【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。   作:屠龍

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今回はオーブ編で一番書きたかった話です。筆がのって4000文字になってしまいました。本来のニコルは平和な世界でピアニストとして活躍していた筈なんです。それが銃を取り沢山の人を殺す事になり、その事がニコルを苦しめ続けます。そんなニコルの人生にちょっとだけ休憩を。


第48話 ピアノコンサート

 第48話 ピアノコンサート

 

 先日のパーティでニコルのピアノを聴いたオーブの実力者からピアノのコンサートを開いて欲しいという要請があった。

 コーディネイターの自分がナチュラルと一緒に演奏するのは憚られるが、先方はそんな事は気にしないという事だった。

 あちらが気にしなくてもこちらが気にするのだけど。

 それでニコルは条件を付けた。

 

 料金は全て戦災孤児のチャリティーに使う。

 

 戦災孤児のチャリティーはニコルの譲れない条件だった。

 会場はオーブの首都オロファトにある高級ホテルの大ホールを借りる事になった。

 オーブの人たちはみんな音楽が好きで、よくコンサートに音楽を聴きに来るらしい。

 でも戦争が始まってからプラントから来る音楽家は滅多にいない。

 だからニコルに演奏して欲しいという。

 こんな時代だからこそ、みんなの為に弾こうとニコルは気合を入れた。

 

 護衛の兵士を連れてピアノコンサート会場に向かう。

 兵士たちを誘った理由は一般市民の中にもコーディネイターに恨みを持つ人がいるかもしれないからだ。

 そんな人たちから狙われるかもしれないのでニコルを守ってもらうという名目で同行してもらうことにした。

 本当は人数が多いほうが楽しいだろうと思って誘ったが、迷惑だったかなとニコルは心配していた。

 護衛の兵士は笑顔でついてきてくれているので迷惑ではないと思いたいけどとニコルは思う事にした。

 ニコルはコンサートの始まる時間よりもかなり早めに到着して控え室で待機する事にする。

 久しぶりにピアノが弾けるのでちょっと楽しみでもあるのだ。

 控え室にニコルのピアノと譜面台があるから指ならしをしようと思ったらノックの音。

 

 (誰だろう?まだ会場は開いていないはずだけど?)

 

 護衛の兵士が銃を構えようとしたのでニコルは手で制す。

 暴発したら大変だからだ。

 ニコルが許可を出すと入ってきたのは知らない人だった。

 その人は盲目らしく常に瞳を閉じている。

 その人を目にしてミオが慌てて手を差し伸べる。

 

 「マルキオ導師。来てくれてありがとうございます」

 

 マルキオ導師と呼ばれる人物は微笑んでニコルに挨拶をする。

 

 「初めましてニコルさん。今日はお招きにあずかり恐縮です」

 

 「いえこちらこそ。聞きに来てくれてありがとうございます」

 

 マルキオ導師の名前はニコルも知っている。

 コーディネイターとナチュラルの両方を同じ人類だからと差別せずに対等に接する、元宗教界の大物でプラントと地球連合の橋渡しをしている人だ。

 ナチュラルとコーディネイターはみな同胞であり、同じ木に生った果実である。そしていずれ彼らの中から進み出、彼方の海へ漕ぎだすであろう者たちが出る。

 その人の事をマルキオ導師はSEED、人と世界を融和し、全ての人に希望をもたらす約束された存在。

 この教えを説き肉体の変革ではなく精神の変革こそが必要なのだと説くマルキオ導師の元には沢山の支持者が集まっている。

 沢山の孤児を養っていて今日のコンサートの売り上げの一部をマルキオ導師に寄付する予定だ。

 あまり時間が無いので挨拶くらいしか出来ないが、時間が合ったらもっと語り合いたい人物だ。

 

 「ニコル君。あなたはSEEDを持つ人です。ご自分を大切になさってください」

 

 Superior Evolutionary Element Distend factor

 優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子

 買い被りだとニコルは思った。

 ニコルは一介の軍人でありピアニストにすぎない。

 コーディネイターは遺伝子改造なので進化ではないし、進化どころか明日を生きるのに精いっぱいだ。

 そう疑問に思いながらニコルは自身の知っているマルキオ導師の言葉を思い出していた。

 

 続いて入ってきたマユとシンとアスカ家の面々に挨拶する。

 マユとシンの両親はモルゲンレーテ社で働いているので同僚としての付き合いがある。

 二人ともコーディネイターでシンとマユちゃんをとても愛しているのが伝わってくる。

 休憩時間よくシンとマユちゃんの話題になるからだ。

 アマルフィ家もそうだがアスカ家も親子仲が良いらしい。

 

 「ニコルさん、今日は頑張ってね」

 

 「うん頑張るよ。マユちゃんも楽しんでいってね」

 

 マユを抱き上げるニコルを見て笑ってるシンの目が少し恨めしそうに見えたのは気のせいだろう。

 シン、マユちゃんをを可愛がるのはほどほどにしないと、マユちゃんに恋人ができた時苦労するよ。

 ニコルはシンの溺愛ぶりが少し不安にもなった。

 

 会場は大入りの満員で、最前列には招待したアスカ家とマルキオ導師が座っていた。

 この戦争が始まってザフトに殺された人たちもいるはずなのに、ニコルを恨むどころかニコルの演奏を聴きに来てくれる事が本当に嬉しかったんだ。

 今日は最高のコンサートにしようと思った。

 

