【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第66話 再びオーブへ
アークエンジェル乗員は交代で休息を取った後、全員が食堂へと集まった。
そこでラミアス艦長の決断が発表される。
「我々はアラスカで見てはいけない物を見てしまいました。このままパナマにたどり着いても拘束されるでしょう。またアラスカが落ちた以上、ザフトの攻撃はパナマにあるマスドライバーになります。ですから我々はパナマへ向かいません。そしてオーブに行きオーブ政府に保護を求めます。これは私マリュー・ラミアスの独断であり、この場にいる全員にはなんら責任はありません」
ラミアス艦長の言葉に食堂にいた皆がざわめく。
当然キラ達もだ。
「しかしそれでは艦長が軍法会議に問われます!!」
バジルール中尉がそう言うとラミアス艦長はバジルール中尉に微笑んだ。
アークエンジェルと乗員を守るためラミアス艦長は銃殺刑を覚悟しているのだ。
そう察したバジルール中尉はやりきれない気持ちで俯いて床を蹴った。
「おいおいそんなに気負うなって。俺たち戦友って奴でしょ?」
フラガ少佐が陽気に笑いながら皆を見回す。
皆の緊張が少し和らいだ。
フラガ少佐は場を明るくする天才だとキラは思う。
皆がフラガ少佐に注目すると、彼は口を開いた。
「艦長が言うように俺たちはアラスカで見ちゃいけない物を見ちまった。軍は間違いなく情報統制を命じるだろう。そうなったら最悪抹殺される。早く逃げないと敵にも味方にも見つかっちまうぜ」
フラガ少佐の言葉にキラ達は事態の深刻さを思い知らされる。
アークエンジェルは敵であるプラントだけでなく地球連合軍からも追われる立場になった。
何故なら今回アラスカで戦った部隊の大半はユーラシア連邦の兵で、それをあんな方法で自爆させたなどとユーラシア連邦に証拠付きで流されたら、大西洋連邦とユーラシア連邦の関係に深い亀裂が走る。
プラントとの戦争後、内戦になる可能性は極めて大になるのだ。
その意味でもブルーコスモスはアークエンジェルを存在させてはいけない。
フラガ少佐はアラスカで見てはいけない物を見た以上パナマには行けない事、そしてこのままオーブへ向かう事を話した。
オーブは中立国でありプラントと地球連合どちらにも組しない国である。
だがオーブとて、一度は仕方なく受け入れたとはいえ二度目はどうなるかわからない。
しかしラミアス艦長はオーブなら受け入れてくれるという確信に似た思いがあった。
「アークエンジェルはオーブへ向かい出航します。各員持ち場についてください」
ラミアス艦長の言葉に皆それぞれの配置につく。
いつ戦闘になるかもわからない状況なのでキラもパイロットスーツを着て格納庫へ向かった。
そのキラの目の前に深紅と白のパイロットスーツを着たフレイが現駆け寄る。
「キラ、今までごめんなさい」
「フレイ?」
「私ずっと甘えてた。サイにもキラにもみんなにも。アラスカに行けば助かるって思ってた」
「───フレイ」
「あんなやり方で味方ごと自爆するなんて人間のする事じゃない。それを昨日サイに教わったの」
「フレイ、君はサイと?」
「私、昨日はサイと一緒の部屋にいたわ」
「そっか……ふっきれたんだね」
憧れていた女の子が親友である婚約者と結ばれた。
それなのに少し胸が苦しい。
キラはそんな感情を認めたくなかった。
フレイは格納庫にある二機目のストライクガンダム。
各部を強化され関節部の動きがよくなりオートバランサーの設定が絶妙なニコルが設計した赤色のMS。
フレイ専用MSレッドストライクを見上げる。
「これを作ってくれたニコルにも感謝しないとね」
「そうだね。きっとニコルも喜ぶよ」
「私、今でもコーディネイターは苦手よ。でもブルーコスモスはもっと嫌い。だってアラスカの人たちにあんなひどい事したんでしょ。許せないわ」
フレイはそう言うとレッドストライクガンダムに乗り込んだ。
ナチュラル用OSの状態は良好で、この機体なら十分ザフトと戦えるだろう。
トールもスカイグラスパーに乗り込み待機する。
フラガ少佐はバジルール中尉と戦闘になった時のシミュレーションを立てている。
アークエンジェルはヘリオポリス脱出後、最大の危機を迎えていた。
キラもストライクに乗り込む。
サイとフレイの事は気になるが、今は戦いに集中しなければならない。
だが戦闘になった場合、自分は本当に戦えるのだろうか?
そんな事を考えるのはやめにしてコクピットで待機する事にした。
やがてラミアス艦長の指示の元、アークエンジェルはオーブに向けて発進した。
◆◆◆
プラントの首都アプリリウス市のザフト最高司令部ではパトリック・ザラが怒り心頭でデスクに拳を叩きつけていた。
ザフト地上軍の七割を動員したオペレーション・スピットブレイクは大失敗し、参加兵力の八割を失ったのだ。
しかもナチュラルの自爆という形で。
「おのれナチュラル共め!!」
怒り狂うパトリックの後ろで冷笑している仮面の男、ラウ・ル・クルーゼは対照的に気分がよかった。
彼は戦況報告という名目でプラントに帰国していたのだ。
無論サイクロプスによる自爆計画は知っていたが報告はしなかった。
(ナチュラルは所詮ナチュラルか。しかしアラスカの自爆でザフトが大打撃を受けた事は確かだ。これからどうするパトリック・ザラよ)
クルーゼの冷笑に気が付かないパトリックは怒りを露わにしている。
ザフトは現在の被害状況と詳細な情報を集めていた。
受けた損害は多大だが、すぐに地上戦力を失う訳ではない。
だがパナマを放っておく事などできはしない。
「パナマを放っておくのはまずいですな」
「そんな事はわかっている!!すぐにパナマを討つ!!」
クルーゼはほくそ笑みながら、ザフトにパナマを落させたほうがいいか考える。
ザフトがパナマを落せば地球連合は全てのマスドライバーを失う事になる。
では次に地球連合が狙うのはどこになるか。
オーブの持つマスドライバーかアフリカのビクトリア湖を干拓して作ったマスドライバーのどちらかだろう。
ザフトが全てのマスドライバーを破壊、ないしは占領すれば地球軍は手も足も出ない状況になる。
地球での戦いはマスドライバーの奪い合いなのだ。
(今戦争を終わらせては駄目だ。人類が絶滅するまで。いや絶滅せずとも自らが招いた罪と罰を与えるまでは戦争を続けて貰わなければならない)
クルーゼは人類が自らの業で滅びるなら構わないと思っている。
逆に人類が絶滅戦争を思いとどまり生き延びるのも良いとも思っていた。
人が妬み軽蔑し見下し憎しみあう。
その先にあるのが絶滅であればそれでいい。
(そういえば、ニコルにレイのピアノを見て貰う約束はまだだったな)
何故か元部下で今はオーブにいるニコルの事を思い出した。
きっとニコルならレイとも仲良くなれるだろう。
人類が生き延びてニコルが生きていたらレイを託してもいいかもしれない。
等と考えてしまった自分をクルーゼは不思議に思った。