【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第50話 キラの涙
アークエンジェルは護衛艦に包囲されながらオノゴロ島にある秘密ドックに収容された。
ここは切り立った岸壁に偽装されている。
護衛艦が離れると巨大なハッチが開き海水がドックに流れ込む。
オノゴロ島は軍とモルゲンレーテの島でこの秘密基地は衛星でも見つけられないだろう。
アークエンジェルはヘリオポリスから続く逃避行でボロボロだった。
整備班長であるマードック曹長はそんなアークエンジェルを見てため息をつくしかなかった。
他のクルーが休養に入ってもマードックには仕事がある。
休みはいつとれるのか、その先を考えることをマードックは止めた。
現実逃避しても装甲版一枚元通りにならないからだ。
今はとにかく目の前の仕事をこなすだけだ。
マードックはそう思い直すと部下たちに指示を出し始めた。
一方、マリュー達アークエンジェルの首脳陣はオーブに入港前にオーブ軍による事情聴取に応じなければならない。
ナタルが前もって制作しておいたマニュアルには答えを前もって用意されている。
厳しく情が無いとは言われているが、彼女は間違いなく有能な副長だ。
一方そのころイザーク達はオーブ近海を潜航中のボズゴロフ級潜水母艦クストーのブリーフィングルームでオーブ政府の公式発表に憤っていた。
「こんな発表が信じられるか!!」
イザークがブリーフィングルームの壁にオーブの公式発表が記された紙束を叩きつける。
紙束が宙を舞いそのうちの一つをミゲルが拾い上げた。
それにはオーブ領海に墜落した足つきは既にオーブ領域から出たというものだった。
「わかりやすいな。きっとオーブは足つきを保護という名目で手中に入れたという事だ」
ミゲルの言葉にラスティが頷く。
「オーブはわざわざ出向かなくても足つきとストライクの交戦データを手に入れたって事か。今頃オーブは高笑いしているだろうな」
ラスティの言葉にアスランは頷くがもう一つ理解不能の事があった。
それは地球連合の作った宣伝番組で、アスランが見た事のない長い赤毛の美少女がストライクに乗ってザフトのMSを多数撃墜しているという宣伝映像だ。
『このようにフレイ・アルスター少尉はアークエンジェルを守り、ザフトの攻撃を幾度となく退け多大な戦果を挙げている事です。しかし彼女の乗るアークエンジェルは傷つきクルーも半数が死傷しました。彼らを救う方法はないのでしょうか?ある!!それは戦時国債を購入する事です!!みなさんが戦時国債を購入すればそれは弾丸となり連合の戦力が強化されるのです!!そうすれば第二第三のアルスター少尉が誕生するでしょう。そしてこの戦争に勝利する事が出来るのです』
パイロットスーツを着てストライクのコクピットで笑顔で手を振るフレイの姿にディアッカがヒューと口笛を吹く。
「すげえ美人だな。あんな可愛い子撃墜しなくてよかったぜ」
それを聞いて金髪のロングヘアで青色の瞳のジャンヌが美しい顔をしかめる。
ディアッカが好きな彼女としては心穏やかではないがディアッカが言いたい事はわかっている。
あんな少女を取り逃がした事が悔しいのだ。
「取り逃がしたの間違いだろう?」
「相変わらず手厳しいことで」
ディアッカが斜めに構える態度で接しているとジャンヌがディアッカの肩を優しく叩いた。
「次は必ず倒す。それでいいだろう?」
「勿論だぜ」
イザークがまき散らした紙を片付けながら茶髪のショートカットで黒色の瞳をしているエマがイザークに言う。
「そんなにカッカしてると白髪が増えるよ」
「地毛だ!!それにこれは白髪ではない!!」
イザークが好きなエマが笑いながらイザークを宥めた。
