【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第76話 アスカ兄妹出撃!!
カズイの活躍で電力が復帰したモルゲンレーテ社地下シェルターでは人々が落ち着きを取り戻しつつあった。
だが未だに爆音と衝撃がシェルターを揺らし、その度に避難した人々は不安になる。
実際に現在の戦況は楽観視できるものでは無く、キラやニコル達が踏ん張っている戦線は均衡状態だが他は防衛線を突破された地区もあり、司令部ではカガリが声の限りを尽くし指令を発していた。
投入できる予備戦力である第八機甲大隊も損耗が激しく、なんとか市街地への侵入を防いでいる状況だ。
先ほどからモルゲンレーテ社地下シェルター付近にも流れ弾が飛んできては爆発している。
シンはマユを守るように腕の中で抱いていた。
ぱらぱらと散る壁の粉が恐怖をあおる。
このままここにいては危険だと皆が思っているが、外に出ればミサイルや砲弾の爆発に巻き込まれて一瞬で身体が消し飛んでしまうだろう。
行くも地獄、留まるも地獄。
「シン、マユ。ついてきなさい」
アスカ両親が地下シェルターの奥を指し示す。
シンは恐怖で震えるマユを抱きしめながら歩いていくと、そこは格納庫になっていた。
シンが見上げる先にはMSとMAがあった。
「シン、マユ。お前たちが生まれた時、私たちは特別にコーディネイトしたものがある」
「父さん母さんこんな時に何を言ってるんだよ」
「黙って聞きなさい。シンは自分のコーディネイトを免疫機能の向上だと思っているようだが本当はパイロットとしての特性だ。シンには反射神経を、マユには空間認識をコーディネイトしてある」
「どうしてマユ達にそんなコーディネイトをしたの?」
「父さんと母さんがモルゲンレーテ社に勤めている事は知っているだろう?モルゲンレーテ社は軍を司るサハク家の影響力が強い会社だ。サハク家の意向もあったが母さんも私もオーブを愛している。だから万が一の時の為にシンとマユが戦えるようにしていた。まさか本当こんな状況になるとは思わなかった」
「まさか僕とマユにこれに乗って戦えって言うんじゃないよね?」
シンが父親に恐る恐る聞く。
父親の顔色は悪い。
そんな恐ろしい事を子供にやらせようとしているのだ。
言い出す事さえ辛かっただろう。
だが父親は首を振った。
もう時間が無い。
地下シェルターの外は戦場で、いつ流れ弾がシェルターの扉をぶち抜くかわからない。
そうなってはシンもマユも他の人たちも一瞬で死ぬだろう。
だから非情な決断を強いるしかなかった。
そしてシンとマユの目をしっかりと見つめる。
その目は真剣で、覚悟を決めた目だった。
父親だってこんな事はしたくないだろう。
シンは自分の父親がこんなに苦しんでいる事に気が付かなかった自分を恥じると同時に、この事態を招いた地球連合政府への怒りを覚える。
だが今はそんな怒りに身をゆだねている時ではない。
シンはマユを抱きしめる腕に力を込めた。
「俺頑張るからさ。マユはここに隠れているんだ」
そう言うシンにマユは首を振って微笑む。
その笑みは痛々しいもので、手が震えてるのが見える。
「マユだって戦うよ。だってここにいたってマユ達死んじゃうんでしょ?それじゃ命懸けで守ってくれたニコルさんに悪いもん」
「でもマユ。これに乗ったら人を殺す事になるんだぞ」
「マユだってそんなの嫌だよ。だけどお兄ちゃんやニコルさんにマユが必要なんだよね?」
「───マユ」
シンがマユをもう一度抱きしめて泣く。
その腕に手を添えてマユも頷いて少し泣いた。
二人の覚悟は決まった。
父親はMSのコックピットハッチを開き、中に乗り込むように促す。
「シンの機体はアストレイ・シルバーフレームという。まだ正式番号もついていない試作機だが十分戦えるように作られている。主武装は対艦刀とビームライフル。ビームライフルはエネルギー消費が激しいからマユのサポートを受けなさい」
銀色と青色のアストレイタイプの機体は両肩に固定されたシールドが取り付けられており、外見は具足を身に着けたサムライに見えなくもない。
