【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第47話 オーブの表と裏の顔
街中での即興のピアノ弾きが上手くいった事でニコルは大変満足していた。
即興のピアノ弾きのあと、マユはますますニコルに懐き腕を組んで歩くものだからシンの視線が痛かった。
懐いてくれるのは嬉しいがシンの視線が敵意から殺意に変わらないか不安だ。
マユはニコルに憧れの感情を持っているのだがニコルの想い人は別にいる。
といっても立場的には真逆の相手なので成就する事は無いだろう。
一度会っただけ。
しかも自分は敵方のMSに乗ってキラと戦闘中という最悪の出会いをしたというのにフレイの事が忘れられない。
多分これは恋ではないのだろう。
戦場で荒んだ心に美しい花を見て魅了されただけなのだとニコルは思う。
ニコルは美人なら誰でもいいというほど惚れっぽくはない。
コーディネイターの女性は皆美しい。
ニコルは母親似の穏やかな女性が好みだと思っていたが、フレイの意思の強そうな瞳に魅了されていた。
勿論外見だけで性格がわかりはしないが。
「ニコルさんはオーブでコンサートを開いたりしないの?」
「軍務が忙しいからね」
「え~つまんない。今度コンクールがあるから出ようよ」
「そういう訳にはいかないよ」
「どうして?」
「僕はコーディネイターだからね」
コーディネイターはナチュラルより身体的にも知的にも優位なので、ナチュラルが一緒に受けるコンクールに出るのは不公平というものだ。
過去にそれをして受賞を逃したナチュラルに撃ち殺されたピアニストもいた。
プラントではコーディネイター同士なので思う存分ピアノを弾けるがオーブでは無理だろう。
「コーディネイターって別に悪い事じゃないと思うけどな」
シンがそういう。
マユとシンにはコーディネイターとナチュラル両方の友人がいるし、オーブでは普通なのだろう。
プラントと地球で起こっている問題の半分はオーブでは無縁の事のようだ。
それにニコルはこの国に遊びに来た訳ではない。
あくまでプラントとオーブの友好関係と軍事協力の一環として来ているので、時間が空いたら遊ぶくらいは許されるが基本ニコルは監視下だ。
シンとマユとの交遊も、二人の両親がオーブの軍事産業会社モルゲンレーテ社の一技術者だから許される訳で、これも仕事の一環という事で認めて貰っている。
無論二人の両親とも仕事を共にしており、今はオーブが開発しているナチュラル用OSの開発をしている。
「それじゃ僕はそろそろいくから。また今度遊ぼうね」
「ぜったいだよ。マユとの約束だからね」
「約束するよ。シンもありがとう。楽しかった」
「うんまた今度。次は家に遊びに来てくれよな」
「必ず行くよ。じゃあまたね」
シンとは今度人気小説を主題にしたゲームをする予定だ。
ニコルが驚いたのは、オーブではプラントで人気の小説やアニメやゲームなどが当たり前に売られている事だ。
そして当然地球連合の物も売られている。
平均給与は高く地熱を使った発電も行われているのでエネルギー不足とは無縁の島国。
モラルも高く街は清潔なので居心地がいいし食べ物もおいしい。
ニコルは近くの公園のスタンドでフルーツジュースを二つ買う。
南国の甘さと適度な酸っぱさが混ざり合ってとても美味しいジュースでニコルのお気に入りだ。
そして公園のベンチで少し休憩する。
隣に変装していたミオ・キサラギが腰かけた。
「ニコルさんお楽しみでしたね」
「楽しかったです。いつもすみません」
そう言ってミオに先ほど買ったジュースを一つ手渡す。
ミオは元々明るい性格で、ニコルのお世話役という立場が無ければ友達になりたいと思うくらい魅力的な少女だった。
美味しそうにジュースを飲むミオを見てニコルは幸せそうに微笑む。
「この後の予定はモルゲンレーテ社でOSの改良とM1アストレイの調整です」
「でもオーブの最高機密を僕に見せていいんですか?僕はいつ敵になるかもしれないプラントの人間ですよ」
「それが政府の方針ですので問題はありません」
政府の方針というのはプラントとオーブの駆け引きの事だろう。
それはニコルの責任の範疇を超えているが気にならない訳がない。
オーブはアスカ兄妹が戦火に巻き込まれるかもしれない綱渡りをしているのだ。
だが始まってしまったものは仕方がない。
ニコルに出来ることはナチュラル用OSを一刻も早く完成させる手伝いと、豊富な実戦経験から得たMSの操縦技術を伝える事だ。
最初こそニコルの事を女顔の美少年扱いしていたアストレイ三人娘ことジュリ・ウー・ニェンとアサギ・コードウェルとマユラ・ラバッツだったが、すぐにニコルが歴戦のMS乗りだと理解して真面目に教えを乞うている。
彼女達を中心にオーブ軍のMS部隊(予定)の訓練もニコルは担当している。
といっても肝心のMSが無いのでシミュレーターを使っての指導になるが、オーブ軍の兵士は真面目なのでみるみる練度が上がっていった。
そして今日もニコルはモルゲンレーテ社に向かった。
「エリカさんこんにちは」
「ニコル君いらっしゃい」
出迎えたのはこの工場の主任であるエリカ・シモンズだった。
M1アストレイの開発も行っている。
「今日もよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼むわよ」
挨拶を交わした二人は早速作業を開始した。
まずは機体情報の確認から行う。
『マスターファイル』
型式番号:MBF-M1
名称:M1アストレイ
ニコルは手早くキーボードを操作してプログラムチェックを行った。
コーディネイターだという事を隠していないニコルの手慣れた仕草にエリカは羨望のまなざしを向ける。
エリカ・シモンズもコーディネイターだが自身がコーディネイターだという事は秘密にしてある。
幼少時両親にコーディネイターとして能力だけを評価され、学校でも嫌な思いをした。
両親の死後、コーディネイターへの差別が少ないオーブに移住したが、ナチュラルの同僚たちの反感を買わないようにナチュラルのふりをしている。
一度うっかり本気で処理能力を見せてしまい同僚に誤魔化す事をしたくらい慎重になっている。
差別が少ないオーブでさえコーディネイターへの風当たりは強い。
だから能力を遺憾なく発揮できるニコルが羨ましいと思っている。
エリカには夫と幼い息子がいて、夫には自分がコーディネイターだと伝えているが息子にはまだ告げられずにいる。
息子がもう少し大きくなって分別がつくようになったら伝えるつもりだ。
「やはり拠点防衛用の重火力重装甲、可能ならフェイズシフト装甲を使ったMSを開発するべきではないですか?」
ニコルの進言にエリカは頷いた。
やや機体は大きくなるがその分バッテリーを増やせるし装甲と火力を増した機体をニコルから提示されているのだ。
ニコルの引いた設計図によれば、外見はザフトのバクゥに似た四本足の機体で、背中にバスターの装備している220mm径6連装ミサイルポッドと350mmガンランチャー×194mmを1門搭載している。
戦艦の主砲クラスの攻撃力と大型化したバッテリーを持ち、重量増加した機体に四本の足で支えるという設計だ。
すでにバクゥ自体の設計図は中立で友好国であるスカンジナビア王国から受け取っている。
なぜそんなものをスカンジナビア王国が持っているのかというと、ザフトと組んでバクゥを開発したという裏事情がある。
勿論情報元はニコルの父親でMS開発と設計者のユーリ・アマルフィからだったりする。
スカンジナビア王国もなかなかしたたかな生き残り方を模索していた。