【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第77話 舞い降りる剣
カガリと参謀たちが地図と戦況図を確認すると、やはり要はニコルとキラが戦っている海岸だ。
地球連合も幾度も攻めてはいるが、その尽くがニコルとキラによって阻止されている。
二人の活躍に期待、というより願いを込めてオーブ軍は他戦線に兵力を割いているが、その分地球連合の攻撃が海岸に集中し新型機3機相手にキラもニコルも苦戦している。
他の戦線も手一杯で二人の援護が出せない。
ここに来て突然モルゲンレーテから新型機が参戦した。
カガリは頭を抱えたが良い方向に捉えることにした。
援軍が二機も来てくれたのだ。
そう考えて天を仰ぎため息をついたあと、カガリはモルゲンレーテの機体に話しかける。
「念のために聞くがオーブ軍所属のパイロットだよな?」
「俺たちは軍人じゃない。身を護る為に戦ってるんだ」
そういうパイロットの言葉にモニターに映る映像を見ると、どう見てもストライクダガーが二十機は破壊されていた。
これが正当防衛だというなら過剰にもほどがある。
カガリは頭を切り替える事にした。
パイロットをよく見るとニコルと一緒にいた少年に見える。
確かシン・アスカと名乗っていた。
「お前はシン・アスカだな?」
「そういうお前は誰だよ」
「私はカガリ・ユラ・アスハだ」
「名前は聞いたことがあるぞ」
自分の国のお姫様の名前くらい憶えていてくれてもいいのにとカガリは思ったが気にしても仕方がない。
そもそも公式行事は堅苦しいからと殆ど出席しなかったカガリにも責任はある。
カガリはモニター越しにシンに話しかける。
「確かニコルと仲が良かったよな?」
「ニコルは親友だよ」
あいつ意外と社交的なんだなとカガリは思ったが、ニコルはキラやアスランとも親しいので人を見る目はあるのだろう。
そうであって欲しい。
「お前が軍人でないなら私には命令する権限は無いが、ニコルの親友というなら頼まれごとを引き受けてくれないか?今から座標を送る」
そうカガリが言うと参謀の一人がニコルとキラが戦っている位置を示した。
シンにもデータが送信されたはずだ。
「オーブの為と大きな事は言わないが、ニコルとキラを助けて欲しい」
カガリの目は真剣で、これから話す内容も冗談ではない事を示していた。
今ニコルとキラは地球連合の新型機相手に苦戦している事。
ここを突破されたら市街地が焼かれる事を素早く話す。
「状況はわかった。すぐにニコルとキラさんを助けに行くよ」
「すまないが頼む」
そう言って通信が切れたがキラとも知り合いだったのか?
キラってそんなに社交的な奴には見えないが……。
などと考えている暇はなく、新たな指示を出さなくてはならない。
オーブ軍には優秀な参謀がいるので大雑把な指揮でも動いてくれるが最後の決断はカガリがしないといけない。
政治と外交に忙しいウズミに代わってここにいるのだから、その責任から逃れる気はカガリにはなかった。
◆◆◆
カガリからニコル達が戦っている海岸のデータを貰ったが、走ってもかなりの距離がある。
「お兄ちゃん。合体したら早く行けるよ」
「そうだな、やってみよう」
シンのアストレイ・シルバーフレームとマユのシェンウーは合体できる。
シルバーフレームの背中にシェンウーのパーツが装着された。
シェンウーの武装はマユが担当し、合体した機体はシンが操縦する事になる。
接近戦が得意のシンと射撃が得意なマユの兄妹は呼吸も役割も合う。
アストレイ・シルバーフレームにシェンウーの装備していた近接戦闘用220mm径6連装ミサイルポッドが装着され、背中にはシェンウーの本体と350mmガンランチャー、94mm高エネルギー収束火線ライフル各三門の強化力となり、ランチャーストライクガンダムの320㎜超高インパルス砲アグニを手にする。
アストレイ・シェンウーフレームの完成だ。
シェンウー部分のスラスターを吹かし飛行する。
速度は地球連合の戦闘機では追いつかないだろう。
「マユ、砲撃は任せていいか?」
「もちろんだよ。頑張ろうねお兄ちゃん」
お兄ちゃんという言葉にシンは感激する。
もしニコルが咄嗟に守ってくれなかったらマユも両親も死んでいたかもしれない。
想像するだけで恐ろしい。
そのニコルが苦戦しているのだから助けに行かなくてどうする。
マユも同じ思いだった。
もしニコルさんが守ってくれなかったら今頃死んでいたかもしれない。
マユはニコルの事が好きだ。
これは初恋なのか本当の恋なのかマユにはわからない。
ただシンに対する愛情とは別の感情なのは確かだった。
だからこんな所でニコルさんを失いたくない。
自分の本当の気持ちがどうあれ、マユにとってニコルは大切な人なのだから。
「マユ、前から敵機が来るぞ」
