【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。   作:屠龍

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今回はアークエンジェル大人組の会話です。といっても佐官はマリューとムウさんでしかも戦時任官なので教育も受けておらずバジルール中尉もまだ若い。ハルバートン提督が生きてればかなり違うでしょうがまだ判断能力と経験とコネがないという状態です。史実だと修理完了次第アラスカへ向かいキラを失いアラスカ戦で捨て駒にされるアークエンジェルの明日はどうなりますやら。


第56話 マリュー・ラミアスの憂鬱

 第56話 マリュー・ラミアスの憂鬱

 

 アークエンジェル艦内の艦長室にラミアス艦長・フラガ少佐・バジルール中尉が机の上に置かれたニコルが解除した爆弾を見ながら眉をひそめていた。

 元々技術将校だったラミアス艦長はこの爆弾がザフト製に偽装した地球連合製だと判断する。

 その事を伝えるとフラガ少佐は腕組みしながら発言した。

 

 「つまりここでアークエンジェルに沈んで欲しいって考える奴がいるって事だよな」

 

 その言葉にラミアスは首肯し、バジルールは信じられないと言った顔で首を振った。

 そんな馬鹿なと言いたいが目の前の証拠を突き付けられたら認めるしかない。

 爆弾だけなら否定も出来たがニコルが言うように、アークエンジェルのマスターキーを知るもの以外、レーザー照射機と推進機に細工など出来ない。

 本来の艦長はヘリオポリスで戦死していて、ラミアスが知っていたのはXナンバーとアークエンジェルの建造に深くかかわっていた技術士官だからだ。

 生きている人間でそれを知るのはラミアスとバジルール以外は地球連合の数少ない者だけ。

 本来のクルーどころかコーディネイターがいるアークエンジェルとストライクは連合にとって存在しないほうがいい艦だ。

 少なくともオーブごと爆沈させて全てのデータを隠蔽したいと考えた者がいるという事だ。

 

 「証拠一つだけでその判断は性急だと思われます。仮にニコルという少年の自作自演、つまりザフトの謀略だという可能性も否定できません」

 

 「その可能性も否定できないが、じゃあ何のためにわざわざ爆弾を仕掛けて命懸けで解除したのか説明がつかないだろ」

 

 「それはそうですが」

 

 フラガ少佐の言葉にバジルール中尉が口をつぐむ。

 説明がつかないのだ。

 ザフトの謀略ならわざわざザフトの爆弾に偽装して爆弾など使う意味が無いし、命懸けでニコルが爆弾解除する理由が無い。

 そもそもニコルの行動が不明瞭だ。

 なぜアークエンジェルを撃沈する好機を自ら潰したのか。

 

 「あいつはキラの事を親友だと言っていた。それ以上でもそれ以下でもないんじゃないか?無論アークエンジェルが爆沈したらこの地下ドックごと吹っ飛んで、オーブの民間人が死ぬって判断もあると思うが」

 

 「つまり民間人を救うという人道的な行為だったというのですか?」

 

 「そう考えるのが自然だろうな」

 

 無論三人とも民間人の犠牲など望まない。

 軍隊とはいえ超えて良い一線というものがある。

 とはいえ、既に最前線では連合もザフトも、民間人を殺戮する事が当たり前になっているという噂を三人とも知っていた。

 まともな軍人なら忌避するべきところだ。

 

 「彼のことを詮索するより考えなくてはいけないようね」

 

 「何をですか?」

 

 「このままアラスカへ行くことをよ」

 

 ラミアスの言葉にバジルールが異論を唱えようとしたが状況がそれを許さない。

 アラスカに行っても歓迎される可能性は低いのだ。

 アルテミス要塞の時のように拘束されるかもしれない。

 

 「ま、軍法会議は間違いないだろうな」

 

 「我々は軍規に違反などしていません!!」

 

 「オーブに入港して貴重なストライクとアークエンジェルのデータを渡したって言うのは十分軍規違反だと思うぞ」

 

 「それはそうですが仕方が無かったではありませんか!?」

 

 「それを判断するのは上の連中さ。俺たちがどうこう言える状態じゃない」

 

