【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第67話 父と子
プラント首都アプリリウス市のプラント最高評議会でアスランはオーブの量産MS、M1アストレイの性能や実際の評価などを説明する。
アスランの提出した資料はニコルがまとめたもので、アストレイの詳細な設計図などのデータが書き込まれ実際に見たアスランが説明するので説得力があった。
だが一人だけこの資料に疑問を持つ人物がいる。
ニコルの父親でMS開発設計生産を行うマイウス市の代表ユーリ・アマルフィだ。
彼は自身も有能な設計者だから息子のニコルがアスランに持たせた設計図の違和感に気が付く。
アスランの説明ではM1アストレイはGAT-X105ストライクをベースに設計されているという説明だが、あまりにもよく似すぎている。
もしオーブが量産するのがストライクの簡略版なら、わざわざアスランが直接報告に来る必要が無い。
そんなMSを今更作っても進化したザフトやこれから戦場に出てくるだろう地球連合のMSに対抗できる訳がない。
またあくまでストライクと同性能機を量産しようとしているなら量産機で最も重要な量産性に欠ける。
一本の名刀より百本の槍という言葉通り、ストライクという名刀を量産しようとしても不可能だろう。
ユーリが議場を見渡すとナチュラル用OSの完成度の高さに興味が集まっており、M1アストレイの装備に興味を持ったイザークの母親のエザリア・ジュールがアスランに武装を詳しく質問していた。
エザリア・ジュールは兵器開発の専門家で彼女の出身地マティウス市は兵器開発力に優れている。
だがエザリアもM1アストレイの違和感に気が付かなかった。
この場にいる者で違和感を感じているのはユーリとアスランだけで、他の参加者は疑っていない。
そもそもニコルが設計図を偽造する理由が無いし、偽造だとしてもよく出来ている。
パトリック達の注意をナチュラル用OSと武装に引くように資料が作成されている。
(あの子は何を考えているのだ?)
戦場でショックを受け心を病んだという文(ふみ)を貰ったとき、ユーリと妻ロミナはどれだけ心を痛めただろう。
すぐにザフトを除隊して家に帰るように説得する文を送り、それに対してニコルはオーブ駐在の軍事顧問という仕事を求めた。
ユーリならいくらでもニコルを安全な場所に保護する事が出来る。
ザフトを退官したくないというなら、マイウス市のハインライン設計局でテストパイロットという地位にする事も可能だった。
ニコルがザフトに入隊すると言った時、最初から安全な後方で守ればよかったのだ。
アマルフィ夫妻は今でも後悔している。
元々ピアニスト志望のニコルに戦場で人を殺すなど向いてはいない。
だがニコルはいつの間にか暖かくて穏やかな両親の腕の中から巣立ってしまった。
(お前が何を考えていても、私とロミナは何があっても味方だよ)
そう思ったユーリは手をあげて発言する。
パトリック達評議会議員とアスランの視線がユーリに集まった。
「オーブが開発したM1アストレイは十分我々のジンと互角に戦え次期主力機ゲイツにも迫る性能があると私は判断します。このような強力な機体をナチュラルが手にするとは予想外でした。ですがこれはあくまで我がザフトの軍事顧問の協力で開発された機体であり、地球連合が現在開発しているナチュラル用OSはここまでの完成度は無いでしょう。つまりオーブが中立を維持し続ける限り我々の脅威とはなりません。オーブにはマスドライバーがあり、もし地球連合が新たなマスドライバーを手に入れようとオーブに侵攻した場合、地球連合は手痛い反撃にあうでしょう」
ユーリの言葉に議員たちは議論を始めた。
オーブがあくまでプラントとも地球とも戦わないというなら問題はない。
プラントはオーブが地球連合に参加しマスドライバーを提供しようとしない限り、オーブと戦う必要はないのだ。
アラスカ基地を攻撃し失敗したオペレーション・スピットブレイク。
