【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
こういう歴史改変物語だと主人公だけが未来を知っていますが、あえて知識を広げました。
ムウはキラに出来る事をやれと言いました。
ですができる能力とやれる事は違う。
それがキラを苦しめました。
ニコルはMSに乗って敵を倒す事はできますが、それは能力であって心とは違うと思うのです。
キラみたいに壊れないように頑張ります。
第7話 過去と未来と現在と。
アスランは自室へニコルを運ぶとパイロットスーツを脱がせた。
ニコルは汗まみれで苦しそうに息をしている。
アスランはニコルの口を開けて水を飲ませるとすぐに医官を呼ぶために寮内の端末を開く。
「はあはあ。アスラン───駄目だ。そっちにいっちゃ駄目」
ニコルが何を夢見ているのかアスランにはわからないが苦し気に手を伸ばすニコルの手を取って握りしめる。
「大丈夫だ。俺はどこにも行かない」
アスランはニコルにそう言うと医官の所へ通信を繋いだ。
「アスラン・ザラです。ニコルが過呼吸を起こして倒れましたので医官をお願いします」
『わかった。すぐに向かわせる』
端末を切るとすぐに医官がやってきた。
ニコルはまだ苦しそうにしている。
「過呼吸を起こしただけか?」
「はい」
「そうか、とりあえずベッドに寝かせてやれ」
そう言って医官は処置を始めたのでアスランはニコルから離れ大切な親友の苦しそうな様子に胸を痛めながら祈るしかない。
診察を終わらせた医官がニコルに薬剤の入った注射をするとアスランに向き直る。
「もう大丈夫だ。だが過呼吸は精神的な要因が大きい。何か心当たりはあるか?」
アスランは少し考えてから答える。
「おそらくシミュレーターの恐怖だと思います。あれは実戦並みにリアルな機械なのでショックが大きかったのでしょう」
ニコルはザフトレッドになるべくシミュレーターで敵艦隊を壊滅させたが、それはアスランが思っているよりも激しい衝撃だったようだ。
何故かニコルはシミュレーターなのに確実に敵を倒す事に執着していた。
その事が引き金になったのだろうとアスランは思ったのだ。
「わかった。今日はゆっくり休ませてやれ」
そういって医官は部屋から出ていく。
アスランはニコルの乱れた姿をみて同性なのに美しいと思った。
少女のように整った顔立ちと綺麗な緑の髪。
華奢なのに筋肉のついたしなやかな身体はとても魅力的だ。
アスランはベッドの脇に座って優しくニコルの髪を撫でる。
「う、うう───アスラン」
ニコルが目を覚ましたようだ。
まだ苦しそうだが先ほどよりは落ち着いている。
「大丈夫か?」
「はい───すみません」
起き上がろうとするニコルにアスランは慌てて手を貸す。
「無理するな。もう少し横になってろ」
そういってアスランはニコルを寝かしつけた。
アスランとニコルは同室という事もありとても仲がいいし、シミュレーターを使った授業でもコンビを組んで好成績を上げてきた。
そのアスランが見ても今日のニコルはおかしい。
あんなに好戦的なニコルは初めてみた。
「ニコル。何があったんだ?今日のお前は変だぞ」
アスランはニコルにそう問いかけるが、ニコルは口を閉ざして答えようとしない。
「言いたくないならいい。でも話したくなったら話してくれ」
そう言ってアスランは立ち上がる。
ニコルの事は心配だが今はそっとしておいた方がいいだろうと判断したからだ。
「───僕がああなったのは戦場を思い出したからです」
ニコルの突然の言葉にアスランは驚く。
アスランもニコルも部隊配属前なので当然実戦経験はない。
「どういう事だ?」
「アスランは僕が一度死んで記憶を持ったまま生き返ったといったら信じますか?」
ニコルの言葉にアスランは言葉を失う。
それは非現実的な現象で、他の人間が言ったら一笑に付しただろう。
そうならなかったのはニコルはそういう嘘も冗談もいう人物ではなかったからだ。
「───ニコルが嘘を言うとは思えない。だが信じられないな」
「ですよね。僕も同じことを言われても信じられません」
そう言うとアスランはニコルにレモンティーを勧める。
ニコルは受け取って困ったように微笑んだ。
そのまま二人とも口をつぐみ無言になる。
アスランはニコルの言葉の真意を考えていた。
死んで生き返るというのは宗教ではよくある話だ。
だが木星から宇宙鯨───太陽系外生物の骨格標本が見つかってから宗教概念は消し飛んだ。
宗教とは別次元の理由だろうか?
ニコルが一時的なショックで言い出したのかとも疑ったがニコルの瞳に迷いはない。
「アスランは、前世の記憶って信じますか?」
ニコルの言葉にアスランは驚く。
前世?それは転生という事か?
いや、そんな非現実的な事あるわけがない。
「前世なんてあるわけないだろう」
そう答えるとニコルが悲しそうに笑う。
「やっぱりそう思いますよね」
アスランはその悲しげな表情に胸が締め付けられる気がした。
そんな顔をさせたいわけじゃないのに───それが何故なのかわからなかったけど、何故かそう思ったのだ。
「いや、すまない。俺にはよくわからない。そんな便利なものがあるなんて考えたくない」
もし自分にそんな能力があれば父であり国防委員長であるパトリック・ザラに伝えてプラントへの核攻撃。
『血のバレンタイン』を防げたかもしれない。
それが不可能でも母をユニウスセブンへ行かせたりしなかった。
「僕にも何故こんな記憶があるのかわかりません。でも僕には前世の記憶があるんです」
そう語るニコルの瞳には悲しみと怒りがあった。
アスランはニコルの前世で何があったのか聞きたかったが、それはニコルにとって辛い記憶なのだろうと思い口に出せなかった。
「それで、その前世の記憶を思い出したからあんな事をしたのか?」
アスランの言葉にニコルは頷く。
「はい───僕はザフトレッドになって戦場へ出て沢山の人を殺しました。その時は平気だったはずなのに今は手が震えて」
そう言ってニコルは自分の身体を抱きしめてベッドにうずくまる。
いくら訓練しても潜在的に人間を殺し殺される事に慣れるのは難しい。
アスランもニコルも順調にいけば戦場に出る事になる。
そして人を殺すのに慣れていく。
慣れなければ自分が死ぬ。
「どうしてその話を俺にしたんだ?黙っているのが賢いだろう」
アスランがそう問いかける。
当然だ、こんな事を聞かされたら誰でもニコルを変人か精神に異常があると思うだろう。
「そうですよね。普通黙っておくべきですよね」
そう言って困ったように微笑みながら言うニコルにアスランは近づき顔を寄せた。
アスランの青くて綺麗な髪がニコルに触れて、ニコルは同性なのに見惚れてしまった。
「ニコルの見た世界で俺に何かあったのか?」
そうアスランに問われてニコルは答えに困る。
ニコルの知るアスランはストライクガンダムに止めをさされそうになって、ニコルが庇って代わりに戦死した。
それ以後は覚えていない。
ニコルはあの後アスランも殺されたと思っている。
まさかアスランと戦っていた相手がアスランの親友で、アスランを殺す意思が無かったなど知る由もない。
自分が戦死した以後の事は知らない。
もう一度同じ事がおこってもアスランには生き延びて欲しい。
だからアスランに正直に伝えようと思った。
アスランなら知ってさえいれば生き残ってくれるだろう。
そう信じたかった。
弱いと笑われてもいい。
情けない奴だと軽蔑されてもいい。
アスランには生き延びて欲しい。
「僕は前世でアスランを庇って戦死しました」
ニコルの言葉にアスランは声を失った。