【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第62話 同じ血の色
キラの親友トールはかなり喜んでくれた。
スカイグラスパーという戦闘機に乗っていた彼は念願のMSに乗れて上機嫌だ。
操縦支援AIがあるとはいえ、MSが手足のように動くのが嬉しいらしい。
M1アストレイMK-2の操縦支援AIはキラが設計したOSにジャンク屋のロウが作成した物だ。
宇宙空間で危険と隣り合わせのジャンク屋の作業でミスは命取りになる。
M1アストレイMK-2はオーブ軍の次期主力量産MSとなる。
オーブ軍は実戦経験が無くパイロットの育成ノウハウも乏しい。
訓練をしたとはいえ、実際に命のやりとりをした兵とは強さが全然違う。
だからニコルは生存性をもっとも高める設計にしてある。
生存性が高ければ安心して戦えるし、生き残れば経験も積める。
トールはナチュラル用OSの有用性を証明し、機体の設計をしたキラの友人で、この機体の開発にも大きく貢献している。
エネルギーはパワーエクステンダーという大容量バッテリーが採用された。
またエリカとニコルの協力で作られた新装甲素材も採用し、防御力がアップしている。
この装甲はストライクの装甲を参考にして開発された物でビーム兵器をある程度無力化できるものだ。
また機体重量の増加を抑えながら運動性も損なっていない。
M1アストレイMK-2の主武装は対艦・対空両用の71式ビームライフル改だ。
これはM1アストレイのライフルと同じものだが取り回しがよくエネルギー消費も少ない。
そして自慢のハイパービームバズーカもある。
装甲と生存性が良く易々と撃墜されない。
そしてナチュラルでも動かせる機体。
量産機ゆえにコストが最も重視されたが大量生産によるコスト削減で補う事になる。
ただオーブ機全体の欠点として領海での迎撃性能が劣る事が問題視されている。
防御が中心の戦い方とはいえ、陸上での迎撃では分が悪い。
可能なら飛行可能のMA形態を持つMSが理想的だがオーブの技術力と生産力では無理だ。
それはMVF-M11Cムラサメの登場まで待たねばならない。
領海での迎撃は艦船と戦闘機による反撃しか期待できないが、可変可能MSシェンウーの長射程攻撃とM1アストレイMK-2のハイパービームバズーカによる地上からの迎撃が可能だ。
あとは通常兵器の戦車などしかない。
皮肉なことに政敵ロンド・ギナ・サハクの目論見通りMSの有用性を証明する事になってしまった。
「いや~楽しかったぜ」
トールはM1アストレイMK-2から降りてきて楽し気に笑う。
最初は不安だったMS操縦も思ったより簡単にできたので一安心だ。
キラはトールのMS操縦技術の高さに驚いた。
M1アストレイMK-2を手足のように動かす事ができるなんて、予想以上だ。
トールとキラはハイタッチして喜び合う。
「すげえなキラ。これならキラとも戦えるんじゃないか」
「もう、トールったらすぐ調子に乗るんだから」
そう言いながら恋人のミリアリアも楽しそうだ。
ミリアリアもこの後オペレーターとしてのテストが残っている。
複数のMSに的確に指示し、状態を把握するシステムのテストで地味だが重要な仕事だ。
トールとミリアリアと交代でサイとカズイにも来てもらう予定になっている。
四人とも急遽編入された元民間人だが実戦経験豊富なので、オーブ軍の新型システム構築に最適な人材なのだ。
「でもまさかトールがMSパイロットになるなんてね」
「まあな。俺もビックリだぜ」
そう言ってトールはミリアリアの頭を撫でる。
M1アストレイMK-2は十分戦力になると判断していいだろう。
その輪に向かってニコルは歩いていく。
なんと罵倒されても構わない。
キラの親友として生きていくのに必要な事だから。
「トール君でしたね。初めましてニコル・アマルフィです」
「ああトールだけど。君はだれだ?」
「この機体の設計を行いました」
そう言うニコルの意図を察したキラが慌てて間に入った。
だがニコルの意思は固い。
「あなた達の住んでいたヘリオポリスを襲って破壊したザフトのパイロットでブリッツに乗っていました」
「トール!!ニコルは悪くない!!命令だったんだ!!」
キラがニコルを庇うがトールは怯えるミリアリアを守るように身構えるとニコルの胸倉をつかんだ。
「お前、自分が何やったかわかってるんだよな?」
「わかってます」
ニコルの返答にトールはニコルを殴り飛ばした。
そして倒れたニコルに馬乗りになってさらに殴ろうとするが、キラがトールを止めた。
「やめろ!!トール!!」
「でもよ!!」
「いいからやめるんだ!!ニコルは悪くない!!」
そう言ってキラも必死にトールを止める。
だがニコルは立ち上がり、殴られて切れた唇から流れる血をぬぐうと頭を下げた。
「本当に申し訳ありませんでした」
「……謝って済む問題じゃないってわかってるよな」
トールの怒りは収まらない。
だがキラが必死に止めるので殴る事はしない。
そして殴り飛ばしたニコルをトールは睨みつけた。
「戦争なんだって事くらい俺だってわかってるよ。でもよ、すぐには許せそうにない」
「はい。当然だと思います」
「今は敵じゃないんだろ?」
「はい」
「ならいいさ。行こうミリィ」
そう言ってトールはミリアリアの手を繋いでブリーフィングルームへと歩いていく。
その手は震えていた。
トールも戸惑っているのだ。
ヘリオポリスを破壊し、何度も自分を殺そうとした相手を目にして。
恐怖と怒りと戸惑いの感情を冷静に見れるほどトールは大人ではない。
そしてミリアリアもトールが先に手を出したから多少は客観的に見れたがまだ大人ではない。
大人でも戦争だからという風に割り切れはしなかった。
「ニコル。あれでよかったの?」
「いいんです。彼らとはいずれ一緒に戦う事になるんですから早い方がいい」
それはつまり、ニコルはアークエンジェルとはもう戦う意志は無いという事だ。
だがザフトの命令でそれは許されないだろう。
キラともトールとも戦えないと言う自分は兵士失格だとニコルは思った。
トールに殴られて血が滲んだ唇をハンカチで拭う。
その色はトール達ナチュラルと同じ赤色だ。
ナチュラルもコーディネイターも同じ血の色なのになぜ争わなくてはならないのか。
ニコルにはまだ答えが見つからなかった。