【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第70話 憎しみの連鎖
アスハ邸に呼び出されたアークエンジェルの主要メンバーとキラとニコルは、ウズミとカガリとキサカの出迎えを受けた。
ついにザフトによるパナマ攻略作戦が始まったのだ。
「ついに始まった。この戦いがオーブの未来を決するかもしれん」
ウズミの言葉にラミアス少佐とフラガ少佐とバジルール中尉が頷く。
パナマが持ちこたえれば残り少ないプラント地上軍は崩壊しプラントは地上から追放されるだろう。
逆にプラントが勝てば地球連合の所有するマスドライバーは全て失われる。
そのあと地上に残る無傷のマスドライバーはアフリカのビクトリア湖かオーブのどちらかになる。
アフリカのマスドライバーはプラントが確保しており、地球連合は中立国オーブのマスドライバーを狙うかもしれない。
「サイクロプスなどと言う狂気の兵器で味方事自爆など常軌を逸しておる」
アラスカ守備軍の全滅は勇敢な玉砕と宣伝され、コーディネイターへの憎しみを駆り立てている。
特にテレビなどのマスコミが盛んに『アラスカを忘れるな!!』と宣伝し、各地で反コーディネイター演説が行われ志願兵が殺到していた。
「地球連合は中立の立場を取る国々へも地球連合への参加を呼び掛けている。むろんオーブにもだ。いやもはや脅迫だ。連合国として参戦しない場合は敵対国とみなすとまで言ってきている。ご存じの事と思うがオーブの法と理念を守るならナチュラルもコーディネイターもオーブは拒否しない。誰でも入国、居住を許可する国だ。ナチュラルだから、コーディネイターだからと言って敵対すれば軋轢を生むからだ。コーディネイターだから悪だとか言う地球連合の言葉に私は同調する事はできない」
「しかし、失礼ですがそれは理想論ではないですか?ナチュラルはコーディネイターを妬むし、コーディネイターはナチュラルを見下します。それが現実です」
フラガ少佐の言葉にウズミは頷いた。
「わかっておる。我が国とて全てが上手くいっているわけではない。だが、だからと言って諦めてはいずれ我らはお互いを滅ぼしあうしか無くなるぞ。そうなってから悔やんでも遅いのだ。それともそれが世界だと言うなら黙って従うか?」
ウズミの言葉にバジルール中尉は首を横に振る。
その姿にラミアス少佐もフラガ少佐も驚いた。
バジルール中尉が一番に反論すると思っていたからだ。
バジルール中尉は誇り高い軍人で、民間人まで犠牲にしたサイクロプスなどという狂気の兵器は認められない。
彼女は軍人であって殺人鬼ではない。
サイクロプスで少なからぬ民間人の死者で出ている。
テレビに映る手足が無くなった子供の状態を黙って見過ごすほど彼女は愚鈍ではない。
バジルール家は代々軍人の家系で軍が全てを決めてくれた。
生きる事も死ぬことも。
だがもう軍の命令で動ける立場ではない。
軍が民間人虐殺を命じたなら、それは受け入れられない。
自分で決めなくてはいけない。
ウズミはそんなバジルール中尉を見て頷いた。
「その軍服を裏切れぬというなら手も尽くそう。だが考えて欲しい。我々は何故戦うのか、誰と戦うのか。君たちは若い。真に臨む未来を見極められよ」
ウズミの言葉に皆が押し黙る。
そしてその後に手を挙げて発言したのはニコルだ。
皆の視線がニコルに集中する。
「ザフト軍人の身で発言すべきではありませんが、僕はオーブの在り方が一つの答えだと思います。僕もキラもコーディネイターでこれは自分の意思では決められません。同じくカガリもウズミ様もキサカさんもラミアス艦長もフラガ少佐もバジルール中尉もナチュラルである事は自分の意思で変えられません。ですが僕達は同じ人間です。コーディネイターの僕はナチュラルの書いた楽譜でピアノを弾きます。それは敬意があるからです。美しい曲を作ってくれた感謝があるからです。だから僕はナチュラルを見下したりしないしコーディネイターが進化した種などと思いません。僕達が戦うべきはその間違った考えだと思います」
「ニコルには誰が敵かわかっているのか?」
カガリの問いにニコルは頷く。
「ブルーコスモスです。正確にはブルーコスモスとこの戦争を煽っている人々です。僕もカガリも同じ人間です。それを忘れた時、人類は滅ぶでしょう」
ニコルの言葉に皆が頷く。
ウズミもラミアス艦長もカガリもキサカもフラガ少佐もバジルール中尉も、そしてキラとニコルも同じ人間なのだ。
同じなのに何故戦わねばならないのか?
そんな問いに答えられるものはいないだろう。
だがニコルは信じている。
ナチュラルとコーディネイターが手を取り合う未来を。
オーブでその第一歩を踏み出せる事を信じているのだ。
オーブのようにナチュラルとコーディネイターが共存する世界がある事を短いオーブ滞在期間でニコルは知った。
◆◆◆
プラントによるパナマ侵攻作戦が開始された。
大損害を受けたザフトは各拠点の守備軍を除いた動員可能の地上戦力を全て投入し総攻撃を開始する。
その戦力差は圧倒的で無謀としか言いようのない戦いだったがアラスカの報復に燃えるザフトの士気は高かった。
地球連合は集中した戦力と虎の子のMS部隊を展開し当初は互角の戦いだったが戦略兵器『グングニール』を使用する。
グングニールは強力な電磁衝撃波を発生させ、電子機器を破壊する。
これにより地球連合の持つパナマのマスドライバーと戦力の破壊に成功しザフトの勝利に終わった。
そして虐殺が始まった。
ある一人のザフト兵は言った。
「ナチュラルの捕虜なんかいるかよ」
その言葉通りザフト兵は殆ど捕虜を取らなかった。
無論この行為は彼らコーディネイターにも向けられる事になる。
お互い降伏を認めないという狂気が戦場を支配する。
◆◆◆
オーブの夕暮れはとても綺麗で太陽が海を照らす時間がニコルは好きだった。
その夕日を見ながらニコルはアスハ邸にあるピアノで即興の演奏会を開く。
先ほどの面々だけでなくアスハ邸の使用人も全て観客だ。
みな逃走劇のあとで疲れていて音楽を聴く余裕などなかった。
コーディネイターの持つ音感で演奏されるピアノの旋律は皆の心に訴えかける。
この美しい曲を作曲したのはナチュラルで、弾くのはコーディネイターだ。
そのピアノの音色は皆を魅了した。
演奏が終わると拍手喝采が起こり、カガリがニコルに抱き付く。
キラ達も深い感謝の言葉を述べてくれた。
この演奏会ナチュラルとコーディネイターがわかりあえた瞬間だった。
そしてこの日、パナマ攻略戦の勝敗が決した事を知る。
美しい旋律と裏腹に世界の混沌と狂気は深くなる一方だった