【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第65話 廃墟
変わり果てたアラスカ基地に到着したアークエンジェルは全ての回線を使って呼びかけを行ったが返事は無かった。
ラミアス艦長はアークエンジェルで捜索隊を編成するよう指示し、キラ達も捜索に協力する事にした。
「フレイ、大丈夫?」
「……ええ」
サイがフレイに声をかけるがフレイは生返事をするのが精一杯だ。
そんなフレイの様子にミリアリアもトールも声をかける事が出来ない。
フレイは悲しみと恐怖で感情が高ぶっている感じだ。
トールやミリアリア達はフレイをそっとしておく事にした。
だがサイは違った。
サイはフレイの手を取り、フレイを部屋へと連れて行った。
この惨状を目の当たりにして何も感じない人間などいるだろうか?
もしいたとしたらそれは人ではない別の何かだ。
◆◆◆
サイとフレイはフレイの部屋へとたどり着いた。
恐怖で身体を震わせるフレイがサイの腕から離れる。
「サイ、ありがとう」
「うん。少し落ち着いた?」
「ええ……」
そう言ってフレイはベッドに腰掛けた。
サイも隣に座るとフレイの肩に手を回し抱き寄せる。
「……サイは平気なの?」
「平気なもんか。でも婚約者の前で泣いたり出来ないだろ」
「そう……」
そう言うとフレイはサイの胸に顔をうずめた。
そんなフレイをサイは強く抱きしめる。
そして二人は唇を合わせた……。
◆◆◆
カズイが食堂に入ると、トールとミリアリアが抱き合う姿が目に入る。
カズイの存在に気が付いた二人は慌てて視線を外すが、トールもミリアリアも気まずい雰囲気だ。
カズイは二人の様子を見て何かを察したようだ。
そしてカズイは食堂を出て行く。
こんな時に恋人がいれば少しは自分を保てるのにとカズイは思ったが今は一人で耐えるしかない。
廊下を歩いているとキラと出会う。
キラはパイロットスーツを着ていた。
「カズイここにいたんだね」
「キラ?」
「僕も捜索隊に志願したんだ。カズイも行く?」
「───そうだな。俺は俺の出来る事をするだけか」
そう言って頷いたカズイは先ほどまで泣いていた顔を手で叩いて格納庫へ向かった。
キラはストライクでフラガ少佐はスカイグラスパーで空から捜索し、カズイは地上車にのってキラと一緒に突破されたメインゲートへと向かう。
戦闘の終わったメインゲートの周りは破壊されたザフトのMSが散乱していて激戦の跡が偲ばれる。
カズイは近くで倒れているバクゥを見る。コクピットから大量の血と肉片が零れ落ちていた。
あまりの凄惨さにカズイは吐くがまだ捜索は始まったばかりだ。
「だれか!!誰か生きている人はいませんか!!」
カズイの声に応えるものはいない。
ピンと張り詰めた空気にカズイの声が木霊する。
カズイとキラは破壊されたザフトのMSをストライクで横に置くたびに声をあげるが誰もいない。
メインゲートに近づくにつれて地球連合軍の軍服にこびりついた血の塊が増える。
だがカズイもキラも感覚が麻痺していた。
そうでないと壊れてしまうからだろう。
その後メインゲートを超えた先にある司令部にたどり着く。
だがそこには死体が無かった。
カズイは司令部内部の画像をアークエンジェルに送る。
「おかしいわね。自爆なら司令部ごと吹き飛びそうなものなのに。どう思うナタル?」
「大変言いにくいですが、司令部は自爆前に脱出していたと考えていて間違いないかと」
「当時司令部にいた筈の指揮官達を調べて」
「はっ!!」
ナタルが軍のデータでアラスカ基地の指揮官を調べるとブルーコスモスの関係者ばかりだった。
特に熱烈な信奉者と疑われるウィリアム・サザーランド大佐とその取り巻きの名前が挙がった。
『ブルーコスモス』
ラミアス艦長の頭の中をこの単語がぐるぐると駆け巡る。
この戦争を影で扇動していると噂されている組織の名前。
地球軍がいくら劣勢でも、こんな作戦を立てる筈がない。
二人で寄り添って立ち去ったサイとフレイを思い出し、この子達をこんな目にあわさなくて良かったと心の底から安堵した。
「キラ君とカズイ君を帰艦させて。これ以上の捜索は無意味です」
あんな凄惨な光景を子供たちに見せ続ける訳にはいかない。
それにラミアス艦長には今後の行動を考える必要がある。
上層部からは何も言ってこない。
おそらくアークエンジェルもアラスカ基地と一緒に破壊されたと思っているのだろう。
この場合、アラスカ基地を放棄してパナマへと向かうべきかもしれない。
だが間違いなくパナマにはブルーコスモスの者たちがいる。
今度こそ抹殺されるかもしれない。
何故ならアラスカ基地が味方ごと自爆したと知ってしまったからだ。
「僭越ですが艦長。少しご休息なさるべきかと」
副官のバジルール中尉がそう言うと、ラミアス艦長は意外な事を言うものだと思う。
いつもなら早急に判断を乞うと急かすのに休めと言う。
どういう心境だろうか。
「艦長がそのように疲労困憊では兵の士気にも関わります。なにより冷静な判断は出来ないでしょう」
「それもそうね。ありがとう。少し休むわ」
「はっ」
そう言ってラミアス艦長はブリッジを重い足取りで後にした。
代わってバジルール中尉が艦長席で全員交代で休むようにと指示をだす。
「ノイマン少尉。君も休みたまえ」
「しかし私がいなくては誰がアークエンジェルの操舵をするのですか?」
「命令だ休め。いざとなったら私が操舵する」
そう言ってバジルール中尉はブリッジクルーの半数を休ませた。
今は少なくとも敵はいない。
むしろ生き残った敵がいてくれたほうがマシだとバジルール中尉は思う。
そんなバジルール中尉を見ながら無茶をする人だとノイマン少尉は微笑んだ。
ヘリオポリスにいたころは人間味の無い完璧な軍人らしい軍人で今でもそうだが。
何か温かみのようなものが芽生えたのは、多分キラ達ヘリオポリスの子供たちと接したからだろう。
こうしてノイマンのバジルールへの好感度が再び上がった。