【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第78話 休息
地球連合太平洋艦隊の旗艦パウエルの艦橋でムルタ・アズラエルは忌々し気に舌打ちを繰り返した。
オルガとクロトとシャニにはわざと薬物投与を禁じて禁断症状で苦しめてある。
役立たずの機械に相応しい扱いだ。
オルガたちは禁断症状で地獄の苦しみを味わっているが、アズラエルにとってそれはささいな問題にすぎない。
問題は第一次攻撃が失敗した事だ。
特に空母と輸送艦をニコルに沈められたので物資不足が心配される。
ハワイから急遽ストライクダガーや補給物資を積んだ輸送艦がやってくるが、到着までには時間がかかる。
「ご自慢の新型機もあまり役には立っていないようですな」
艦隊司令ダーレス提督はアズラエルに嫌味を言った。
もともと勝手に現場に乗り込んできて指揮に口出すなど、軍隊にあってはならない行為だ。
アズラエルが地球連合でいかなる地位にいるとしても、ここでは艦隊司令ダーレス提督の命令が優先される。
とはいえ、仲たがいしている場合ではない。
ユーラシア連邦を主力とした地球連合軍はアフリカにあるビクトリア湖のマスドライバー奪還作戦を数日以内に発動するのだ。
このままオーブを倒せなくては大西洋連邦の沽券にかかわる。
地球連合は大西洋連邦主導でなくてはならない。
ダーレス提督はそう考える。
今すぐ攻撃を行うか、それとも補給艦隊が到着するのを待つか。
士気が低下した将兵を率いて勝てるのか。
頭がいたい。
「すぐに攻撃を開始するべきだ!!」
艦隊司令ダーレス提督は、なんか後ろでアズラエルが喚いてるが聞こえなかった振りをした。
攻撃できるかどうか今考えているというのに鬱陶しい。
「アズラエル理事はお疲れのようですな」
「僕は別に疲れてなどいない!!」
「どちらにせよ退却してきた部隊に休養と補給をせねば戦えません。再攻撃はそれからです」
本土防衛に燃えるオーブと、オーブを舐めてかかった自軍の差は確かにあった。
だが次々と見たことが無いMSが現れて戦局がひっくり返されてしまった。
だがオーブ軍にも打撃を与えたはずだ。
そして決定的に有利なのは、地球連合には援軍と補充部隊があるのに対し、オーブ軍にはそれが無い事だ。
一晩だけでも猶予を与えてはオーブ軍が防御を立て直すだろう。
だがそれ以上に自分たちは物量で優位に立てるのだ。
艦隊司令ダーレス提督はアズラエルの進言を受け入れたという形で再攻撃の立案に入る。
両軍にとってささやかな休息の時間が訪れたのだ。
◆◆◆
オーブ軍司令部から少し離れた会議室でカガリは落ち込んでいた。
確かに追い返したが、自軍の損害は少なくは無かった。
キラ達がいなければ今頃オーブは落ちていただろう。
地球連合の物量に対処しきれない自分をカガリは責める。
その隣にアスランがいて、カガリの肩に手を置いて慰める。
「そんなに自分を責めるな。カガリはよくやってるよ」
「だが、だが私は。私にもっと才能があれば」
「カガリだけで戦争をやってるんじゃない。少しは頼ってくれよ」
「アスランっ!!」
アスランの優しい言葉にカガリの瞳から堪えていた涙が零れ落ちる。
カガリの金髪を優しく撫でてからアスランはキラたちの所へ向かう。
「カガリは大丈夫ですか?」
ニコルがカガリの身を案じて言うとアスランが少しため息をついた。
まだ少女のカガリにオーブ軍全ての将兵の責任を持つ事など不可能だ。
そんな役目は他の大人がやるべき事だが、大人たちは外交筋で動いているので手が回らない。
「かなり参っているみたいだ。無理もない」
「そうですね。カガリには少しでも状況が良くなったと思って貰って休憩させないと。総司令官が倒れたらおしまいです」
ニコルとアスランの会話を聞いていたキラも話に参加する。
三人とも自分の愛機の面倒を見ながらだから余裕もあまりない。
だがニコルのリジェネレイトは比較的軽微といえた。
見た目通りの耐久力と、壊れた部分はまるごと取り換えるという大胆過ぎる機体だから修理の手間も少ない。