いつもなら切れるイザークだがエマにはいつもうまくかわされてしまう。
その二人を呆れながら見つめるアスラン。
こういう時ニコルがいれば皆の苛立ちも上手く宥めてくれただろうにと考えてしまう。
「まずはオーブにいるニコルと連絡を取ろう。ニコルならなにか情報を得ているはずだ」
「どうやって?」
「俺とラスティとイザークとディアッカでオーブに潜入する。ミゲルとジャンヌとエマはここでMSを発進できる状態で待機」
アークエンジェルが逃げ込んだという確証が持てない以上、迂闊な事はできない。
まずはニコルと連絡を取ろうとアスランは考える。
ニコルなら何か掴んでいるはずだ。
◆◆◆
その頃ニコルはモルゲンレーテ社地下基地が騒々しい事に気が付いていた。
ニコルの記憶だとアークエンジェルはどこかで修理を受けているはずだ。
前世ではこのあと出航したアークエンジェルを追ってニコル達はマーシャル諸島で交戦し、アスランを庇ってニコルは戦死する。
それ以降の記憶はない。
ただその記憶はもはや役に立たないだろう。
何故なら前世ではミゲルとラスティはヘリオポリスで、エマとジャンヌは追撃戦の最中に戦死している。
ニコル本人は砂漠の虎ことバルトフェルド隊長と話をする事は無かったし、まして戦闘恐怖症になってオーブに軍事顧問として赴任していない。
全てが狂っている。
だから前世の記憶は何の役にも立たない。
仮にアークエンジェルを見つけたとしてどうするのだろう。
アスラン達に知らせるべきだろうか?
そんな事をすれば確実にアスランとキラは殺し合う事になるだろう。
アスランもキラもニコルにとっては大切な親友だ。
アスランとはアカデミー以来の親友でその絆は強く深い。
ニコルがリンチに会いそうになった時に助けてくれて以来、かけがえのない親友になった。
キラとは何度も殺し合い、そのたびにお互いを知った。
ラクス様解放時に直接対面してキラの誠実さ、優しさ、温かみを知ってしまった。
二人とも死んでほしくない。
そう思っていた時だ。
M1アストレイの調整をしている管制室に会いたかった親友が入ってきた。
振り向いたニコルは絶句する。
そこに立っていたのはキラだからだ。
「……キラ?」
「……ニコル?」
二人は自然に近寄る。
そしてニコルからキラを抱きしめた。
「ニ、ニコル!?」
「無事でよかった」
キラも再会を喜ぶがすぐに顔を曇らせる。
自分がここにいるという事はザフトと交戦して敵を殺したという事だ。
それに気が付かないニコルではないはずだ。
「ニコル……僕は」
「キラは悪くないですよ…何も…悪くない」
キラの謝罪の言葉をニコルは受け止める。
ザフト兵を殺して紅海とインド洋を抜けてここまで来たのはわかっている。
今も同胞のコーディネイターを殺したキラを憎むという気持ちはある。
だがキラが好き好んでザフト兵を殺したなどありえない。
それで苦しむな、といってキラは割り切れないだろう。
だからニコルはキラを受け止めた。
もしニコルがキラの立場なら同じことをしたはずだ。
アークエンジェルにはキラの友達が乗っている。
見殺しなんて出来るはずがない。
「キラは悪くない。戦争が悪いんです」
「ニコル…ごめん…僕は、僕は君たちの仲間を殺してしまった!!」
「わかってます。わかってます。キラが好きで戦ったなんて思ってません。キラは何も悪くない。全てこの戦争が悪いんです」
嗚咽交じりの声で謝罪するキラの背中をニコルは優しく撫でる。
キラの瞳から涙が零れた。
こんな自分を許してくれるニコルの優しさが嬉しかった。
キラはそのままニコルの胸の中で思いきり泣いた。
※作者です。私用につき毎日投稿は難しくなりましたので2日~3日おきに投稿させていただきます。私用が片付きましたらまた毎日投稿に戻りますので少しお待ちください。