【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第68話 和平へ向けて
ザフトはアラスカでの失態とパナマ攻略の確実性を期すためにニュートロンジャマーキャンセラー(以後NJC)搭載のZGMF-XAシリーズの投入を決定した。
ZGMF-XAとは『Zero - Gravity Maneuver Fighter eXperiment Atomic(無重力下用試作機動戦闘機 核動力搭載型)』の略だ。
NJCを搭載したMSの投入は鹵獲されれば重要機密の漏洩というリスクはあるが、通常機では無しえない豊富なエネルギーを使えるMSは戦場の優劣を決定づけるだろう。
ザフトとパトリック・ザラがそう考えるのは当然で、パナマを落せばオーブに残るマスドライバー以外のマスドライバーは全てザフトの物となり、この戦争の勝負は決定づけられるだろう。
これが通常の戦争ならばだ。
だがこの戦争を仕組んだブルーコスモスは戦後もテロや反乱を引き起こし、結局戦争は継続状態になる。
コーディネイターが勝てばナチュラルが。
ナチュラルが勝てばコーディネイターが虐殺されるのだ。
そう考えたマルキオ導師やシーゲル・クラインは対話による停戦を唱えている。
事実マルキオ導師は地球連合首脳とプラント最高評議会の間で停戦交渉に奔走していたし、シーゲル・クラインも現状穏健派と思われている最高評議会議員を説得して回っている。
シーゲル・クラインは書面だけの和平、もっと言えば地球連合の降伏という条件では根本的解決にならないと知っていた。
ナチュラルとコーディネイターの共存を目的とした和平でなくてはならない。
「まずはエネルギー問題を解決しよう」
プラントが行ったニュートロンジャマーという装置を地上に打ち込んだ事で核分裂が不可能になった地球は深刻なエネルギー不足に陥っている。
その決定をしたシーゲル・クラインは当然非難されているが、もしシーゲルがそれをしなかったらプラント過激派は地球に一斉核攻撃を行っただろう。
それよりはマシとも言える。
自分で打ち込んでおいてと言われるだろうがシーゲルは非を認めている。
先にマルキオ導師の高弟に運ばせたNJCが届けば地球で原子力発電が可能となる。
シーゲルは再び地球が核攻撃を行うという心配はあったが、いずれ地球がNJCを開発する事は確実でそうなってからでは遅い。
地球の理性と良識と善意に期待するしかなかった。
そして完成したZGMF-XAシリーズはマイウス市で完成次第、プラント首都アプリリウス市に運ばれる事が決定している。
現時点で完成しているのはZGMF-X09A ジャスティス。ZGMF-X10A フリーダム。ZGMF-X11A リジェネレイトである。
「この三機を投入してはいけません。確かにこれで戦争という机上の取り決めは終わるでしょう。ですがそれは更なる憎しみを産む事になります」
そうラクス・クラインは主張する。
ラクスの元にZGMF-X09A ジャスティスのパイロットにアスランが選ばれたという情報が入る。
フリーダムにもリジェネレイトにも近日中にパイロットが決まるだろう。
この三機、さらに現在二機製造中で五機揃えばパナマなどひとたまりもない。
だからこそ阻止しなくてはいけない。
只の兵器として使用するには強力すぎる機体だからだ。
ラクスはアプリリウス市にあるクライン邸にアスランを招いた。
これからの計画を相談する為だ。
クライン邸には何度も来たがこのような理由で来るとは思わなかった。
中庭で一緒に散歩しながら話をする。
こうしていると仲の良い婚約者にしか見えないが、二人の中で婚約関係は解消されていた。
アスランはカガリを、ラクスはキラを愛しているからだ。
「お久しぶりですわアスラン。お元気そうですわね」
「身体は元気です。ですが父上との話し合いは失敗しました」
アスランが俯くとラクスは悲し気な表情になる。
そしてラクスは手を伸ばし、アスランの頭に手を乗せて優しく撫でた。
その行動があまりにも自然でアスランは驚く事さえ忘れている。
だがすぐに我に返り、顔を真っ赤にした。
ラクスも自分の行動に驚いたのか慌てて離れると恥ずかしそうに笑う。
二人は互いに気まずさを感じて沈黙していたが、やがてラクスの方から口を開いた。
それはこれからの計画だった。
「アスランはわたくしの話を受け入れてくださいました。キラとの戦いも回避していただけた。とても嬉しく思います」
「今でも半信半疑ですが正しい選択だったと思います。あのままでは父上と同じような考えに陥る所でした」
「実の父親を否定しなくてはならない。とても悲しい事だと思います」
「俺はラクスが羨ましい。御父上のシーゲル様は理性的だ」
「父に代わってお礼申し上げます」
「ラクスはこれからの事を考えているのでしょう?」
そうアスランは聞きながら中庭の柵に手を乗せて目の前に広がる緑の平原と湖を見つめた。
大気循環の意味もあってプラントのコロニーは水と緑が多い。
クライン邸から望む景色はいつ見ても美しい。
アスランがそんな事を考えているとラクスも同じように柵に手を置いて湖面を見つめる。
その横顔はとても綺麗だった。
自分は美しい婚約者の事をちゃんと見ていなかった。
後悔してはいないが申し訳ないという気持ちがある。
ラクスはそんなアスランに微笑む。
まるで彼の考えている事が分かっているかのように。
そして彼女は口を開いた。
ラクス・クラインはこれからの計画を語り始める。
「これがただの戦争ならパナマを落せば終わりでしょう。ですが地球連合のプラントへの憎悪はけして留まりません。今はよくても将来必ず悲劇は繰り返されます」
「同感です。でも俺は一介のパイロットで俺に出来ることは戦う事だけです。それが悔しい」
「わたくしも出来る事は限られています。ですがわたくしは戦う事だけが戦いではないと思います」
「俺もそう思う。でも俺は何をすればいい?」
「アスランはこのたびX09A ジャスティスのパイロットに任命されました。行く先はパナマですよね?」
「はい。間違いなくパナマでしょう」
「目的地をオーブに変更して欲しいのです」
「しかしそれでは命令違反になります」
「計画はこうです。X10A フリーダムとX11A リジェネレイトを、わたくしと懇意にしている傭兵の方に奪っていただいてオーブに届けていただきます。アスランはその奪還なり破壊なりを命じられるでしょう」
アスランはラクスの計画について考える。
確かにそれならオーブへ降りる事は可能だろう。
だがそれではオーブが困るのではないか?
「マルキオ様にオーブのウズミ様へ口添えをお願いしております。少しの間なら匿っていただけるでしょう」
「いつまでですか?」
「パナマ戦が終わるまでです。どちらが勝つのかわたくしにはわかりませんが、ZGMF-Xシリーズは兵器として優れすぎている為に振るえば必ず沢山の血が流れます。プラントに置いていてはいけないのです」
「だからZGMF-Xシリーズは封印するという事ですか?」
「ええ。アスランがオーブへ降りたらキラとニコル様とよく協議してください。あちらにはわたくしと過去を共有しているニコル様がいます。それにわたくしと父は当分身を隠しますので」
「身を隠すあてはあるのですか?」
「懇意にしている傭兵様に安全な場所へ送り届けていただきます」
「わかりました。くれぐれもお気をつけて」
そう言ってアスランはラクスと握手をする。
とても美しい少女は儚げな雰囲気を残しつつも強い意志を持った瞳をしていた。