【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第69話 流浪の果てに。
その事件は全ザフトを震撼させた。
所属不明の部隊にZGMF-X10A フリーダム。ZGMF-X11A リジェネレイトが奪われたのだ。
両機は秘密裏にマイウス市からアプリリウス市へと運ばれる最中だったが護衛のMS部隊が強烈な電子妨害に合い、一瞬だけ活動不可に陥った瞬間何者かに乗っ取られたのだ。
その部隊の手際は鮮やかなもので、護衛のジンでフリーダムとリジェネレイトに追いつくはずもなく。
仮に交戦したとしても数分ももたないが、死者負傷者なしという手際で奪われ鮮やかというしかない。
一瞬だけ蛇の紋章を見たという報告もあるがそんな事はパトリック・ザラにはどうでもいい。
そして二機が奪われると同時に、シーゲル・クラインとラクス・クラインの姿がクライン邸から消えた。
こちらも前日にクライン邸に勤めていた全ての執事とメイドたちに十分な退職金と共に解雇されていた事が発覚する。
明らかにこの事件は仕組まれたものだった。
その頃ジャンク屋の船、リ・ホームにラクスの姿があった。
アプリリウス市のクライン邸からサーペントテールの手によって匿われ、今はフリーダムとリジェネレイトと一緒にジャンク屋の船で移動中だ。
同時刻シーゲル・クラインも安全な場所に到着している。
ラクスはサングラスをかけたナイスバディの美女と対面していた。
「お世話になりますプロフェッサーさま」
「こちらこそ。こんなむさ苦しい船ですがごゆっくりなさってください」
ラクスと会話しているのはプロフェッサーと呼ばれる一流のジャンク屋でその世界で知らない者はいない。
美女と美少女の会話は大変絵になり、リ・ホームの乗員はその話題で持ちきりだ。
「はあ~綺麗な子だな」
「ちょっとロウ!!何鼻の下伸ばしてるのよ!!」
「そんなに怒るなよ樹里(きさと)」
ジャンク屋のロウ・ギュールと山吹樹里のコンビがドアの影から二人を覗き見し、そんな二人をリーアム・ガーフィールドが呆れた様子で見つめる。
ロウも樹里もナチュラルだがリーアムはコーディネイターだ。
皮肉というべきか、完全な実力社会であるジャンク屋や傭兵達の間でナチュラルやコーディネイターの違いはあまり関係ない。
勿論コーディネイターのほうがMSに乗れたり作業が効率的だという能力の違いはあるがそれだけだ。
パトリックがこれを知ったら泡吹いて倒れたかもしれない。
ラクスはこの人々のように人類がお互いを尊重できたらと心の底から願った。
彼らの乗る船リ・ホームは巨大でジャンク屋らしくアームなど作業用の装備が整っている。
倉庫も大きくフリーダムはそのまま搭載できたがリジェネレイトは違う。
リジェネレイトはフリーダムのほぼ二倍ある巨大なMSなのだ。
といってもピンとこないと思われるので例をだすと、デストロイガンダムとほぼ同じ大きさと言えばわかるだろうか。
リジェネレイトは四つのパーツで構成されており、ガンダム部分ではなくミーティアに似た背中にある背部ユニットにパイロットが乗る。
だから他のパーツが損傷し破壊されても背部コクピットが破壊されないかぎりパイロットが死傷することは無い。
またパーツも取り換え可能なので予備部品が残っている限り戦闘継続が可能だ。
なので分解して運ぶことが容易になっている。
「私たちはこのままオーブへ行くけどお姫様はどうするの?」
「わたくしは地球で会いたい方がいます。長く一緒に居られませんが一目でいいから会いたい。でもそれは叶いません」
「若い恋人達が会えないなんて酷い時代よね。宇宙に残るのね」
「はい。わたくしにはわたくしの、彼には彼のやるべきことがあります。ですが必ず会えると信じていますわ」
そう言ってラクスは遠い地球にいるキラを思い出し涙を流す。
今すぐ会いたい。
会って抱きしめて欲しい。