固定武装として75mm対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」×2、70式ビームサーベル×2、ストライクと同じナイフであるアーマーシュナイダーがある。
携行武装に71式ビームライフル 対ビームシールドと対艦刀を持つ。
装甲はPS装甲だ。
「マユの機体はシェンウーという可変MAだ。これはシンの機体と合体する事が出来る。シンのエネルギーを十分補えるエネルギーが蓄えられている」
外見はストライクのようにガンダム顔だが背中に円盤型の盾兼武器搭載というブリッツのような形態だ。
バスターと同じ近接戦闘用220mm径6連装ミサイルポッド、350mmガンランチャー、94mm高エネルギー収束火線ライフル各三門を背中の盾に取り付けている。
手にはランチャーストライクガンダムの320㎜超高インパルス砲アグニを持つが一言で言うと巨大だ。
大きさはストライクの1.4倍はあるだろうか。
ニコルのリジェネレイトほどではないが、十分巨大の部類になる。
なぜこの大きさなのかというと、オーブ軍のイズモ級宇宙戦艦に搭載可能という制約があったからだ。
MA形態の時は背中の主武装を上面に出し、腕を収納して二本足形態になる。
白色に赤のMAはMS形態になる事も出来るが基本はMA状態になっている。
シンのシルバーフレームとMA状態で合体する事で、シンの反射神経とマユの空間認識能力が引き出せる。
欠点は合体状態では宇宙は兎も角地上では機動力が落ちる事だ。
地上で戦闘する場合はシンのサポート役だろう。
二人ともオーブ軍のパイロットスーツを着用する。
ちゃんとマユのサイズもあって、こういう事態を想定していた事が伺える。
シンはアストレイのコックピットに、マユはシェンウーに乗り込む。
そして二人はお互いの赤い瞳を見つめた。
その目は覚悟と決意に満ちていた。
二人の乗る機体が発進すると同時に地下シェルターのハッチが開きカタパルトが突き出される。
なぜそんな機能が一般企業の施設にあるのか?
だってモルゲンレーテだから。
そこから見える外の風景は地獄だった。
オーブ軍のMSが地球連合のMSと戦闘しているのが見えたのだ。
だがそれはまだいいほうだ。
地上では逃げ惑う人々がいるし、それを追い立てる地球連合のMSがいる。
明らかに民間人の殺戮を楽しんでいるのだ。
シンとマユは故郷のオーブを土足で踏み荒らす地球連合に激しい怒りが巻き起こる。
「シン・アスカ」
「マユ・アスカ」
「アストレイシルバーフレーム」
「シェンウー」
「「行きます!!」」
シンのアストレイシルバーフレームとマユの乗るシェンウーがカタパルトから射出される。
アスカ兄妹の初陣が始まった。
オーブ市民を追い詰めていたストライクダガーが纏めてシルバーフレームの対艦刀で真っ二つにされて爆発した。
マユは脳裏に浮かんだ種のようなイメージを感じて照準を合わせる。
一斉にシェンウーのミサイルポッドから発射されたミサイルと高出力のビームがストライクダガーの群れに注ぎ込まれ、一発の誤射もなく全弾命中する。
直後大爆発を起こして破壊された味方の姿に、先ほどまでの優勢が脆くも崩れたストライクダガーが後退を始めるが。
「逃がすかァァァ!!」
鬼神のごときジャンプして距離を詰めたシンの斬撃に対処する間もなく切り伏せられストライクダガーが爆発していく。
その状況は司令部にいるカガリの目にも映った。
「何だあの機体は!?あんなの私もお父様も聞いてないぞ!?」
「きっとモルゲンレーテが独自に開発していた機体でしょう」
「またモルゲンレーテが勝手な機体を作って!!」
カガリは頭をかきむしる。
モルゲンレーテはどこからあんな資金をかき集めるのかと考えたが、今考える事はそれじゃない。
モルゲンレーテ前面の敵は一掃され、シンは雄たけびを上げながらマユが戦線に穴を穿つ。
一局面だが余裕ができた。
「予備兵力を集めろ!!優先するべき守備範囲を表示してくれ」
モルゲンレーテの行為はひとまず置いて、カガリは全体の戦局を見直した。