対してキラのフリーダムはいくつか心配な故障個所がある。
並みのパイロットならとっくに撃墜されている程の攻撃を受けたのだから無理もない。
アスランとシンとマユが援護に来てくれるまで、ニコルとキラだけで地球連合の主力と戦ってきたのだから。
そのシンとマユは食事と休憩をして戻ってきた。
難しい顔をしている三人にマユが近づく。
「ニコルさん。マユに出来る事ないですか?」
小さな体にパイロットスーツを着たマユの姿にニコルは思わず抱きしめてしまう。
マユが驚いて手足をばたつかせるがニコルは離さない。
こんな小さな女の子を人殺しにしてしまった。
自分の不甲斐なさが情けない。
「ニコルさん。マユ後悔してないよ」
「マユちゃん?」
「だってニコルさんはマユ達を守って戦ってくれたんだよ。マユだって同じ事しただけだよ。だから後悔なんてしてない」
「……」
「それにマユはニコルさんの事が好きだもん」
マユの発言にニコルは瞳を大きくして驚く。
アスランとキラが噴き出し、シンがあからさまに不機嫌になった。
「ちょっと待てマユ!!そんなのお兄ちゃんは許さないぞ!!」
「マユが好きな人はマユが決めるの」
「だってお前とニコルじゃ歳の差があるだろ。ニコルは俺より年上なんだぞ」
「たった六歳じゃない。マユだってあと九年たったら十八歳になるし、ニコルさんだって二十四歳だもん。何も問題ないよ」
シンとマユの言い争いを聞いていたアスランがニコルに訝し気な目を向ける。
「ニコルまさかお前……こんな子供に如何わしいことしてないだろうな」
「してませんよ!?そっちこそカガリと無人島で一夜をすごしたじゃないですか!!」
「いやあれは不可抗力だ!!それに俺は何もしていない!!」
「でもカガリが好きなんでしょ?見え見えですよ」
ニコルとアスランの言い争いにキラが噴き出した。
こんな時は無性にラクスに会いたいなと思う。
彼女は今頃何をしているのだろうか?
ラクスは潜伏先を転々としながら自身の歌に合わせてプラント国民に自分の考えを広めていた。
とても危険な行為なのはわかり切っているので父親のシーゲル・クラインも止めたがラクスは聞かなかった。
前世でラクスはキラに全てを押し付けてしまった。
そんな事は全然なかったのだが、自分もキラと一緒に戦いたかったのだ。
今度こそキラの隣に立てるように。
共に添い遂げるために。
「わたくしたちは進化した種などではありません。いくら婚姻統制をしても生まれてこない子供たち。これが進化した人類だというのでしょうか?ナチュラルと結ばれた家庭では子供が生まれているのです。これが答えではないでしょうか?わたくしたちはこの愚かな戦争をすぐにやめてナチュラルと共に生きていく。それがそんなに難しい事だとわたくしは思いません。みなさん今一度考えてください。なぜ同じ人間同士がいがみ合い憎しみあい妬み蔑み殺し合うのか?この戦争は無意味だと気が付いてください」
その娘の言葉に潜伏先のコロニーでシーゲル・クラインは悲痛の表情で見つめていた。
今の自分は無力だ。
その自責の念がシーゲルを苛むが今は動く時ではない。
地球連合との和平交渉の席に立つことがシーゲルの役目なのだ。
そのシーゲルの隣に同じクライン派の議員ユーリ・アマルフィが立っている。
「子供というものはいつの間にか成長するものですね」
「……ユーリ」
「私のニコルも今頃オーブで戦っているでしょう。リジェネレイトは強い機体ですが絶対安全だとは言えません。それでも戦っている。ラクスさんもそうでしょう?」
「その通りだ。ラクスも不甲斐ない父親の代わりに戦っている」
「今は辛くても必ずシーゲル様を必要とする時が来ます。ロミナがキッシュとグラタンを焼いたそうです。ご一緒にいかがですか?」
「そうだな。ご厚意に甘えさせてもらうとしよう」
そう言ってシーゲルが匿われているマイウス市にあるニコルの実家、アマルフィ家の別荘でシーゲルは逃避行の身を休める。
ずっとユーリの好意に甘える訳にはいかないと焦りながら、シーゲルは危険を冒す娘の身を案じるのだった。