【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第71話 ラスト・コンサート
アラスカからグリーンランドに移された地球連合軍新司令部においてパナマ陥落の事実と今後の戦争指導を思案する為、地球連合首脳の秘密会議が行われた。
会議に参加した面々は顔面蒼白し今後の戦争指導に不安を持っている。
「何たるザマだこれは!!アラスカを落されてもパナマを落されては何の意味もないではないか!!マスドライバーが無くては補給を受けられない月基地は早々に干上がる!!これでは反攻作戦どころではないぞ!!」
パナマを失った地球軍はマスドライバーを失った事で地球に封じ込まれてしまった。
宇宙での拠点である月基地は補給を絶たれた状態だ。
地球から補給をうけられない月基地は攻撃を受けるまでもなく自滅してしまう。
ヒステリックに叫ぶ議員を尻目に軍事産業理事のアズラエルは心の中でため息をついた。
マスドライバーが無ければ奪えば良いではないか。
オーブかプラントが所有しているアフリカのビクトリア湖を干拓して作られたマスドライバーのどちらかを。
「ビクトリア奪還作戦の立案も急がせているものの、マスドライバーを無傷で手に入れるとなると容易にはいかん」
「オーブは、オーブはどうなっておる。再三徴用を要求しているが頑固者のウズミ・ナラ・アスハめ。どうあっても首を縦に振らん」
ムルタ・アズラエルはいい加減うんざりしていた。
こんな無能どもに任せていては勝てる戦争にも勝てはしない。
ビクトリアのマスドライバーは奪う際にプラントが破壊する可能性が高い。
オーブなら自国の利益になるマスドライバーを破壊したりはするまい。
ならどちらを攻めるか、最初から答えは決まっているではないか。
「おやいけませんなそれは。みな命をかけて戦っているというのに。人類の敵と」
アズラエルはこう言い切った。
コーディネイターは人類の敵だと。
「アズラエル、そういう言い方は止めてもらえんかね。我々はブルーコスモスではない」
「おやこれは失礼いたしました」
アズラエルは芝居がかった口調で詫びた。
彼は三十代後半で軍事コングロマリットを経営し、地球連合軍の軍需産業連合理事を務める男だが、彼にはもう一つの顔がある。
反コーディネイター活動を掲げロビー活動やテロを行うブルーコスモスの盟主がこの男なのだ。
「しかしまた、なんだって皆さま、この後に及んで中立だとか身勝手を言っている国を優しく認めてやってるんですか?もう中立だのなんだのって、言ってる場合じゃあないでしょ?」
「オーブとてれっきとした主権国家なのだ。仕方がないだろう」
反論する首脳も同意見だ。
彼も地球に存在する以上オーブが地球連合に参加するのが当たり前だと思っているのだ。
焦りでなりふり構ってはいられないとはいえ、彼らの傲慢さは明らかだ。
他人は自分たちに従うのが当たり前だと思っている。
オーブの理念などに理解さえ及んでいない。
「地球の一国家ならオーブだって連合に協力するべきですよ。違いますか?」
そう言ってアズラエル理事は立ち上がる。
「なんでしたら僕のほうで、オーブとの交渉お引き受けいたしましょうか?今は兎に角マスドライバーが必要なんでしょう?アフリカか、それとも両方か」
「それはそうだが」
「皆さんはビクトリアの攻略がある事だし、分担したほうが効率がいいでしょう。それにもしかしたらアレのテストもできるかもしれませんしね」
「まさか君は」
そう言って今まで黙っていたフレイ・アルスターの父親ジョージ・アルスター外務次官が立ち上がる。
今まで口を出さなかったがこればかりは認められない。
「あの機体を使うつもりかね」
ジョージ・アルスターは自分の策が尽く失敗した事を悔いていた。
フレイを宣伝の道具とし、戦場と反攻の女神として祭り上げようとしたのは彼だ。
ただ娘を有名にしたかっただけだった。
アラスカでサイと共にアークエンジェルから降ろし自分の元で保護する予定だった。
アラスカでかつての親友たちがサイクロプスで戦死したあと、彼らの無念を訴える悲劇の女神。
