【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第54話 好ましい敵
アークエンジェルがオーブにいたのは確定したが何故すぐに発進しなかったのだろう。
史実だと二日後に出発したはずだ。
「どうしてまだオーブにいるんですか?僕は今頃アラスカかパナマ基地にでも逃げたと予想していましたが」
「うちの艦長もそのつもりだったんだけどね。どこぞの誰かさん達のせいで主推進器がぶっ壊れてさ。オーブで修理中って訳だ」
飄々とした態度に肩透かしをくらう。
フラガ少佐は一見不真面目で軍人らしからぬ態度と言動をしているけど隙が無い。
この感じ、昔どこかで感じたような気がする。
───気のせいかクルーゼ隊長に似ている気がした。
「お互いオーブに世話になってる身だし、一時休戦にしないか?」
「わかりました。今は緊急事態ですしね」
「物わかりのいい子は出世するぞ」
そう言って屈託なく笑うフラガ少佐。
何か憎めない笑顔に相手が敵だという事を忘れそうになる。
オーブに来て周りの人間が悪い人じゃないと知るほど苦しくなる。
フラガ少佐も敵らしく憎い悪人なら戦うのが楽なのに。
「ニコルこれからどこへいく」
「配置図と修理箇所を確認したら丁度推進機関の外壁に穴が開いていましたよね」
「ああ、お前さんたちの攻撃で直撃をうけた」
「外壁の修理箇所から判断して推進機関の内部まで破壊されています。アークエンジェルはレーザー核融合パルス推進ですから、核燃料にレーザーを当てて核融合を発生させてエネルギーに変える方式です。通常のレーダー照射時に保たれるレーザー量は───」
「詳しい説明はいいから要点だけ説明してくれ!!」
「通常のレーザー量より大出力のレーザーを当てた状態のパルス推進機に時限爆弾を付けたらどうなりますか?」
「そりゃドカンだな!!」
「そういう事です」
機関部は戦闘時に被害を受けたら自動的に停止するし最悪の場合推進器を切り離すように出来ている。
何重もの隔壁で厳重に覆われているから仮に爆発しても被害は最小限になるように設計されている。
けど今は修理の為に外壁は外されている。
この状態で高エネルギーレーザーで点火したあと点火された推進機を爆破すれば核融合されたエネルギーが高温を発して暴れまわる。
外壁も隔壁も無い状態でこのエネルギーが暴走したらどうなるか。
高温の核融合エネルギーが艦内に噴き出し武器や人体を襲う。
乗員は勿論艦内の武器に引火してドックごと吹き飛ぶだろう。
修理中で隔壁と外壁がない状態だから出来る破壊工作だといえる。
フラガ少佐はすぐに艦内電話で艦橋へつなぐ。
「こちらフラガ少佐!!艦長すぐに総員退避させてくれ!!」
「フラガ少佐何事ですか!?」
「どっかの馬鹿が修理中のエンジンに爆薬をしかけた可能性が高い!!早くしないと俺たちはドックごとドカンだぜ!!」
「バジルール中尉すぐに爆発物処理班を。それと艦内にいる全ての人員に退避命令。急いで!!」
アークエンジェル艦内とオーブのドックに緊急警報が鳴り響き乗員が慌てて退避する。
ニコルとフラガ少佐は逃げる人々とは逆方向に走り推進機ブロックにたどり着いた。
周囲を見回して構造を把握するとニコルはレーザー照射機と推進機へと走っていく。
「間に合うか!?」
間に合わなかった。
ハッキングされたレーザー照射機が時限式で稼働する。
「犯人はアークエンジェルの構造を熟知しているようですね」
「どうしてそうわかる?」
「艦ごとにマスターキーが設定されていて、それは艦長と副長以外知りません。犯人はそのマスターキーを知るものでしょう」
地球連合だろうか。
なぜ地球連合が自分たちの艦を爆破しようとしているのかニコルにはわからない。
まさか地球連合がアークエンジェルとストライクを守り抜いた少年がコーディネイターだと知って、闇に葬ろうとしている程コーディネイターに憎しみを持っているなど思いもしなかった。
同時刻フレイ・アルスターはオーブ政府主催のパーティに出席予定であり、フレイの身に自然な形で危害が加わらないように手を回されているなど思いもしない。
この後の予定はアークエンジェルとストライクごとキラとハルバートン貴下のマリュー達を抹殺したあと、亡くなった戦友を抱き上げて泣く悲劇のヒロインの役割が用意されているなど、当然フレイは知らなかった。
レーザー照射機がハッキングされ核燃料にレーザーで点火されると核融合が行われアークエンジェルの推進機が動き出す。
今頃艦橋はパニックだろう。
「あった!!これだ!!」
ニコルは推進機に取り付けられた時限爆弾を発見した。
「───ニコルよくやった。爆発物処理班が来るまで」
「間に合うと思いますか?」
「間に合わないよな」
フラガ少佐とニコルは苦笑いをした。
もう推進機は動き出している。
おそらく推進機を手動で強制停止したら爆発する設計の爆弾だろう。
強制停止しなくても時限式で爆発する。
ここで爆弾解除するしかない。
外見はザフト製の時限爆弾だけど、ニコルは爆発物関係はアスランより成績がよかった。
すぐに偽装された地球連合製の最新時限爆弾だとわかる。
実物を見るのは初めてだが解除はできる。
「───フラガ少佐恋人はいますか?」
「いきなり何を聞くかと思えばこんな場所で色恋の話してる場合かよ」
「いないならいいです。悲しむ人が減りますからね」
「おいおい勘弁してくれよ」
ニコルは推進機制御用のキーボードを時限爆弾に取り付ける。
そして時限爆弾のロックを解除して作業を始めた。
地球連合製はプログラムの作り方が単純なので侵入するのは簡単だ。
すぐにシステムを乗っ取ったと思ったら爆弾の管理画面にそってコードプラグを抜いていく。
「───ニコルは恋人とかいるのか?」
「そんな人と出会う前に戦争になりました」
「そりゃ悪い事をした。解除できそうか?」
「ナチュラルの作ったものにしては手が込んでいますね。侮ってました」
ニコルは必死になってキーボードを叩きながら複雑に絡み合った起爆コードを一つずつ解除していく。
そして最後の起爆コードにたどり着いた。
ザフトのコードなら熟知しているが今回は地球連合の最新型でニコルも実物は初めてだ。
最後の解除キーワードを求められる。
キーワードを入力する場所が赤と青の二か所点滅している。
どちらかに正しいキーワードを入力しないと爆発する。
「こういう時は赤か青の線のどちらかを切るんだよな」
「フラガ少佐は古典的なスパイ映画が好みですか?」
「特にそういう事はないがニコルは嫌いか?」
「僕は嫌いです。スパイとはあんなに堂々と活躍する者ではありません。フラガ少佐はザフトの赤服とブルーコスモスの青い花のどちらを切りたいですか?」
「この間までならザフトの赤服だったが、今目の前にいる気の合うザフトレッドと知り合ったからな。青だ」
「では青を切ります」
password:『青き清浄なる世界の為に』
ニコルはキーボードのキーを押した。
爆弾が停止する。
その後慎重に取り外し爆弾処理は完了した。