その次に地球軍の基地でマスドライバーがあるパナマを攻撃しようとしているプラントにとってオーブは現時点で敵ではない。
問題はパナマを失った地球連合が、どこのマスドライバーを狙うかだ。
その中にオーブが入っている可能性はあるだろう。
その場合オーブを見くびった地球連合に立ちはだかるのがM1アストレイという訳だ。
最終的に地球連合が押し切るだろうが、オーブ側の反撃も激烈な物になるだろう。
最後にパトリック・ザラが会議を締めくくる。
「オーブが開発したMSの有用性は認めざるをえん。たとえそれがナチュラルの作ったものでもだ。だがそれは我々に敵対するものではなく脅威とはなりえない。問題は地球連合が開発しているMSがどの程度の性能かという事だ。たとえ量産機と言っても奴らの国力で量産されてはやっかいだ。我々は今度こそ小癪なナチュラルに正義の鉄槌を下し、この戦争を我々の勝利で終わらさねばならん。パナマ攻略戦は予定通り開始する」
パトリック・ザラはこの時点ではかろうじて理性を保っていた。
この日の会議の事をユーリ・アマルフィは日記にそう記している。
◆◆◆
会議のあとアスランは父親に即時停戦を求めるべく執務室で対面した。
パトリックのパナマ攻略の意思は固い。
即時停戦など進言してはアスランといえど、ただでは済まないだろう。
だがそれでもアスランは父親を信じたかった。
執務机につくパトリックの顔は疲労の色が濃い。
戦争が始まってから激務が続いたのだろう。
そんな父の姿を見てアスランは胸を詰まらせた。
「私は忙しい。話は手短にしろ」
「はい父上」
「何だそれは」
「申し訳ありません!!ザラ議長閣下!!」
「それで何が言いたい」
「地球との即時停戦と和平を申し入れてください」
アスランの言葉にパトリックはため息をついた。
そして呆れたように首を振る。
パトリックはけして良い父親では無かったが、こんなに失望されたのは初めてだ。
「それはシーゲルの入れ知恵か?それともラクス・クラインにでも誑かされたか?」
「ちがいます!!自分はただこのまま戦い続ければどちらかが滅ぶまで戦いは終わらないと言っているのです!!」
「そうとも!!ナチュラルは滅ぼさねばならん!!新人類、進化した我らコーディネイターを妬み足を引っ張る奴らなど宇宙には不要だ!!」
「それは違います父上!!ナチュラルにも立派な人や正しい人もいます!!自分はそれを見てきました!!」
「くだらん妄想はやめろ!!お前はシーゲルやラクスに騙されているのだ!!お前の母親を誰が殺したのか忘れたのか!!ナチュラルだぞ!!」
アスランの顔色が変わった。
確かにナチュラルの中にはコーディネイターを妬み、その排除を考えるブルーコスモスのような者がいるだろう。
だがそうでない者もたくさんいる筈だとアスランは信じていた。
ナチュラルにもカガリのような少女もいるのに。
しかしパトリックはナチュラルへの蔑視と憎しみで目の前の事しか見えていない。
そんな父の顔をこれ以上見ていられなかった。
(父上は変わってしまった)
いや違う。自分が知らなかっただけで父は昔からこうだったのではないか?
母レノアとパトリックはよく口論していた。
コーディネイターを進化した人類だと信じているパトリックと、能力があるだけで同じ人間だというレノア。
二人の溝は深くなっていき、農学にのめりこんだ母は父と疎遠になっていった。
そして和解の機会は永遠に失われた。
母が農業プラントの責任者として赴任していたユニウス・セブンが地球軍の核で焼かれたからだ。
レノアがブレーキをかけていたパトリックの優勢人種思想に歯止めがかからなくなったのだ。
「くだらん事を言っている暇があったらすぐ前線へ戻れ。パナマ攻略戦で功績を挙げてこい。これは命令だ」
久しぶりに会った父親はすっかり変わってしまった。
以前はもっと話を聞いてくれる人だった。
不器用だが優しい人だった。
母と自分を愛してくれた人だった。
今目の前にいる人物がアスランの思い出の中にある父親とは思えない。
アスランとパトリックの間には修復困難な溝が広がっていた。