【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第52話 狙われたキラ
その日からニコルはキラと出来るだけ多くの時間を一緒に過ごす事にした。
キラは戦いに向いていない優しくて内向的な性格なので、ストレスが物凄く溜まっていたのだ。
他愛のない会話と共に食事をして過ごすだけでかなり違う。
勿論友達としてだけでなく技術者としても教え合う関係になる。
特にキラの情報処理能力は大いに参考になるし、ニコルの設計能力もずば抜けている。
キラとニコルの協力体制でナチュラル用OSの開発はほぼ完成し、M1アストレイの設計も要検証箇所が的確にエリカ・シモンズに伝えられる。
二人の活躍にエリカは舌を巻いた。
この二人は並みのコーディネイターではないとエリカは確信する。
その傍らでニコルはオーブパイロットの訓練も欠かさない。
本当はキラにも手伝って欲しかったがキラにシミュレーターとはいえ戦場を思い出させるのは逆効果だったからだ。
そしてキラは人に教えるのが下手だ。
他人に物を教えるという点ではニコルのほうが優れていた。
「これなんだけど、見てくれますか?」
ニコルはキラに現在設計中のオーブ軍重装甲支援MAの設計図を見せた。
最初の案を考えた所、必ずしもMSに拘る必要は無いと判断した。
重装甲で重武装をメインにして大型化したバッテリーを搭載し長い継戦能力を持つ。
無重力でしか生産できないフェイズシフト装甲を備え、大変高価だがマスドライバーを持つオーブならではの贅沢な装甲だ。
最初は狼のような外見だったが、新案ではどちらかというと亀に近い。
足が太く短いのは重い装甲と武装を支える為に重心を低くしている為だ。
高速移動用に足を収納した状態でロケット推進して短距離飛行もできる。
ロケット推進のメリットとして宇宙空間での戦闘も考慮されているのは、マスドライバーを持つオーブ軍は宇宙戦闘を考慮しないわけにはいかないからだ。
武装はバスターと同じ近接戦闘用220mm径6連装ミサイルポッド、350mmガンランチャー、94mm高エネルギー収束火線ライフル各三門持っている。
つまりバスター三機の攻撃力とそれ以上のエネルギーと装甲を元に設計されていたが、ランチャーストライクガンダムの320㎜超高インパルス砲アグニを一門追加装備した。
もちろんこれはキラの協力によるものだ。
遠距離支援用で普段は複数のM1アストレイに護衛され支援砲撃に専念するという設計で自衛用にミサイルポッドは備えているが、あくまで支援砲撃MAとなっている。
「これは凄いね。これならどんな敵でも遠距離から攻撃できるよ」
キラは嬉しそうに設計図を褒めるが、ニコルにはこの機体に欠点がある事がわかっていた。
「この機体は重装甲で足が遅いから運動性が悪くて動き回れないんです。それに武装も強力だけど火力の割にエネルギーが不足しがちだし。充電した電池だとこれが限界かな」
「外見も亀の背中に大砲を沢山乗せたみたいだしね」
「名前は色々考えたけど、南方を守護する水神で『玄武』って神様がいるからシェンウーにしようかと思ってるんです」
こうしてキラに指摘してもらったシェンウーの設計図をエリカさんに渡す。
オーブがシェンウーを採用するかはオーブ政府とモルゲンレーテ社が決める事になった。
「キラがここにいるという事は、アークエンジェルも寄港してるんですよね」
「うん。でも…」
「わかってます。言えませんよね」
ニコルとキラが会話しながら歩いていた時だ。
前から頭にバンダナを巻いた少年と少女二人が歩いてきた。
「本当にいいのかな」
「でもアークエンジェルの修理に俺たちの力が必要だって言ったのはあっちだぜ」
「でも機密とかじゃないの?」
「他のジャンク仲間も集まってるって言ってるから大丈夫大丈夫」
ニコルはその言葉を聞いて呆れるというかやはり呆れた。
損傷が酷いからと言って見ず知らずのジャンク屋の手を借りるほど警備が緩いのだろうか。
それでいいのかオーブ政府とモルゲンレーテ社。
「あの、すみません」
「ん、なんだ?」
バンダナ少年と少女が二人振り返った。
「アークエンジェルの居場所を知ってるんですか?」
「知ってるもなにも今から行くところだぜ。付いてきな。俺はロウ・ギュール、こっちは俺の仲間で樹里と」
「風花・アジャーです」
そういって自己紹介された。
