【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第53話 エンデュミオンの鷹
ニコルはキラと一緒に急いでドック管制室へ向かう階段を昇ってアークエンジェルを見る。
丁度管制室で作業していたフラガ少佐がキラとその隣にいる見慣れない少年に怪訝な顔をして近づいてきた。
フラガ少佐は飄々としているけど鍛えられた体格の金髪の男の人。
地球連合軍の制服を身に着け階級は少佐。
パイロットとしても白兵戦でもかなりの実力者だとニコルは判断した。
「キラ。いったい何の騒ぎだ?」
「詳しい説明は後です!!すぐに全員を退艦させてください!!」
キラが息切れしながら叫ぶがフラガ少佐には何が何やらわからない。
ニコルが続けて補足した。
「この艦はザフトの破壊工作を受けている。すぐに退艦しないと全員死にます。僕はオーブ軍の技術将校でハムニ・アシム・アスハ。オーブ政府高官のウズミ・ナラ・アスハの命令で爆発物処理に来ました」
そう言ってフラガ少佐にオーブ軍のIDカードを見せた。
写真は同じだが名前はハムニ・アシム・アスハと書かれている。
アスハ家の一員という設定でこんな事もあろうかと偽造しておいたのだ。
「すぐに全ての修理を中止するように言ってください」
「わかった。こちらフラガ少佐、ブリッジの艦長に繋いでくれ」
フラガ少佐が訝しみながらも素早く艦長のマリュー・ラミアスに状況を伝える。
「こちらブリッジです。フラガ少佐何かあったの?」
モニターに20代くらいの長い髪をした女性将校が映し出される。
普段は優しそうな顔立ちの美人が緊張した顔をしていた。
「ザフトがアークエンジェルを破壊しようとしているという情報が入った。緊急事態だ。直ちに修理を中止してくれ」
「わかったわ。ドック関係者は全員速やかにアークエンジェルから離艦してください。直ちに修理は中止!!」
艦長と呼ばれた女性の判断は早く敵ながら有能さが見て取れる。
なるほど僕たちが何度も取り逃がした訳だとニコルは感心した。
アークエンジェルから作業員と修理パーツが撤去されて行く。
「しかしラミアス艦長。一刻も早く修理を完了させなければなりません!!」
「バジルール中尉これは命令です。作業員は直ちに離艦。安全が確認されるまで艦から離れてください」
モニター越しにラミアス艦長と多分副長のバジルール中尉と呼ばれた鋭利な瞳をした黒髪の真面目そうな女性将校が言い合いをしている。
その間にニコルは管制室にあるコンピューターを操作する。
ニコルが焦りながらキーボードを操作するとアークエンジェルの損傷個所と修理状況が表示された。
あの襲撃者は三名でモビルスーツに乗っていた訳じゃないし重火器を使った形跡もない。
僕ならどうするかとニコルは考えた。
「おい修理は中止したぞ。これからどうする」
「フラガ少佐。僕にアークエンジェル艦内を捜索させてください」
「正気か?アークエンジェルに乗ったら爆発に巻き込まれる可能性もあるぞ」
「アークエンジェルが沈んだらそれどころではないでしょう。それともここで艦長と乗員ごとアークエンジェルが沈む光景を見たいですか?」
ニコルがそう言うとフラガ少佐は呆れたようにため息をついたがニコルが本気だとわかったのだろう。
再びブリッジに繋ぐとラミアス艦長と会話をする。
「今からお客さんを乗艦させたいが艦長の許可を貰いたい」
「お客さんですか?」
「お客さんはこの子だ、詳細は後で説明する。許可をくれないか?」
「───わかりました。乗船を許可します」
「了解した。ありがとう」
フラガ少佐はそう礼を言うとニコルの方を向いた。
「聞いたな。これからアークエンジェルに乗り込むぞ」
「わかりました。乗船許可ありがとうございます」
ニコルは艦長の許可に返答するとモニターに映るラミアス艦長を真っ直ぐ見据えて敬礼した。
ザフト軍人の僕が地球連合軍の艦長に敬礼するなんて変だな。
ニコルはそう思いながら決断が速い女性艦長に敬意を抱いた。
自分も行くというキラを管制室に預けニコルとフラガ少佐はアークエンジェルへ向かう。
キラの暗殺未遂は陽動とはいえ、キラが危険な事に変わりはない。
ニコルとフラガ少佐がアークエンジェルに到着すると簡易エレベーターと併設された階段がありニコルとフラガ少佐は急いで階段を駆け上がる。
コーディネイターは肉体的にもナチュラルを凌駕しているが、電源が切れたらエレベーターは閉じ込められるからだ。
二人で急いで登るとアークエンジェルの整備員らしい一団が出迎えてくれた。
「フラガ少佐これはいったい何の騒ぎなんです?」
「マードック曹長、説明は全部済んだ後でする。艦内配置図を出してくれ」
マードック曹長と呼ばれた無精ひげを生やした30歳代の体格の良い男性が慌ててコンソールを操作すると、アークエンジェル内部の配置図が映し出された。
軍艦の配置図なんて軍機の中でも最上位なのに、見知らぬニコルに見せてくれるとはフラガ少佐は余程整備員たちに慕われているらしい。
ニコルは配置図と先ほどの修理箇所を頭の中で一致させると推進機関の機関室へと駆けだした。
フラガ少佐もニコルの隣を走る。
「で、お前さん本当は誰なんだ?」
やはりフラガ少佐は気が付いていたようだ。
緊急事態だし騙し合いしている暇はない。
「ザフト軍ニコル・アマルフィ。ブリッツに乗っていたパイロットです」
「おいおい本当かよ」
「本当です。今はオーブ駐在の軍事顧問という肩書です」
「キラとはどういう関係なんだ?」
「かつての宿敵、今は親友です。貴方の名前もお聞きしても?」
「ムウ・ラ・フラガ少佐。アーク・エンジェルに乗ってるパイロットさ」
ムウ・ラ・フラガ。
地球連合の士官で『エンデュミオンの鷹』の異名をもつ。
エンデュミオンの鷹といえば彼の操縦するモビルアーマーのメビウス・ゼロが1機で5機のジンを撃墜した事が由来と言われる。
当時ジン1機を撃墜するのにメビウス・ゼロが5機必要だったと言われた事から大々的に宣伝されザフト側にもその名は知れ渡っている。
クルーゼ隊長の乗るジンと互角に渡り合った事からそれがただの噂では無いことをニコル自身が知っていた。
「『エンデュミオンの鷹』がここにいるという事はアーク・エンジェルと一緒に僕達と戦ったという事ですね」
「その呼び名は好きじゃないんだよな。どうせなら『不可能を可能にする男』って呼んでくれ」
そう言っておどけて見せるフラガ少佐。
掴みどころが無いが全ザフト軍人が恐れるエースパイロット。
エンデュミオンの鷹との出会いにニコルは緊張を隠せなかった。