「まかせてお兄ちゃん」
そう言ってマユは半球型のモニターを見る。
ピピピピピっと敵機をロックオンする音がマユの耳に聞こえた。
マユはミサイルと収束火線ライフルを放つ。
着弾と共に十機の戦闘機を撃墜した。
更に速度を上げて飛行すると眼下に苦戦しているキラのフリーダムとニコルのリジェネレイトが見えた。
二人とも三機の地球連合新型MSから味方を守りつつ戦っている。
二人の後ろには破壊されたM1アストレイとアストレイMK-2の姿が見える。
オーブ軍は迫りくるストライクダガーの撃退に必死でキラとニコルを援護する余裕は無い。
「いくぞマユ!!」
「うん!!射撃は任せて」
アストレイ・シェンウーフレームが急降下して地球連合軍のストライクダガーに320㎜超高インパルス砲アグニが浴びせかけられる。
本来連射が可能な装備ではないが、シェンウーの持つ豊富なエネルギーはそう易々と尽きたりしない。
瞬く間にストライクダガー十機ほどが爆発した。
「なんだ新型か?」
そう言ってオルガ・サブナックはカラミティガンダムの背中に装備してある125mm 2連装高エネルギー長射程ビーム砲「シュラーク」でアストレイ・シェンウーフレームを迎え撃つ。
そのビームをシンは巧みな操縦技術と反射神経で避けた。
同時にマユが94mm高エネルギー収束火線ライフルを発射する。
カラミティガンダムに命中し、オルガはコクピット内で激しく揺すられた。
「くそっやりやがったな!!」
そのままシンは対艦刀を振るいシュラークの砲口を切り落とし、カラミティガンダムに切りかかる。
接近戦に入ったシンが咆哮を上げて対艦刀を振り下ろしカラミティガンダムが徐々に破壊されていく。
その姿を見たストライクダガーがカラミティガンダムを援護しようとビームライフルを撃つが、マユは冷静にミサイルで反撃してストライクダガーを返り討ちにしていった。
オルガはコクピット内で顔を引きつらせ必死にシンの攻撃を避ける。
カラミティガンダムは砲撃戦が得意なのでシンとの戦闘は分が悪い。
しかも相手は前のカラミティガンダムを対艦刀で攻撃しつつ、後ろから迫るストライクダガーにも同時に砲撃を浴びせていた。
同時に二つの行動、しかも正確無比だ。
鬼神の戦いという表現がふさわしい。
「くそっ!!クロト援護しろ!!」
「やだね。自分の尻くらい自分で拭きな」
「てめえ!!」
そのクロト・ブエルのレイダーガンダムはニコルのリジェネレイトと戦っていた。
MA形態で鷹のような姿になったレイダーガンダムは100mmエネルギー砲「ツォーン」で攻撃しているが、ニコルはクロトの動きを予測して核エネルギーの持つ豊富なエネルギーでほぼ無制限に使用できるミラージュコロイドを展開し、ロングビームライフルで狙撃しクロト機を惑わせ続けていた。
クロトから見ればわずかな足跡と音だけが頼りなので四方八方からビームが飛んでくるような状態だ。
「うぜえよお前ら」
シャニ・アンドラスの乗るフォビドゥンガンダムはキラのフリーダムと一対一で戦っていた。
エネルギー偏向装甲「ゲシュマイディッヒ・パンツァー」でフリーダムのビーム攻撃を防いでいたが自分の攻撃も当たらない。
キラの操縦技術は神がかりで、強化人間といえど易々と当てさせてくれない。
先ほどまで三対二だった戦況は三対三と互角になっていた。
「キラ!!」
キラを呼ぶ声にキラが顔を見上げるとビーム・ブーメランがフォビドゥンガンダムに投げつけられ、焦ったシャニが後退した瞬間アスラン・ザラの乗るZGMF-X09A ジャスティスがフリーダムを庇うように前に出る。
「アスラン!!来てくれたんだ!!」
「少し遅いですよアスラン。もうすこしで僕もキラも死ぬ所でした」
キラとニコルが笑いあい、新たな援軍の出現にオーブ軍司令部は喝采の声に包まれた。
「遅すぎるぞ馬鹿」
カガリがアスランの到着に涙を流しながら目をこする。
「すまないカガリ。だがもう大丈夫だ」
「アスラン。キラとニコルを頼んだ!!」
「ああ、任せてくれ」
そう言ってアスランはジャスティスをフリーダムの援護に向かわせる。
キラもジャスティスを援護する形でビームライフルでフォビドゥンガンダムに攻撃する。
シンとマユの二人はニコルの援護に向かった。
シンが乗るシェンウーフレームはストライクダガーを次々と撃墜していく。
マユも負けじとミサイルやビームでストライクダガーを破壊していく。
オルガは完全に防戦一方となっていた。
流れが変わった瞬間をカガリは見逃さなかった。
「オーブ全軍打って出ろ!!反撃だ!!!」
戦況はオーブ軍の粘り勝ちとなり、地球連合は多数の死傷者を出して敗走した。
第一次攻撃で地球連合軍は空母護衛軍と輸送船が全滅し、投入したストライクダガーの三割を失うという屈辱的な敗北を喫したのだった。