ロウはいかにもジャンク屋という自由闊達に生きている人々らしく、バンダナに繋ぎとロングパンツ姿の少年で樹里という少女は胸元が開きおへそが見えた格好、風花・アジャーという少女はマユ・アスカより更に幼く見えるがしっかりしている。
ニコルとキラも挨拶をしたあと五人でアークエンジェルへと向かう。
一応検問らしい所もあったがそれほど警備は堅くない。
兎に角早く修理したいようでモルゲンレーテ社の社員以外にもジャンク屋などを含めて修理に忙しい。
「おおーすっげえかっこいいな!!」
アークエンジェルの美しさに素直な感嘆の言葉をもらしたロウの様子。
ニコルは思わず苦笑するがこんなに近くでゆっくりと眺めた事は初めてなので、その美しさに感動さえ覚える。
まさかこんな平和な出会いをするなんて、そう思っていると早速ロウ達がクレーンなどの操作を行う。
手慣れた仕事にジャンク屋の技術が高いという噂は間違いではないと理解する。
「キラ、ザフトの僕がアークエンジェル見てていいんでしょうか?」
「僕に聞かないでよ」
キラも返答に困っていた時だった。
ニコルは危険を察知し、急いでキラを床に押し倒した。
その頭上を弾丸が通り過ぎる。
もしニコルが異変に気が付かなければキラは射殺されていただろう。
ロウ達も床に伏せて銃撃を避けている。
「なんだよおい!?樹里伏せてろ!!」
ロウが叫びながらクレーンから飛び降り樹里と風花を伏せさせた。
ニコルが銃撃してきた相手を探す。
その間にもキラを狙って銃弾が発射される。
ニコルはキラを庇って近くのコンテナに身を隠した。
「ニコルこれはいったい!?」
「どうやらキラがいると困る人たちがいるようですね」
そう言ってニコルがコンテナに身を隠しながら手持ちの武器を探した。
拳銃は検問で預けたから飛び道具は無い。
仕方なくニコルは転がっていたスパナを手にした。
射撃されている方角から大体の位置は把握できたが定かでは無かった。
その近くにロウが操縦していたクレーンがある。
方角を少しずらせば襲撃者がいる方向に向けれるだろう。
「ロウ!!」
「なんだ!?」
「そのクレーンを右に少し回せませんか!!」
流石に無茶な要求だと思ったがロウは返事する前にクレーンによじ登ると右に旋回させる。
異常に気が付いた犯人がロウに銃撃を浴びせるが、ロウは作業を止めない。
クレーンに銃弾がいくつも降り注ぐがロウは気にしないようだ。
「俺は宇宙一悪運が強い男だぜ!!」
そう言いながらロウが旋回を終わるとニコルはロウが旋回してくれたクレーンに飛び乗り、その上を走る。
事態に気が付いた襲撃者がニコルに銃撃を浴びせるが上手く当たらない。
その頃、ようやく事態に気が付いた警備兵が襲撃者に射撃を開始して、襲撃者は撤退する為手すりを使って非常口へ飛び移ろうとする。
そこに追いついたニコルが立ちふさがった。
そして間髪入れずに途中で拾ったスパナで襲撃者を威嚇する。
相手は三人。
どうやらニコルだけだとわかった襲撃者は拳銃を取り出して撃とうとする。
無論ニコルはそんな事をさせない。
スパナで一人目の腕を折り、二人目に回し蹴りを放つ。
腕を折られた者と回し蹴りを受けた者が呻いて倒れた。
残りの一人は拳銃でニコルを射撃したがかわされ、逆にスパナで顔面を強打されて倒れる。
「お前たちは何者だ!!目的はなんだ!!」
襲撃者たちはニヤリと笑った後で血を噴いて動かなくなる。
歯に仕込んだ毒を使って自害したのだ。
男たちから情報を得られなくなったので服や持ち物を調べると身分証を発見する。
襲撃者の胸についていたIDカードにはザフトを示すマークがあり、所属はザフト軍の情報部のものだった。
つまりこいつらはザフトのスパイでキラを暗殺するために送り込まれた?
しかしザフトはアークエンジェルの場所を知っているはずがない。
前世だとまだ探している最中だからだ。
「───この人達はザフトじゃない」
確かによく似ているがこのIDカードは偽造だ。
ザフトのIDカードは一定の暗号化がされており、これは今は使われていないIDだとわかる。
そもそもわざわざザフトの物を使う筈がない。
つまりオーブにこれはザフトの犯行だと見せるために演出されたもの。
───そして狙うとしたらキラの命だけじゃないだろう。
キラの命だけが目的なら、もっと暗殺しやすい場所がいくらでもある。
では今回の襲撃がキラを狙ったものと思わせる為だったとしたら……。
「アークエンジェル!!」
そう判断したニコルは襲撃者の死体を置いてキラの元へ走った。