【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第75話 ある小心者の話
カズイの運転するバスには家族と別れ別れになった子供や年寄りが乗っていた。
カズイは基本臆病であり大勢に流されやすい。
しかし困っているどころか命の危険のある人を見捨てて逃げる冷徹さも無い。
よくも悪くも普通の子なのだ。
誰かを助ける為に自分が逃げ遅れた事に今更気が付き、ガチガチと歯を鳴らし目じりに涙をためて後悔している子なのだ。
ただ時々こういう子が火事場の馬鹿力を発揮したりするから面白い。
バスが向かったのはモルゲンレーテ社の地下シェルターだ。
ここは強固な作りで水も食料もある。
下手な屋外のスポーツ施設より余程安全だ。
「ついたよ!!みんな早く降りて!!」
地下シェルターに続く通路の入り口にバスを止めたカズイはすぐに発進しようとする。
どこへ?
まだ逃げ遅れた人がいるから戻るのだ。
他人を見殺しにできない彼は不器用な一般人だった。
ここには300人くらいの人々が手荷物だけで集まっていた。
カズイのバスから降りたマユはカズイに大きく手を振っている。
アスカ家両親はモルゲンレーテ社の社員なのでこのシェルターの事は知っていたが、地球連合がモルゲンレーテ社を奪いに来るのはわかり切っていたのでここにいる危険を理解していた。
だが周りで再会を喜ぶ人々にもう一度戦火の中、港へ行こうとは言い出せない。
幸いオーブ軍は善戦していて、もしかしたら地球連合を退けられるかもしれない。
その可能性は低いがすがりたくもなる。
その時、激しい爆音と共に照明が落ちた。
出発しようとしていたカズイのバスがひっくり返る。
すぐに非常灯がつくが逃げて来た人たちは半ばパニック状態だ。
子供が泣き喚き、その声にびっくりしたマユがシンに抱き着く。
砲火が近いのか地響きと砲撃音がシェルターの中にまで轟いた。
「せめて電気だけでもつけば」
アスカ父がそういうとカズイがバスにあったバッテリーと電灯を持ってくる。
すぐに落ちた配電盤の修理に取り掛かろうと言うのだ。
「あまり得意じゃないですけど」
「いや助かるよ。手伝ってくれ」
カズイはアスカ父と一緒に修理を開始するが難問が立ちはだかった。
地下の地熱発電施設から供給されている電気が止まっているのだ。
先ほどの一撃で電気設備に異常が発生したらしい。
いまごろ地上はパニックで、電池式で戦っているオーブ軍MSは新たな電気の供給が無いまま戦わざるをえない。
無論司令部でも工兵隊に命令して電力の復帰に懸命だが、激しい戦闘で自由に動けない。
「誰かが地熱発電施設まで行かないと直せないな」
「その地熱発電施設ってどこにあるんですか?」
「ちょうどここの地下から直通路があって行けるが、電力の復帰と配電盤の修理もしないといけない」
「マニュアルってありますか?」
「ここにある」
そう言ってアスカ父がタブレットを取り出すとそこに地熱発電所の見取り図と応急修理箇所の項目が表示されていた。
「でも普通だれかがいるはずですよね?」
「言いたくはないが……」
退避したか事故で身動きが取れないか。
もしくは死んでいる可能性もあった。
その可能性に思い至りカズイは身震いするが、ここにいる人々で手が空いているのはカズイしかいない。
こういう作業はヘリオポリスのカトウ教授の元で教わっているし出来ると思う。
地響きは鳴りやまず、子供たちの泣き声はおさまらない。
その泣き声がカズイの背中を押した
◆◆◆
ガスマスクと酸素ボンベをありったけ積んでカズイは地下通路を電気自動車で走っていた。
目的地は地熱発電所だ。
地熱発電施設に行けば電気の復帰もできる。
カズイはそう信じて通路を走っていた。
途中ひび割れて車では進めない場所にぶつかる。
歩いていくしかない。
「なんでこうなるんだよぉ~」
この小心者の少年の両肩にオーブ全ての命運がかかっていた。
このまま電力が回復しなければ、アストレイ達はすぐに電池切れになり戦況は絶望的になるだろう。
そんな事を考えると倒れてしまいそうになるのでカズイは一歩一歩ガスボンベを抱えながら歩いていく。
通路は瓦礫になっているので時折転びそうになりながらの作業だ。
地上ではキラ達が必死になって戦っているが戦況は良くないのだろう。
地響きが激しくなってきた。
「ひいい~キラ頼むよ~これ以上揺れたら俺瓦礫に埋まっちゃうよ」
カズイは今地上で戦っている友達の顔を思い浮かべていた。
サイ、トール、ミリアリア、フレイ、そしてキラ。
キラには酷い事を言ってしまった。
自分はなんて身勝手で卑怯者だったのだろう。
今だって友達が戦っているのに何をやっているんだと思う。
『そんなの戦えるやつがやってくれよ』
きっと自分がいなくてもキラがなんとかしてくれる。
ずっとキラが守ってくれていた。
なのに俺はキラになんて酷い事を。
「そうだよな……今ここにいてやれるのは俺だけだもんな」
そしてカズイは瓦礫を超えて発電所にたどり着く。
そこには技術者らしい人たちがうずくまっていた。
きっと戦闘の衝撃で破壊され有毒ガスが発生したのだろう。
隔壁も破られていて咄嗟にマスクとボンベをつけるしかできなかったのだ。
けが人も多く動くに動けなかったのだろう。
「みなさん無事ですか!?」
カズイの声に数人が力なく手を振る。
かなりのガスが発生しているらしい。
ガスマスクとボンベが無くなったら終わりだ。
「隔壁のロックはこれか」
カズイが操作すると予備の隔壁が閉じられガスの侵入が止まった。
手元のタブレットを操作して故障個所の点検を行う。
点検しつつ対処していくたびにキラの顔が思い浮かぶ。
今もキラは必死になって戦ってる。
「俺だってな、一生に一度くらいは本気になるんだぜ……多分」
最後のタービンシャフトを機械操作で取り換えると室内に電気が灯り空調がガスを排出していく。
室内が安全になったのを確認してカズイはガスマスクを脱いでへたりこんだ。
「おっかね~死ぬかと思った。もうこんなの二度とやだよ」
だがカズイにはまだやることがある。
負傷者を電気自動車に乗せて地上まで運ぶ事だ。
カズイの戦いはまだ終わってはいない。
◆◆◆
オーブ軍司令部では喝采の声が上がっていた。
いままさに電力不足で前線が崩壊しかけていたのが持ち直したからだ。
MS部隊は交代で電源をチャージし戦線復帰していく。
一時はどうなることかと心配していたカガリが額の汗をぬぐう。
「工兵隊がやってくれたな」
「いや工兵隊はまだ到着していない」
キサカの言葉に怪訝な顔をしながら、それなら発電所の作業員だろうと考えてカガリは戦闘指揮に戻る。
カガリは後に一人の少年の努力と献身が電気を守り、ひいてはオーブ軍MS部隊を救った事を知る。
最後の一人を電気自動車に乗せてモルゲンレーテに戻った少年はこの時の活躍を後にこう語ったという。
「もうかんべんしてくれよお」