 フラガ少佐の言葉にバジルール中尉は黙り込む。

 本来軍規という者は上をも縛る物なのだが、今の地球連合の軍規は明らかに崩壊しているのだ。

 アークエンジェル救援にハルバートン提督の第八艦隊しか派遣しなかったのが連合首脳部の本音だろう。

 あの救援もハルバートン提督の独断という可能性もあった。

 もう二艦隊ほど派遣してくれれば十分アークエンジェルを守れただろうし、ハルバートン提督も戦死しなかった。

 もともとXナンバーとアークエンジェルの開発には反対の声が多かった。

 

 利権である。

 

 今メビウスや艦船を作っている軍需産業にとってMSを生産する事は利権を失いかねない。

 ストライクを参考にしたMSがもうすぐ完成すると知らない三人にとって理解しがたいが、歴史上そういう事で足を引っ張る輩は多い。

 その代償は最前線で戦う兵士の命だが、直接撃たれない安全な場所にいる彼らにとって兵士の命など、どうでもいい事だろう。

 兵士の命は羽毛より軽いと考えているのだから。

 

 そして更に深刻なのは、コーディネイターのキラ・ヤマトがストライクに乗って戦果を挙げているという事だ。

 これでは結局コーディネイター相手にコーディネイターを戦わせるしかないという考えをを持たれる。

 それは極めてまずい。

 大金を投じたXナンバーがコーディネイターの優秀さを証明する事となっては愚の骨頂だ。

 その意味でもキラ・ヤマトの命とストライクとアークエンジェルを破壊する必要がある。

 結局ナチュラルはコーディネイターに勝てないのか?

 そういう嫉妬と憎悪も後押ししていた。

 

 「俺たちの命はアラスカにいる軍首脳が好きにできる。オーブに入港して軍機密を漏らした。十分軍法会議になると思うがね」

 

 フラガ少佐の言葉にラミアスもバジルールも黙り込む。

 二人ともその真意を理解した。

 軍法会議でアークエンジェルを罰すれば他の将兵は動揺するだろう。

 それよりいっそアークエンジェルをオーブごと破壊すれば機密漏洩も防げて一石二鳥である。

 

 「進むも地獄、進まなくても地獄という事ですか」

 

 ラミアス艦長の一言に二人とも黙り込む。

 確かにこのままアラスカに向かえば最悪の事態になるかもしれない。

 だが進まなくても敵前逃亡の烙印を押されて最悪の事態になるだろう。

 

 「ラミアス艦長はどうする?」

 

 「私はこの艦の艦長です。この艦と乗員を守る義務と責任があります」

 

 フラガ少佐の問いにラミアスは毅然として答える。

 彼女の目には迷いがない。

 自分の艦を守りたいという使命感に燃えていた。

 フラガ少佐はラミアス艦長の肩に手を置くと言った。

 

 「あまり自分を追い詰めない方がいい。少し考える時間が必要だろ?幸いアークエンジェルはザフトの攻撃でボロボロだ。修理が完了するにはまだまだ時間が必要さ。それにだ」

 

 「それに?」

 

 「ニコルの真意を聞いておきたい。あいつが単純にキラを助けたかったのだとしたら全ての説明がつく」

 

 「彼はザフトの軍人ですよ?口を割るとは思えません」

 

 「そこまで兵士になり切れてないのかもしれないな」

 

 「そんな事は」

 

 「ありえないか?俺たちが15歳の時、自分より友達を優先したいと考えた事はないか?大人になった俺たちには理解不能な世界にキラもニコルもいるのさ」

 

 「そんな幼い理由で行動するなど」

 

 「そんな幼い子供らを戦場で戦わせてるのが俺たちだろうが。キラもフレイもサイもトールもミリアリアもカズイもこの間まで学生だったんだぜ。それを半強制的に俺たちが戦場に引っ張り込んだ。そうだろ?」

 

 ラミアスもバジルールも反論できなかった。

 かれらはこの間まで平和なヘリオポリスの学生だったのだ。

 その子供たちの行く末を思う時、これからどうするべきかラミアス艦長は悩む。

 軍人としてはアラスカへ向かうべきだろう。

 だがその後の保証はないのだ。

 責任という言葉がラミアス艦長の方に重くのしかかった。

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