【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第44話 最強の盾を矛に
月夜に映える日本庭園を背に、ニコルはピリピリとした腹の探り合いが始まった事を実感した。
今のニコルは公人で月夜をゆっくり眺める事も出来ないのかと内心ため息が出る。
だがここから先はプラントから来た軍事顧問として聞いておかないといけない事がある。
「ニコル殿は今回の軍事顧問についてどのようにお考えですかな」
「オーブが地球連合に味方せずに親プラント側に立って貰えるなら有益だと思います」
「ふむ。つまり今のオーブは親地球連合側だと?」
「ヘリオポリスの一件で地球連合と共同でMSを開発していたのが証ではないですか?」
ニコルは公的にも私的にもオーブの行為が許せなかった。
ヘリオポリスが破壊されたのはザフトの攻撃によるものだし、それを言い訳する訳ではない。
ニコルもそれに加担してしまった事も認めている。
だがそもそも友人のコロニーでそのような軍事機密を作らなければよかったのだ。
どこかの要塞なり基地で作ればよかった。
それならニコルもキラと友人たちが住む大切な場所を破壊しなくてすんだのに。
あの攻撃でザフトにも民間人にも犠牲者が出てしまった。
これがオーブ首脳陣に言いたかった事だ。
「なるほど。つまりこのままではオーブが地球連合の味方をすると考えているという事かな」
「そうならない事をプラントは期待しています」
ニコルもオーブがいつまでもどの陣営にも属さず独立を守れるとは思っていない。
いずれは地球連合かプラントの陣営に属す事になるだろう。
ウズミもカガリも反対するだろうがオーブが大気圏を突破して宇宙に船や物資を運べるマスドライバーを所有している以上、狙われるのは間違いない。
拒否すれば誰にも支援してもらえず戦うしかない。
オーブ軍がいかに精強とはいえ単独で勝てるとは思えない。
「確かにヘリオポリスで地球連合とMS開発を行ったのは確かですが、それも間違いだと仰られるか?」
「危険な行為だったと思います」
「しかしこれからの戦いはMSが決めると証明したのはプラント側。オーブがMSを欲して何が悪いと言うのか?」
ロンド・ギナは明らかにニコルを試している。
ニコルが自分の側か、ウズミの側か。
そもそもただの兵士でしかないのか?
ただの兵士なら御しやすい。
だが政治家の資質があるのなら警戒せねばならない。
「MSを持って何をするのかが問題なのではと僕は考えます」
「MSという道具をどう使うか、かね?」
「はい。MSは戦争の道具ですがそれは他者を刺す事も自分を守る事もできます。オーブが戦争に介入する事は理念に反すると思うので守る側に使うと僕は思いますが」
ニコルがそう言った時、ロンド・ギナの雰囲気が変わった。
まるで獲物を狙う肉食獣のような目つきだ。
その視線を受けてなお平然と見つめ返すニコルを見てロンド・ギナは笑った。
確かに面白い子だとロンド・ギナは思う。
オーブで彼の眼光を見て冷静でいられる人物は多くない。
以外に拾い物かもしれない。
「ウズミは何もわかっていない。MSという武器を持たずどうやって国を守れるというのか。理念も信念も理想も全て一度の爆風で吹き飛ぶ花のようなものだ。花は盾で守らねばならん」
「オーブは爆風に晒される花だという事ですか」
「その通り。暴風に晒されれば一瞬で消え去る、か弱い存在だ」
「でも防ぐだけでは生き残れませんよ」
そういってロンド・ギナの眼光を見通すように見つめるニコル。
いつもの温和な微笑みではない。
普通の人なら怯みそうな瞳をロンド・ギナは受け止める。
政治家ユーリ・アマルフィと同じ瞳。
温和な父親が政治家になった時にだけ見せる一面をニコルも受け継いでいた。
「僕の乗っていたブリッツには面白い武装がありまして、盾が付いていますがその盾には攻撃武器も内蔵されているんです。盾は武器にもなるというのは心配しすぎでしょうか」
ニコルに真意を見抜かれたと思ってロンド・ギナは身長も年齢も下の少年を見つめる。
オーブが持つMSは攻撃に使えば領土を強大にしたり国際地位を押し上げる事も出来る。
他国を圧倒する性能を持てば十分第三陣営を作る事もできる。
オーブの理念は美徳であり足かせでもある。
オーブという豊かなエネルギーと高い技術力という潜在能力を持つ国家が羽ばたくのを阻害している。
ロンド・ギナ達サハク家は軍事と謀略をつかさどりオーブを守ってきた。
だがその功績はウズミやカガリたち表舞台にいるアスハ家に収奪されて来たとサハク家の者は思っている。
いつかアスハ家に変わってサハク家が政治の表舞台を牛耳る。
その為のMSでありその為の闇の権力。
アスハ家に対する憎悪のような感情をサハク家は抱いている。
更にロンド・ミナ、ロンド・ギナの姉弟はMSの技術でオーブだけでなく世界を舞台に戦うという野心も持っていた。
「それは心配しすぎでしょう。盾は盾でしかない」
「それなら僕も安心して職務に励むことができます。それと僕は今日オーブの砂浜で楽しそうに遊ぶ兄妹と出会いました。オーブの平和はとても尊いと思いました。オーブの美しい花をこれからも守り続けてください」
そう言ってニコルはロンド・ギナに一礼してパーティへ戻る。
この後ニコルはパーティ会場でピアノの演奏をする事になっていた。
久しぶりのピアノにニコルは緊張しているが、先ほどのロンド・ギナとの会話の危うさにも気づいている。
オーブの盾は盾としてしか使わないのか?
盾は武器にもなるのだ。
ニコルのピアノの演奏に皆が聞きほれているころ、ロンド・ギナは不敵な笑みを浮かべていた。
あの若さでなかなかの人物じゃないか。
こちら側に引き込めればよいし、邪魔なら排除するまで。
一度機会を作ってMSで模擬戦でも申し込んでみるか。
女のような顔立ちをしているが、意外と戦いの中で答えを出す子かもしれないとロンド・ギナは含み笑いを抑えきれなかった。