 「今日は僕のピアノを聴きに来てくれてありがとうございます。今日オーブの人たちの前でピアノを弾けて嬉しいです」

 

 割れんばかりの拍手と共にステージ上に設置されたピアノへと向かうニコルは驚いた。

 

 Steinway & Sonsというピアノだ。

 Steinway & Sonsは世界最高峰のピアノの一つでとても希少の品で高価なピアノだ。

 ユーラシア連邦か大西洋連邦からの輸入品で、戦争中に作っているかどうかというレベルの希少品。

 もしかしてアスハ家所有の品かもしれない。

 このコンサートを企画したのもアスハ家なのかもしれない。

 カガリに聞かせる事ができないのが残念だったが、そもそもカガリはピアノが好きかどうか疑問だ。

 第一印象ではとても深窓の令嬢に見えなかったから音楽には興味が無いかもしれない。

 そんな事を思いながらニコルはピアノの椅子に腰かける。

 

 ニコルは最初にカノンという曲を弾く。

 ヨハン・パッヘルバルという1653年生まれのドイツ人で1706年に亡くなったナチュラルの人が作った曲だ。

 ニコルの好きな曲の一つで優しい音色が特徴な曲。

 オーブには戦争を避けて移住してきた人もいるってミオに聞いていたので最初は優しい曲にすることにした。

 続いてジャズアレンジも弾く。

 同じ曲なのにジャズにすると踊りだしたくなるような軽快な曲になる。

 その後も定番のクラシックを弾いていくが、観客を見ると子供連れも多かったのでス〇ジオジブリという今でもバージョンを超えて放映されているアニメの曲を即興で演奏する。

 ジブ〇のアニメは子供に人気があるので子供たちが知ってる曲が多い。

 大人だけでなく子供にも楽しんで欲しい。

 今だけは暗い世界を忘れて欲しいと願った。

 

 戦争のない平和な世界への願いを込めた曲。

 ニコルが弾き終えると拍手が巻き起こる。

 大人だけでなく子供が喜んでいる姿を見るのは本当に嬉しかった。

 ニコルがピアノの曲を弾き終わるとマユがピンクのバラの花束を持ってきてくれた。

 微笑みながら花束を受け取る。

 ピンクのバラの花ことばは『感謝』

 

 「今日は聴きに来てくれてありがとう」

 

 そう言ってニコルはマユの頭を優しく撫でる。

 ニコルに妹がいたらこんな子だろうか。

 

 「今日は家族で聴きに来てくれたんだね。お名前を教えてくれるかな」

 

 「マユだよ。マユ・アスカ」

 

 そう言ってマユちゃんはあどけなく笑ってくれる。

 勿論知っているが他の人の手前、初対面の振りをしてもらった。

 コーディネイターでザフトの軍人のニコルと家族ぐるみの付き合いがあるとわかれば、色々と厄介だからだ。

 

 「すごく綺麗な曲をありがとう。でもシンお兄ちゃんは途中で寝ちゃってたよ」

 

 マユちゃんの言葉に会場のみんなが笑う。

 

 「こ、こらマユ。あれは聴き入ってたんだ」

 

 シンが半分寝てしまうくらいリラックスしてくれたら何よりだ。

 本当に心地よい音楽は人を癒すとニコルは知っている。

 

 「今日はみなさんにリラックスして貰えそうな曲を弾きましたから、穏やかな気持ちで過ごしていただけたのなら嬉しいです」

 

 そう言ってニコルはシンと握手する。

 ニコルとシンに会場から惜しみない拍手が贈られた。

 

 ◆◆◆

 

 コンサートが終わって帰宅したシンとマユはリビングでくつろいでいた。

 両親はこれからモルゲンレーテ社で仕事があるので二人だけの夕食だ。

 オーブ定番の刺身と納豆とご飯とみそ汁という簡単なものだがマユはシンと一緒に食べる夕食が大好きだ。

 ただどうしても考えてしまう事。

 

 「ねえシンお兄ちゃん」

 

 「なんだマユ?」

 

 オクラと納豆と生卵を混ぜ混ぜしながらマユの話を聞いていたシン。

 

 「ニコルさんって好きな人いるのかな?」

 

 「ぶっ!!」

 

 思わず吹いてしまったシン。

 背中から脂汗がどっと出る。

 

 「さ、さあいるんじゃないか?ニコルって美形だし」

 

 「でも付き合ってる人いないって言ってたよ」

 

 「そんな話いつのまに聞いてたんだ!?」

 

 「マユ、ニコルさんの彼女になりたい」

 

 「いや、そもそも歳の差がだな。ニコルはマユより六歳上だぞ」

 

 「マユが一八歳になったらニコルさんは二四歳。お似合いだと思うよ。それにあんなにかっこよくて優しい人、年の差なんかで諦めないもん」

 

 そう言ってマユは笑いながらテレビに視線を戻した。

 対するシンは内心動揺しながら納豆をかき混ぜ続ける。

 オクラと納豆と生卵は混ぜられすぎて一体化した物質になっていた。

 可愛いと思い慈しみ育てた妹はいつのまにか恋する乙女になっていたのだ。

 その夜、シンはマユがニコルとキスしたり結婚したりする姿を想像してよく眠れなかった。

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