガリが双方矛を収めた後、キラが話し出す。

 

 「ニコル。僕達はいつまで戦い続ければいいんだろう」

 

 「持つ者コーディネイター。持たざる者ナチュラル。憎しみの連鎖は止まりません。このままでは」

 

 キラとニコルが考えあぐねている時だ。

 バルトフェルドが口を開いた。

 

 「そりゃあどちらかが死に絶えるまで殺し合いをするしか無いだろうな」

 

 キラとニコルとカガリがバルトフェルドの方を見ると、彼は拳銃を手に立っている。

 キラとニコルは咄嗟にカガリを庇った。

 その様子を見てバルトフェルドが拳銃を降ろす。

 

 「それが答えだ。持つ者コーディネイターが持たざる者ナチュラルを守ればいい。ナチュラルは些か不本意だろうが、能力に優れたコーディネイターがナチュラルに手を差し伸べるしかなかろう?」

 

 「待て、ニコルがコーディネイターなのはわかるがキラもそうなのか!?」

 

 「隠しておいてごめん」

 「お前そんな大事なことを」

 

 言い争いをするキラとカガリを見てニコルの心は乱れた。

 キラもカガリも人間だ。

 知ってしまっても自分は二人を撃てるのか?

 ラクスを返してくれた誠実で優しいキラを。

 真っすぐな瞳で自分を射抜いたカガリを。

 命令だからといって撃てるのか。

 

 ───無理だ。

 

 沢山の地球軍の兵士を殺して来た。

 その人たちには家族も友人も恋人だっていただろう。

 戦争だから。

 ユニウスセブンの報復だから。

 それが正しいと今まで信じていた。

 でも少しずつ心は傷ついていた。

 ニコルもキラも平気で人を殺せる者ではない。

 ヘリオポリス全ての住民が避難できたとは思えない。

 少なからず犠牲者がいたはずだ。

 避難した救命ポッドが全て回収されたとは限らない。

 漂流し窒息死した犠牲者もいたかもしれない。

  

 「……ごめん」

 

 ニコルの涙声にキラとカガリが喧嘩を止める。

 振り向いた二人はニコルが涙をこらえている顔をしているのを見た。

 

 「ニ、ニコル?」

 「お前どうしたんだよ!?」

 

 慌てる二人にニコルは涙を流し呟く。

 自分たちが行った攻撃で民間人を死なせてしまった。

 その中にはフレイのような少女もいただろう。

 親と離れ離れになって不安なまま漂流し、死んだ子供がいたかもしれない。

 こんな自分がカガリを責めれる筈がない。

 

 「キラの大切な家を、思い出を壊してしまってごめん」

 

 そう言ってキラに泣きながら謝罪した。

 自分はユニウスセブンを破壊した地球軍と同じことをしてしまった。

 ニコル自身は反対したが、ザフト軍人として作戦に参加していたのは否定できない。

 ヘリオポリスに住んでいた住民全ての家と故郷を破壊した。

 皆が持っていた喜びも悲しみも全て破壊してしまったんだ。

 今までずっと思い出さないようにしてきた。

 自分がキラ達の思い出を破壊してしまったという事を忘れようとしていたのだ。

 ラクスの言葉を思い出す。

 

 『キラはニコル様が倒すべき敵ではありませんわ。ニコル様もキラもアスランも、もっと巨大な敵と戦う事になりますわ』

 

 ニコルには自分たちが戦う相手がわかった気がする。

 ブルーコスモス?

 それは氷山の一角だ。

 憎悪と怒り、憎しみ。

 持つ者コーディネイターと持たざる者ナチュラル。

 この世界に住むすべての人が持つ感情なのだ。

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