【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第58話 キラとアスラン
アスラン達はオーブ近海を潜航中のボズゴロフ級潜水母艦クストーのブリーフィングルームで一枚の暗号文の書かれたメモを見て頭を悩ませていた。
内容はニコルからの物で『オーブの最重要機密の発見』と『偽造IDを一人分だけ確保できたのでアスランに来て欲しい』というものだった。
発信元がニコルなのでそこは問題ないのだが。
ニコルに限ってオーブに捕まったり脅されて無理やり暗号文を発信させられたりという事も無いだろう。
「なぜアスランを名指しなのだ?俺を行かせろとはいわんが他の人選は無いのか?」
イザークが珍しく怒気を含まない声でそういうと、隣にいたジャンヌが呆れた様子で答えた。
「イザークだと潜入にならないからじゃないか?」
「貴様!!それはどういう意味だ!!」
「そのままの意味だ。簡単に癇癪をおこされては面倒だからな」
ジャンヌの言葉に皆が頷く。
この件に関してはイザーク以外意見が一致していた。
「俺じゃ駄目なのか?」
ディアッカが発言するが、ディアッカの場合些か素行に問題がある。
ラスティはリーダー向きだが潜入とはまた別の特性だし、エマとミゲルは純粋にパイロットとして優れているが潜入には向かない。
アスランは恋愛以外完璧超人なのでニコルがアスランを選ぶのは当然だと言えた。
「俺が行くしかないだろうな」
アスランが行くことになり、オーブに潜入させている工作員の手引きでオノゴロ島に向かう事になる。
見送るイザーク達はニコルが手引きしている事で安心はしていたが油断はしない。
全員いつでも出撃できるようにパイロットスーツに着替えている。
オーブの海は穏やかで簡易のゴムボートで指定された海岸にたどり着くのは簡単だ。
それでもアスランは警戒を緩めなかった。
腰にはいつでも抜けるように軍用ナイフと拳銃が用意されている。
慎重に指定された海岸に接舷したアスランは意外な人物の出迎えを受けた。
工作員二人とニコルだった。
「ニコル!!」
アスランが駆け寄りニコルもアスランの手を取って握手したあと抱きしめあう。
「心配してたんだぞ」
「ごめんなさい。ばたばたしてました」
アスランとは大気圏戦闘で別れて以来の再会だ。
あの後ニコルは砂漠の虎ことバルトフェルド隊長に保護され、キラとカガリの口添えでプラントとオーブの間に立つ軍事顧問という地位に落ち着いた。
もっと語り合いたいが時間が無い。
アスランにモルゲンレーテ社の服と偽造IDが工作員から手渡される。
アスランは服を着替えて偽造IDを身に着けた。
拳銃とナイフは工作員があずかる事になる。
ニコルが拳銃を携帯できるのは正規の軍人としての権利があるからで、今回モルゲンレーテ社員に変装するアスランには許可が無い。
四人はゴムボートを収容し、モルゲンレーテ社へ向かう。
そこで工作員と別れアスランはニコルの指示にしたがって検問を抜けた。
ニコルの作った偽造IDはよく出来ていてノーチェックで入れた。
警戒の緩さにアスランは呆れたが、これも平和のなせる事だろう。
そのまま地下基地へと案内される。
「凄いなこれは」
「でしょう?僕も最初見たときは驚きました」
そのまま地下に案内されて格納庫へ向かったアスランは息をのんだ。
そこにはストライクによく似たMSがずらりと並んでいたからだ。
「これがM1アストレイです。オーブ軍の主力MSですね。ナチュラルでも動かせるOSを搭載しています。一対一ならジン相手に優位に戦えます」
「これが俺に見せたかったものなのか?」
「いえ、これはいずれプラント本国へデータを送る事になっていますし、僕にはナチュラル用OSの開発に協力するように命じられています。プラントはオーブが強化されたらオーブが所有しているマスドライバーが地球連合に奪われる心配が無くなると考えているんでしょう」
「じゃあ俺に見せたい物っていうのは何なんだ?」
「物というか者です」
そう言ってニコルが手を振ると歩いてきたのはキラだった。
「キラ!?」
「アスラン」
何度も戦場で出会い戦った親友同士の再会。
ニコルがアスランに会わせたかったのはキラだったのだ。
◆◆◆
モルゲンレーテ社を後にしてニコルは自身が暮らすログハウスへとキラとアスランを招く。
ニコルの護衛の少女ミオ三尉が運転する車の中で、二人は無言だった。
アスランは警戒していたし、キラは話せなかったのだ。
ログハウスに着くとニコル達を降ろしミオが車庫へ車を直す。
ニコルはログハウスの扉を開けると美味しそうな匂いが室内を満たしていた。
キラが好きな唐揚げと、アスランが好きなロールキャベツ。
そしてオーブの海産物を使った料理がテーブルに並んでいた。
「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」
先客がいたようだ。
美しい短い金髪と勝気な瞳をした少女カガリだ。
カガリはドレス姿だった。
本来忙しいカガリだが、キラがどうしてもと誘ったのだ。
大人しく穏やかなニコルだけでなく、勝気で物事をはっきり言うカガリに一緒にいて欲しかった。
聞けばカガリはアスランと面識があるという。
配役にはぴったりだ。
「キラもアスランも座って。食事にしましょう」
言われるがままキラとアスランは対面に座り、アスランの隣にはカガリが。
キラの隣にはニコルが座った。
「───ニコル、これはどういう事だ」
アスランが少し怒気を含んだ声でニコルに聞く。
それはそうだろう。
先日まで敵だった親友と無理やり対面させられたのだから。
「はっきり言います。僕はキラとアスランに停戦して欲しいです」
「そんな事が出来る訳がないだろう!!」
アスランがテーブルを強く叩いた。
頑丈な木製のテーブルでなければ壊れるくらいの強さだったろう。
「僕はアスランとこれ以上戦いたくない。だからニコルに頼んでアスランと話す機会が欲しかった」
「俺とお前は敵なんだ!!今更何を話すんだ!!」
キラの言葉にアスランが叫び返す。
外に護衛の兵士以外誰もいないからこその本気本音の場。
アスランの怒りと戸惑いはニコルの想定内。
だからニコルは次の手を打つ。
ストライクとM1アストレイの設計図をアスランに手渡した。
その設計図を見てアスランはオーブが正式に量産しているM1アストレイが十分戦力になるMSである事を理解する。
同時にストライクの設計図をニコルが入手している事の意味を理解した。
「もうストライクの秘密はオーブに渡っているという事だな」
「はい。今更アークエンジェルとストライクを破壊しても意味がありません」
そう言ってニコルはカガリを見る。
カガリはアスランに語る。
「オーブは中立だ。だからこの機体が使われるかどうかは未知数だが、あくまで護りとしてしか使わない。だが地球連合は違う。元々ストライクは地球連合のものだ。今頃量産されているかもしれない」
「だからと言って、このまま見過ごせるものか!!」
「親友と戦って!!殺し合って!!今更必要の無くなった物を壊して!!そんなの意味あるのかよ!!」
カガリの言葉がアスランに突き刺さる。
アスランだってキラと戦いたくはない。
そして戦う意味が無くなった。
「アスランもうやめよう。僕は君と戦いたくない」
「───キラ」
キラの懇願にアスランは言い返せなかった。