愛し合い結ばれたい。
前世で死に別れてからずっと待ち続けてきた。
あの日から待ち続け愛し続けたキラ。
一人で背負って泣いてすぐ落ち込んで、それでも歩みを止めなかったキラ。
あの時止めれば良かったと何度後悔した事か。
もし今世でも悲劇がわたくしからキラを奪うなら、わたくしはきっと正気でいられないだろう。
◆◆◆
その頃アークエンジェルは地球連合の防空圏を突破し、一路オーブへと向かっていた。
アークエンジェルのクルー達はこの艦が事実上脱走艦だという事を思い知らされる。
ザフトだけでなく地球連合に攻撃された場合にも備えている。
孤立無援という言葉の通りだ。
もしオーブが受け入れてくれなかったら地球連合に投降するしかない。
ラミアス少佐、フラガ少佐、バジルール中尉の三名は銃殺確実だろうし、クルーもよくて軍籍剥奪で最悪死刑もありうる。
だがそんな心配は杞憂だった。
オーブ軍は表向きは迎撃した演技をしたが快く迎え入れてくれたのだ。
オーブの港にアークエンジェルが入港すると、そこには懐かしい顔ぶれが待っていた。
ウズミとカガリとニコルだ。
三人はアークエンジェルを出迎える為に港で待っていたのだ。
ラミアス艦長はウズミに深々と感謝の言葉を述べている。
「再びのご厚情、感謝の言葉もありません」
「大変であったな。アラスカの事は聞いておる。まずはゆっくりと休まれよ」
そう言って入港を許可してくれるウズミの寛大さにラミアス艦長は感謝した。
そしてカガリはというと、キラに抱きついて涙を流しながら再会を喜んでいる。
キラもそんなカガリの背中を優しく撫でている。
その微笑ましい光景をウズミが微笑みながら見ていると、フラガ少佐がやってきて挨拶した。
「度重なるご迷惑をお詫びします」
「事が事だけに仕方がない。それにそろそろパナマの攻撃が開始されるようだしな」
「パナマはどちらが勝つでしょうね」
「おそらくプラントだろう。戦力の過半を失ったとはいえMSを持つプラントに地球連合のMSでは勝てまい」
「やはり地球連合もMSを?」
「持っていると思うべきだろうな。問題はその先だ」
「その先ですか?」
「パナマのマスドライバーを失った地球連合が次に狙うのはどこかという事だ」
地球の全てのマスドライバーが制圧されたら、残るマスドライバーはオーブだけとなる。
その時オーブに対して大人しくマスドライバーを貸してくれとは言ってこないだろうし、オーブも貸すつもりはない。
オーブは中立国だ。
地球連合の味方をするつもりはない。
ウズミがそんな事を考えていると、カガリがキラから離れてウズミの前に来た。
「お父様!!アークエンジェルをどうなさるつもりですか?」
「情勢が落ち着くまでオーブで匿う。すべてはパナマ戦以後の事になる」
その言葉を聞いたカガリはキラの腕に抱きつく。
そしてカガリはキラにだけ聞こえるように耳元で囁いた。
その囁きを聞いたキラも嬉しそうに笑う。
そんな二人を見てラミアス艦長が微笑ましく思っていると、ニコルが話しかけてきた。
「お久しぶりです。ザフトの僕がいうのも何ですが、ご無事でよかった」
「ありがとう。ニコルも元気そうね」
「ここは食べ物も美味しくて人も空気も綺麗ですから」
「そうね。本当にいい所だわ」
ニコルの言葉にラミアス艦長は笑顔で返す。
つい先日まで敵同士だったのに、爆弾テロ事件いらいニコルはアークエンジェルの人たちと仲良くなっていた。
銃を向けあう関係から握手する関係になるのに時間がかからなかったのはニコルの人柄による所が大きいだろう。
ラミアス艦長はニコルに笑顔を向けると、ウズミに向き直って敬礼する。
キラ達は監禁という訳ではないがアークエンジェルから降りる事は出来ない。
ブルーコスモスのテロから守る為とはいえ厳重なのは、戦争の足音が近づいているからだろう。
そして七日後。
ついにザフトによるパナマ攻略戦が始まった。