【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
スーパーロボット大戦風にアスランとニコルの合体技とか書きたいですね。
ベトナム帰還兵の話が有名ですが、相手を平気で殺せる人間と殺せない人間がいるようです。
大多数の兵士は心を病み酒や麻薬に手を染めるくらい強いストレスを感じるようです。
原作でもキラが可能な限り殺人を避けたのは当然だと思います。
第8話 ニコルの記憶
ニコルの発言に言葉を失うアスラン。
ザフトに入隊して軍人を志してから戦死する覚悟は出来ている。
それでも潜在的な恐怖はある。
それは自分が死ぬという恐怖だけではない。
人間を殺すという行為が数多くの兵士の精神を破壊した。
殺し殺されるという救いがたい行為。
「ニコルは死んだのか?」
「はい。地球軍のモビルスーツとの戦闘で戦死しました」
その恐怖を一度体験したニコルをアスランは笑う気になれなかった。
先ほどのシミュレーションで自分が死に相手を殺すという恐怖をニコルは思い出したのだ。
そして精神的ショックで倒れた。
イザークが聞いたら臆病者だとニコルを罵るかもしれない。
「地球軍がモビルスーツを開発したのか?」
「オーブ所属のヘリオポリスという資源採掘コロニーで今製造中です」
地球軍のモビルアーマーではザフトのモビルスーツに勝つことはできない。
でも彼らの能力でモビルスーツが扱えるとは思えない。
扱えたとしても戦闘経験が違いすぎる。
まして自分やニコルが戦死するような事態に陥るとは思えなかった。
「信じられないと思いますが僕を殺した相手。GAT-X105ストライクは僕より強かったです」
「まさか。そんな事はありえないだろ」
ニコルは強い。
確かにモビルスーツ戦闘はアスランやイザークより劣ると言っても並みのザフト兵より強い。
今回のシミュレーションでニコルはザフトレッド、いわゆる赤服受賞は間違いないだろう。
そのニコルが自分より強いと言ったのだからストライクというMSは余程のパイロットが操縦したのだろう。
「詳しく聞かせてくれないか?」
「僕達はヘリオポリスに潜入して地球軍のMSを強奪する任務を受けました。5機いたMSのうち4機の奪取に成功しましたが残りの1機。GAT-X105ストライクの奪取には失敗します」
ニコルはそう言うとアスランに向き直る。
「その後、ザフトがヘリオポリスの地球軍基地を奇襲して戦闘になります。僕はGAT-X105ストライクと交戦し取り逃がしました」
「それで?」
アスランが続きを促すとニコルは辛そうに言う。
「その時俺は何をしていた?」
「地球軍と交戦中でした。その後何があったのか僕にはわかりません。ただその時の戦闘でラスティが戦死します。ラスティはストライクを奪取する任務でしたから、アスランはラスティのかわりにストライクを奪いに行ったのだと思います」
アスランはストライクを奪取する任務を受けた。
しかしラスティが戦死しているなら自分がストライクを奪取したのだろうか?
だがニコルの話を聞く限り自分は地球軍との戦闘で手一杯だったはずだ。
それに───とニコルを見る。
ラスティが戦死するというならそれを防ぐ手段もある筈だ。
アスランはラスティと一緒に行動するなら、ラスティも救えるかもしれない。
「その後の戦闘でヘリオポリスは崩壊して脱出した足つき。地球軍の戦闘艦と何度も交戦し取り逃がします」
「たった1機のモビルスーツ相手に取り逃がしたのか?」
「地球軍の戦闘艦の戦闘力も侮れないものでした」
ニコルが取り逃がしたのならそうなのだろう。
アスランはイザークやディアッカ、そしてニコルと何度もシミュレーションで戦った事がある。
だが地球軍の足つきという戦闘艦とは戦った事がない。
ザフトの戦力では歯が立たなかったのだろう。
それに───とアスランは思う。
ストライクに乗っていたパイロットは誰だ?
1対4で勝てるようなパイロットを自分は知らないし、ましてラスティを戦死させるほどの技量を持つパイロットなど聞いた事もない。
そんなに凄腕のパイロットが本当にいるのだろうか。
「ニコルが俺にそんな話をするという事はその未来を変えたいのだよな?」
「はい。僕がなぜ前世の知識を持ったままもう一度やり直すのは、ストライクと足つきを今度こそ確実に破壊する為だと思っています」
アスランはニコルの話を聞いて考え込んだ。
確かにストライクと足つきが量産されればザフトにとって脅威になる。
しかし、本当にそんな事が可能なのだろうか?
量産されたストライクと、ザフトレッドのニコルを戦死させるようなパイロットがいるならザフトに勝ち目はない。
そんな化け物のようなパイロットが存在するとは思えなかった。
だがニコルが嘘をついているとも思えない。
そして何より───アスラン自身もその未来を変えたいと思ったからだ。
だからニコルに協力する事に決めた。
◆◆◆
ニコルが回復してからアスランとニコルはシミュレーターで猛訓練を開始した。
難易度を最高にして何度も二人でクリアして、それでもやめなかった。
教官のストップが出るまで何度もシミュレーションして実力を培っていった。
ニコルが言うには最高難易度でもストライク相手に通じない強さだったらしい。
「お前らおかしいぞ。もう卒業だというのにそこまでする必要があるのか?」
見ていたイザークが呆れたほどの猛訓練をしていく。
モビルスーツだけではなく格闘や射撃の訓練も欠かさない。
すべてはアスランがストライクの奪取を確実に行う為に。
ラスティが戦死するのは回避したいがそれは上手くいくかわからない。
ニコルもラスティが戦死した状況を把握していないからだ。
ストライクの奪取に成功したが落とせなかったのは自分たちの技量が劣っていたからだ。
二人は鬼気迫るという表現そのままに未来を変えようと足掻き始める。
その二人の姿に他のアカデミー生徒も触発されて訓練に励んだ。
アスランとニコルの猛特訓は教官からストップがかかるまで続いた。
その二人をある部隊へ配属する意見具申書を教官の一人が上申したのが優秀な赤服を求めていた仮面の男。
ラウ・ル・クルーゼの耳に入ったのも運命かもしれない。
◆◆◆
クルーゼは先日のニコル達のシミュレーションをニコル達の教官と視聴する。
「ニコル機護衛艦一隻を撃沈。さらに二隻目を大破───いえ撃沈しました」
「どうやら大破では気がすまん様子だな。確実に仕留める気らしい」
「意外ですね。ニコルがあれほど攻撃的だとは思いませんでした」
ニコル達の教官のレイ・ユウキの言葉に仮面をつけた人物は口元で笑う。
この子は戦闘というものをよくわかっている。
大破では脱出される。
脱出した兵士は再び銃を持って向かってくると、ニコルというアカデミー生徒は知っているのだ。
アカデミー生徒の中にはたまに戦闘で過度な殺戮を嫌う者もいるが、確実に殺しておかなければ味方や自分が殺されると知っている戦い方だ。
「あのニコルというのは実戦経験者なのか?」
「いいえ。間違いなくアカデミーの生徒です」
「アスラン、イザーク、ディアッカ、ラスティ、そしてニコル。全員私の隊に欲しいものだな」
「ザフトレッド候補者を5人同じ部隊に配属した前例がありません」
教官の言葉に仮面をつけた人物は真剣な表情で教官を見つめた後、手で教官の肩を叩く。
「前例がなければ作ればいい。それだけの事だ」
卒業と同時に彼らはクルーゼ隊に配属される事になる。
運命の日まであと2か月。