【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第59話 和解
アスランにカガリの言葉はかなり刺さったようだ。
だがニコルもキラもアスランの頑固さはよくわかってる。
「アスラン。この戦争はいつ終わると思いますか?」
ニコルはバルトフェルドの言葉を思い出しながら話す。
『そりゃあどちらかが死に絶えるまで殺し合いをするしか無いだろうな』というバルトフェルドの言葉がニコルの胸に棘として残っていた。
既に前線ではナチュラルもコーディネイターも殺戮を行っている。
経済問題や政治問題ではなく民族浄化戦争になりつつある。
「ナチュラルがプラントの独立と対等の経済自立を認めればいいんだ。それで戦争は終わる」
アスランの答えは正しい。
だが現在はその条件を超えてしまった。
お互い殺し過ぎたのだ。
そしてナチュラルはコーディネイターを妬み、コーディネイターはナチュラルを見下す。
このままだとお互い相いれない段階に進んでいく。
続けてカガリが発言する。
「アスランは私が憎いか?」
「そんな事は無い」
「それじゃ私を見下すか?」
「そんな事」
カガリの言葉にアスランは言いよどむ。
コーディネイターは多少の差はあれど、ナチュラルより自分が優れていると無意識に思っている。
ニコルはアスランを責めるつもりはない。
アスランの父親パトリック・ザラは熱烈なコーディネイター至上主義者でアスランはその影響を受けている。
ナチュラルに理解があった母レノア・ザラを殺されたアスランの無念をニコルはザフトアカデミーでよく知っている。
母親を殺したナチュラルを憎むなというほうが無理だろう。
だがカガリはアスランの事をコーディネイター至上主義者だとは思っていない。
もしそうならカガリはもうこの世にいない。
カガリとアスランがどのような出会いをし、何があったのかまでニコルは詮索しないしする気もない。
男と女が一夜を共に過ごしたとはいえ、すぐそういう関係になる訳もなく。
実際何も無かったのだが。
ただカガリがアスランの事を「不器用だが優しくて信頼できる奴」というのでこの会に来てもらった。
「アスラン。私はナチュラルだ。コーディネイターも同じ人間だ。オーブはそういう国だ。ここには私のようなナチュラルもいるし、私の友達にはコーディネイターだっている」
「───」
「ナチュラルとコーディネイターの違いが私にはわからない。だって同じ人間じゃないか。一緒に笑って泣いて。能力があるかないか、それはそんなに重要な事か?」
カガリはナチュラルとコーディネイターを同じ人間だという。
それはそうだろう。
同じ人間が殺し合いをしている。
ただ能力に差がありすぎるだけ。
そしてそれを妬み、蔑むのは間違いだというのがカガリの考えだ。
そんな人間同士が殺し合うなんて間違っているとも言った。
だがアスランにはそれが綺麗ごとだとしか思えなかった。
「綺麗ごとだ。ナチュラルとコーディネイターがわかりあえるものか」
「アスラン。私とアスランは分かり合えなかったのか?」
カガリの目に涙が浮かぶ。
アスランはカガリの事を信頼できる相手だとは思っている。
それはアスランの思い込みだったのだろうか?
アスランはカガリがナチュラルだから違う人種だと自分勝手に壁を作っていたのだろうか?
「僕は」
そうキラが呟いた。
皆の視線がキラにあつまる。
「僕はアスランもカガリもニコルも大切な友達だと思っている。ナチュラルとかコーディネイターとかそれ程重要なものなの?」
アルテミス要塞で『裏切り者のコーディネイター』と言われ涙したキラ。
フレイに罵られ、友達の何気ない反コーディネイター差別に傷ついたキラ。
ナチュラルもコーディネイターも同じ人間なのに、何故差別が起きるのだろう。
キラが親友のアスランから守ったサイ達はナチュラルだけど親友で大切な人たちだ。
キラの言葉にアスランが答える。
「ラクスに言われたよ。わたくしはキラを愛しています。ですからアスランと添い遂げる事はできませんって」
「───ラクス」
「ラクスはこうも言っていた。俺とキラが殺し合って、俺が死んだあとキラが廃人になったって。そして最終決戦に出撃したキラは戻らなくて、ラクスも死んだと」
「アスランはラクスの話を信じてくれるの?」
「普通は信じないだろうな。だが俺はニコルが前世の記憶を持っているという事を知っている。だから俺はラクスの言葉を信じる」
一旦プラントに戻ったアスランにラクスは自分の知っている事を話していたのだ。
アスランはラクスの語る言葉に耳を傾けた。
そしてアスランもニコルの話をラクスに話した。
「ラクスは喜んでいたよ。今までずっと自分だけが前世の記憶を持っていると思っていたらしい。ニコルに一度会いたいそうだ」
「大変光栄です」
ニコルはそう言ってアスランに微笑んだ。
キラはラクスに会いたかった。
今すぐプラントへ飛んで行きたかった。
ラクスを抱きしめてお互いを求めあい、共に将来の事を語りあいたかった。
「その話の中だと、私とオーブは地球軍の攻撃で国ごと焼かれて死んだらしいな」
そうカガリはつぶやく。
前世のカガリは無人島でアスランと知り合ったが、その後再会する前にアスランが戦死したので会っていない。
カガリには前世の記憶が無い。
キラもアスランもカガリも、ニコルとラクスから聞いた話だけを頼りにしている。
だから戦争がどのように終わるかはわからない。
もし正しい未来を掴み取れたら、ナチュラルとコーディネイターの対立も激化しないのではないか?
そうなれば戦争が終わるかもしれないという淡い期待もある。
「アスラン。貴方はもう以前のアスランでは無いです。何も知らなかった時とは違います。僕もそうです。以前のニコル・アマルフィには戻れない。戻れないなら進むしかないじゃないですか」
ニコルの言葉にアスランは苦しそうな表情で俯く。
もう何も知らなかった自分ではいられなくなった。
ニコルとラクスとキラとカガリ━そしてアスラン。
彼らは同じ時代に生まれ惹かれ合い運命を共にする関係になったのだ。
「アスラン。僕達と一緒に戦ってください」
「何と戦うと言うんだ?」
「ナチュラルとコーディネイターの対立を煽る者とです。ナチュラルとコーディネイターが共存できるのはオーブという国が実践しています。僕達の敵はナチュラルでもコーディネイターでもない。もっと邪悪な勢力です」
「ブルーコスモスの事を言っているのか?」
「彼らだけではありません。まだそれが何なのか僕もわかりません。だから手を取り合いましょう」
そう言ってニコルはキラの手を取った。
そしてカガリもアスランの手を取る。
そして二人を握手させた。
「アスラン」
「キラ」
「僕達もう一度親友になれるよね?」
「元々そうだろ。泣くな馬鹿。俺だって泣きたい気分になるじゃないか」
そう言ってキラとアスランは涙を流し、二人ともカガリに抱きしめられる。
キラとアスランとカガリは抱きしめあって泣き崩れる。
ニコルはその光景にかすかな希望を見た気がした。