【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第80話 危機
戦況は悪化していく。
長時間の戦闘に晒されるオーブ軍に対し、定期的な交代と補給と休憩がとれる地球連合のどちらが優位かわかりきった事だ。
だがオーブにとってこれは本土決戦で負けたら故郷も家族も友人も全てを失うのだ。
オーブ軍の士気は高かったが疲労が蓄積していく。
アストレイ三人娘は他のオーブ兵より練度は高かったが、やはり女性だから体力の問題がある。
彼女たちでさえ苦戦しているのだから一般兵の被害はもっと大きい。
そして地球連合軍の物量にオーブ軍は押されている。
このままでは押し切られてしまうだろう。
カガリもラミアス艦長も焦りが募るばかりだ。
アークエンジェルの艦橋ではラミアス艦長が懸命に指揮を取っていたが圧倒的な物量になすすべがない。
「ラミアス艦長。オーブ軍司令部から通信です」
ミリアリアの報告にラミアス艦長はカガリからの通信を艦橋のメインモニターに出すように命じる。
「カガリさんどうしました?」
「この物量の嵐を止めないと作戦の立てようがない。ラミアス艦長の意見が聞きたい」
「それは私も考えていました。カガリさんの許可が頂ければ一つ作戦があります。あまり良い作戦ではありませんが」
「なんでも言ってくれ。出来る限り協力する」
「これよりアークエンジェルはマーシャル諸島の敵前線基地を襲います。ご許可ください」
「そんな事をしたらアークエンジェルは沈んでしまうぞ!!」
「このままでもそうなります。ご許可ください」
映し出されたカガリの顔には疲労の色が濃く出ていた。
だが強い意志が宿る目でモニター越しにラミアス艦長を見つめる。
そこには昨日の弱気な少女の姿はない。
カガリも激戦の中で立派な指揮官の顔になっていた。
「何時間かかると思う?」
「八時間、いえ七時間でなんとかします」
「わかった。なんとか持ちこたえてみせる」
そう言って短い打ち合わせのあとラミアス艦長は指示を出した。
「キラ君、アスラン君、ニコル君は着艦してください。シン君たちはオーブの防衛をお願い」
「待て!!俺も戦う!!」
「駄目よ。貴方たちの故郷を誰が守るの?貴方たち以外のだれがあの新型機に対抗できるというの。指示に従ってください」
もしアークエンジェルが沈んだらオーブを守って欲しいとラミアス艦長は言っている。
シンはそれに気が付いたがラミアス艦長の毅然とした態度にそれ以上何も言えなかった。
そしてオーブ本島からアークエンジェルが飛び立つ。
その上空をキラ、アスラン、ニコルの三機が護衛する。
アークエンジェルに襲い掛かる地球連合軍のMS支援空中機動飛翔体に乗ったストライクダガーや戦闘機をキラとアスランが撃墜し、ニコル機はロングビームライフルで援護射撃をする。
それを見ながらバジルール中尉がラミアス艦長に話しかける。
「常軌を逸した作戦ですね艦長」
「あら、今まで楽な戦いがあったかしら?」
「いいえ。我々らしい作戦でよろしいのではないかと。ノイマン少尉、貴官の操舵に我々とオーブの未来がかかっている。頼むぞ」
「任せてくださいと言いたいです。ちょっと荒っぽくいきますからね」
バジルール中尉の言葉にノイマン少尉が振り返って頷く。
ノイマン少尉に向かってバジルール中尉が微笑んだ。
ノイマン少尉のやる気とバジルール中尉への好感度が上がった電子音がした。
「推力最大!!アークエンジェル進路をマーシャル諸島へ。厳しい戦いになるけど各員の奮戦を期待します」
ラミアス艦長の言葉にサイとミリアリアが頷いた。
ここにカズイがいればとサイは思ったが、まさかカズイがこの戦闘のMVPだと当然知らない。
アークエンジェルはマーシャル諸島に向かう。
その上空ではキラ、アスラン、ニコルの三機が迫りくるストライクダガーを撃ち落していた。
そして地球連合軍の物量に押されつつあったオーブ軍に希望の光が見える。
それはアークエンジェルが敵前線基地を襲撃するという情報だ。
それを聞いたマユラとアサギとジュリは歓喜した。
この絶望的な戦いにも光明が見えたのだ。
だが、それでも数の差は絶望的だった。
「全軍聞け!!これよりアークエンジェルが敵基地へ襲撃をかける。あと少し、あと少しだけ皆の力をオーブに貸してくれ!!」
全てのオーブ軍将兵にカガリの言葉が届いた。
海上で、山岳で、砂浜で。
オーブ全土で戦っていた将兵の心が奮い立つ。
カガリのカリスマが崩壊しつつあった将兵の士気を持ち直した。
◆◆◆
ムルタ・アズラエルが傍らに立っている艦隊司令ダーレス提督を見やる。
そしてクククと嫌な含み笑いをした。
「まったく馬鹿ですかねェ。たった一隻で何が出来ると言うんでしょう。わざわざ落とされに来てくれて、こっちとしては願ったりかなったりですが」
「ですがヘリオポリスから単艦で逃げのびた艦です。過小評価すべきではないのでは」
「それもそうですねえ。あの三機を呼び戻します。通常戦力だけになりますがオーブはちゃんと落としてくださいネ」
「言われるまでもない。オーブへの攻撃を集中させろ。目標は敵の司令部だ」
艦隊司令ダーレス提督はアズラエルの事を軽蔑から敵視へと下方修正した。
まったく腹立たしいが上からの命令なら仕方がない。
あんな島国今度こそ落としてやる。
◆◆◆
地球連合軍の総攻撃はカガリのいる司令部に集中してきた。
防衛線は必死に持ちこたえているがこのままでは司令部が破壊されてしまう。
流れ弾が司令部を直撃し幕僚たちが吹き飛んだ。
幸い死者は出なかったが一時的に指揮機能が低下する。
カガリも飛んできた破片で頭を切り倒れた。
「う、ううぅ」
「カガリ!!」
すぐにキサカが駆け寄りカガリを支えた。
カガリは出血こそ酷いが命に別状はない。
だがカガリは司令部の惨状に青ざめる。
幕僚たちはみな傷を負っていて、電源が落ちたのかライトが明滅している。
すぐに予備電源へと切り替わるが司令部機能が低下したのは確かだ。
「カガリ、すぐに司令部を地下に移そう。ここは危険だ」
「嫌だ!!アスハ家の者が率先して逃げられるものか!!」
「ここでカガリが死んだら誰が指揮を取る!!聞き分けの無い事を言うな!!カガリの肩にはオーブ軍全ての命がかかっている事を忘れるな!!」
「……わかった。直ちに司令部を地下に移す。動けるものは私に続け。動けない者は早急に治療するように」
そう言ってカガリはキサカに背負われて司令部を地下に移す。
悔しくて涙が零れるが、そんな姿を将兵に見せる訳にはいかない。
「アスラン……アスラン…アスランっ!!」
カガリの嗚咽をキサカは聞かなかった事にした。
こんなか弱い少女が重荷を背負っているのだ。
愛しい男の名前を呼ぶくらいあたりまえだ。
自分にもこんな頃があったとキサカは思い出していた。