現代のジャンヌ・ダルクにするつもりだった。
ところがアークエンジェルはアラスカに到着するどころかサイクロプスの残骸を見てしまった。
フレイもただではすむまい。
「フレイ嬢はオーブで降りるでしょう。何の問題もありませんヨ」
アズラエル理事がそういうとジョージ・アルスター外務次官は黙り込んだ。
この場にいる全員が彼の娘可愛さの茶番を知っているのだ。
言い返す事が出来なかった。
アズラエルは軽蔑しきった目で同じブルーコスモスのジョージ・アルスターを見つめる。
同じブルーコスモスなのに甘すぎるのだ。
だからこんな事になる。
コーディネイターの乗るストライクを政治利用しようとするなど愚の骨頂だ。
「そのアスハさんが噂通りの頑固者なら少し凄い事になるかもしれませんよ」
そう言って会議は終了する。
アフリカのビクトリアのマスドライバーとオーブのマスドライバー。
どちらか、あるいは両方を手に入れなければならないという事で意見が一致した。
◆◆◆
ニコルは与えられた宿舎であるログハウスでささやかなピアノのコンサートを開いていた。
聞いてくれるのはシンとマユのアスカ兄妹とマルキオ導師とその養い子たちだ。
この子たちに聞いてもらうのは馴染み深いスタジオジブ〇のアニメの曲だ。
ニコルのピアノは見事なもので、普段は騒がしい子供たちも素直に聞き入る。
その後用意した食事で軽くパーティを開く。
鶏肉のローストやエビフライやハンバーグなど、子供向けの料理が並ぶ。
「お兄ちゃん。そんなに沢山取っちゃだめだよ」
「いいじゃないかマユ。今日も食べ放題なんだから。そうだよなニコル?」
「ええ、残されても困りますから沢山食べてください」
ちなみに持ち帰り用のパックの箱も用意してある。
完璧だ。
だがその用意は良い意味で裏切られ、用意した料理は子供たちとシンのお腹に収まった。
子供たちは満腹で騒ぎ疲れたのか寝ている。
ニコルは子守唄替わりの曲を弾いた。
(これは多分最後の晩餐というものでしょうね)
オーブに来て色々あった。
次に何が来るのかわからないニコルではない。
おそらく今日か明日にでも届く悲報。
地球連合によるオーブ侵攻だ。
パナマを失った地球連合が新たなマスドライバーを得ようとすれば、激しい抵抗が予想されるビクトリアではなくオーブだろう。
無論ニコルはオーブを易々と手渡すつもりはない。
プラントとオーブは軍事同盟ではないのでザフトが直接介入する事はできない。
政治的に軍事援助が出来ない時に派遣される軍事顧問という肩書。
その肩書でニコルはオーブ防衛戦に参加する事をウズミ・ナラ・アスハに求めた。
ニコルはザフトレッドというパイロットだ。
ザフトレッドに無能は存在しない。
有能の証を持っている事や、あくまでニコル個人の名目での参戦という条件でウズミを押し通した。
「君はなぜオーブの為に戦おうというのかね?」
「僕はオーブでナチュラルとコーディネイターが共に暮らせる世界を見ました。だからこの世界を守りたいです」
ウズミの問いにニコルは迷いなく答えた。
ニコルを見るウズミの目は優しくも悲し気だった。
だが問題が一つある。
ニコルが再び戦えるかだ。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したニコルは戦闘時に多大なストレスと戦わなければならない。
それでもニコルは戦いたかった。
目の前で眠る子供たちの為に。
キラ達親友の為に。
絆を結んだオーブとアークエンジェルの為に。
「ニコルさん音が乱れてるよ?」
「そうなのかな。ごめん少し集中力が途切れてたみたいだ」
「珍しいな。ニコルどこか悪いのか?」
マユとシンの言葉にピアノを弾くのを止めて二人に向き直る。
「写真を撮らせてもらってもいいですか?」
「いいけど?」
「勿論いいよ」
ニコルはシンとマユと子供たちの寝顔を背景に写真を撮った。
「ありがとうございます」
この写真があれば乗り越えられるかもしれない。
ニコルはコクピットの目立つ場所にこの写真を飾ろうと決めていた。
ニコルの心の中に押し殺した鳴き声を感じながら、マルキオ導師は悲し気に俯いた。