【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第57話 フレイ専用ガンダム
アークエンジェルに対するテロ行為は緘口令が敷かれたがまったく無意味だった。
何しろロウ・ギュール達を含む、当時作業していたジャンク屋の目の前で行われたのだ。
またこれだけ大きな事件を隠し通す事などできはしない。
「ニコル~!!」
オーブのドレスを着たカガリがニコルに歓喜の表情で抱き着いた。
カガリが喜ぶのも当然だろう。
このドックで大爆発が起こればオノゴロ島全体が危機に瀕していたのだ。
その隣でキラが微笑みロウが口笛を吹いた。
いつのまにか仲良くなったジャンク屋の人々に感謝と歓迎の証で揉みくしゃにされながらニコルは照れていた。
ここまで喜ばれる事をしたという実感が無かったのだから無理もない。
ニコルはただ単にキラとキラの友達を助けたかっただけなのだ。
落ち着いて考えてみれば、このあいだまで殺し合いしていた相手の友達を助けるなんて想像もしなかったのだ。
ニコルはザフトの軍人として地球連合軍と戦っていた。
今でもユニウスセブンとヘリオポリスで散った同胞の事を忘れてはいないが、キラやカガリを見ているとそんな感情も薄れてしまった。
直接ユニウスセブンに核を撃ち込んだ者は許せそうになかったが、戦争だからという理由でニコルは沢山の人々を殺してしまった。
こんな自分を歓迎してくれる人たちの中にはロウやカガリのようにナチュラルもいれば、キラやシンのようにコーディネイターもいる。
オーブではナチュラルとコーディネイターの両方が共に暮らしている。
こんな世界があるとは知らなかった。
もしあのまま一介の兵士のままなら、けして出会わなかった人たち。
キラの友達たちも笑顔でニコルに感謝してくれた。
サイ、トール、ミリアリア、カズイ。
そしてフレイ。
「アークエンジェルを守ってくれてありがとう」
そう言ってフレイがニコルに握手を求める。
ニコルは内心の動揺を抑えながらフレイと握手した。
ニコルはオーブに来るまでナチュラルに感謝されるという事に慣れていなかった。
ナチュラルに嫌われるコーディネイターという自分の立場が悲しくもあった。
だが今はそんな思いも薄れている。
この人たちは自分を嫌わないし、むしろ感謝してくれるのだから。
そして何より、こんな人たちもいるという事を教えてくれたキラとカガリに感謝していた。
「あなたコーディネイターなんでしょ?私コーディネイターは嫌いだけど今回は素直に感謝しているわ。だって婚約者を守ってくれたんだから」
「婚約者?」
「この子がそう。私の婚約者のサイよ」
そう言ってフレイがサイに抱き着いた。
ニコルは自分の初恋が脆くも敗れた事を理解するしかない。
だが恋というのは難儀なもので恋人がいると知っても感情が追いつくものではない。
こういう時は酒でも飲んで泣けばいいのだが、幸か不幸かコーディネイターのニコルは酒に強すぎて酔うには時間がかかる。
そもそも一緒に呑んでくれる相手がいない。
「なんだニコル泣きそうな顔して。そんなに嬉しかったのか?」
カガリの屈託のない笑顔にニコルは内心そうじゃないと思っていたが口に出すのははばかられた。
そしてフレイがサイと抱き合うのを見てしまったらもうどうしようもない。
初恋は終わったのだ。
だから忘れようと仕事に没頭する。
ニコルはそう納得してアークエンジェルの修理作業を見守りつつOSの改良とニコルの設計したMAシェンウーをエリカと話していた時だ。
「折角だからMS化しましょう」
「───は?」
エリカの提案にニコルは開いた口が塞がらなかった。
ニコルもMAシェンウーの設計の時MSとして設計して断念したのだが、エリカは更に魔改造してイージスのようにMSとMAに変形できる設計案を出して来たのだ。
外見はストライクのようにガンダム顔だが背中に円盤型の盾兼武器搭載というブリッツのような形態だ。
バスターと同じ近接戦闘用220mm径6連装ミサイルポッド、350mmガンランチャー、94mm高エネルギー収束火線ライフル各三門を背中の盾に取り付けている。
手にはランチャーストライクガンダムの320㎜超高インパルス砲アグニを持つが一言で言うと巨大だ。
大きさはストライクの1.4倍はあるだろうか。
MA形態の時は背中の主武装を上面に出し、腕を収納して二本足形態になる。
飛行時は二本足も収納し元の試案であるMAシェンウーのように亀のような形状になるのだが。
「エネルギー足りるんですか?」
「それはこれからニコル君とキラ君に頑張ってもらうわ」
丸投げにも程がある。
そもそもアークエンジェルは修理を終え次第発進するのだから、キラがここの研究に関われる時間は少ないはずだ。
ところがエリカから意外な言葉が発せられた。
「アークエンジェルは今回のテロで多大な損傷を受けたので、さらなる入渠が必要なのよ」
「仰ってる意味が解りませんが」
「ようするにアークエンジェルは当分オーブにいるって事」
「……えええ??」
いったいどういう事だろう。
動揺するニコルにエリカが別のMSの設計図を手渡した。
「このMSの意見も聞かせてもらえるかしら?」
ニコルはその設計図を見る。
顔はストライクと同じガンダム顔で外見もストライクに似ているが、色が赤色だ。
華美な外見とは裏腹に各部が簡略化されていて戦闘に用いるには不安がある。
「これはオーブ軍のMSですか?」
「まさか。大西洋連邦から発注されたフレイ・アルスター少尉用の機体よ。戦闘能力は求めないから出来るだけ美しく印象に残る機体にして欲しいってご注文。ようするに見せかけの人形」
エリカの言葉には苛立ちと呆れが混ざっていたが、大西洋連邦がかなりの大金を支払ったのだろう。
わざわざ量産機ではなくカスタム機を作るという贅沢をしてでも政治的パフォーマンスをしたいのだろうか?
だとしたらそれをさせられるフレイがあまりにも可哀そうだ。
「この機体の設計は僕にやらせて貰えませんか?」
「いいけれど大丈夫?」
「エリカさんはアストレイの設計と改修で忙しいでしょう?僕は設計を多少弄るだけです」
「それじゃお願いしようかしら。ありがとう」
ニコルはそう言ってエリカから設計を引き継ぐ。
こんな機体にフレイを乗せるなんてありえない。
いくら戦闘に用いないとはいえ安全性はもっと強化するべきだ。
華美な外見は手を加えられないから関節部や装甲の見直しを行う事にする。
たとえ失恋したとはいえ、一度は好きになった女の子を軽く扱うなんてできない。
それにフレイにはこの戦争を生き残って幸せになって欲しい。
(だから僕はこの機体を最高のMSにする)
そんな決意を胸に秘め、ニコルは設計に没頭するのだった。
ニコル設計のガンダムは機動性とフェイズシフト装甲を取り入れたパイロットの生存性を優先した機体。
後にストライク・レッドと呼ばれるフレイ専用ガンダムになる。