【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第82話 姉弟
オーブ軍の病院で傷ついた兵士がハーモニカを吹いている。
周りには包帯を巻いた兵士がベッドで呻いていた。
その軍病院に頭に包帯を巻いたカガリがやってきた。
病院内の痛々しい光景にカガリは顔を曇らせる。
看護兵がカガリの事に気が付いて慌てて敬礼をする。
カガリも敬礼を返し負傷兵のお見舞いを続けた。
「痛いだろう。すまない」
カガリが負傷兵の一人に頭を下げる。
負傷兵は頭と手足に包帯を巻いたままにこやかな笑みを浮かべた。
「なあに、姫様の苦労に比べればこのくらい」
「でも私が不甲斐ないせいでこんな目に遭わせてしまった」
「十六の小娘の肩にオーブの命運なんか背負ってる。それだけで十分ですよ。ここには姫様を恨んでいる奴なんか一人もおりませんぜ」
負傷兵がそういうと他の負傷兵も皆笑っていた。
彼らは皆英雄だ。
カガリは目に涙をためてもう一度深々と頭を下げたのだった。
◆◆◆
地球連合軍はマーシャル諸島の補給基地をアークエンジェルの砲撃で壊滅させられて撤退した。
陥落寸前だったオーブは再び救われたのだ。
ニコル達はアスハ邸で食事をとり作戦会議を行う。
アスハ邸は主な家具を全て供出して軍費に当てたので部屋が寂しい事になっていた。
その中で残った貴重な椅子とテーブルを囲んでの会議だ。
ラミアス艦長とカガリと幕僚たち。
そしてキラとアスランとニコルも参加した。
「みなご苦労だった。オーブを代表して礼を言う。ありがとう」
そう言ってカガリが頭を下げた。
その様子にラミアス艦長はカガリという少女がますます好きになる。
それはニコル達も同じだ。
「そんないいんだよ。カガリ頭を上げて」
キラが慌てて言う。
カガリは顔を上げると困ったように笑った。
その笑顔は一国の代表ではなく年相応の少女の顔だった。
そしてカガリが話を切り出す。
それはオーブの今後の方針についてだ。
地球連合軍が再び攻めてくるのは間違いないだろう。
今度は補給基地を潰したので簡単には来れないだろうが、それでも時間が経てば再び来る事は想像できた。
だからその前にこちらも戦力を整えなければならない。
そこでラミアス艦長から提案があった。
「防衛には成功しましたが時間稼ぎにしかなりません。現在ハワイを出航した地球連合の増援部隊は全力で南下中です。これを叩くのは容易ではなく、かといって時間を与えれば合流後また攻めてくるでしょう」
「キリがないな。どうしたものか」
カガリが返すと手を挙げて発言を求めた人物がいた。
ニコルだった。
「問題は目の前の艦隊と戦うより今後の戦略を見極め、オーブの勝利をどのように認めさせるというかです」
そういってニコルはコンソールを操作して地球連合の兵力配置が記された球体の地球地図をテーブルに広げた。
皆がその地図を見つめる。
「地球連合はオーブのマスドライバーとモルゲンレーテ社を狙っています。ですがマスドライバーはオーブだけではありません」
そしてニコルはアフリカの地図を指で示した。
中央アフリカの東にあるビクトリア湖を干拓した場所にもマスドライバーはある。
「現在ビクトリア宇宙港で地球連合とザフトの間で戦闘が行われています。この戦況次第でオーブの運命が変わると思います。ビクトリア宇宙港が落ちればオーブを苦労して落とす必要はありません」
ニコルの言葉に参加者は頷いた。
オーブ軍の抵抗が激しいから苦労しているのだ。
ビクトリア宇宙港が手に入ればこの戦争の終結を狙う地球連合の矛先は宇宙へ向けられるだろう。
オーブに拘っていれば地球連合はプラントによって月にあるプトレマイオス基地を失う。
それは地球連合にとって最悪の状況となる。
プトレマイオス基地を失えば地球連合は宇宙艦隊を維持できなくなり、この戦争に負ける。
「ですからビクトリア宇宙港を地球連合が落とすかどうか。いつまで両軍の戦闘が続くのかという事です」
会議の参加者は皆頷いた。
そしてカガリが口を開く。
「ニコルは地球連合がビクトリア宇宙港を落すと思うか?」
「はい。地球連合がオーブに行った戦闘の激しさを見れば、島国であるオーブでさえこれだけ苦戦しているのに陸続きのビクトリア宇宙港の防衛は不可能だと思います」
「だが地球連合だってオーブを諦めたりしないだろう」
「そうなった場合どうしようもありません。地球連合によってオーブとマスドライバーは奪われるでしょう」
ニコルの発言にみな暗い顔で頷く。
やはりどうしようもないのかと考えたがニコルは諦めていなかった。
「ですがオーブで大損害を出せばビクトリア宇宙港での損害と共に地球連合はその兵力を一時的に失うでしょう。つまりプトレマイオス基地がザフトに落とされて戦争に負けるのです」
ニコルの発言にラミアス艦長が手を挙げて発言する。
「つまり地球連合がビクトリア宇宙港を落すまでにオーブで大損害を出させればいいのね?」
「はい。これ以上の損害を出してまでオーブを落す必要が無くなったと思わせれば地球連合は引くでしょう。つまりこれから攻撃して大損害を与えて一時的に撤退させればビクトリア宇宙港を得た地球連合はオーブ攻略に拘らないでしょう」
ニコルの発言に光明がさした気になった。
この場合さした気になるのは重要だ。
追い詰められたやけの攻撃ではない明確な理由がある。
そして迷っている間に地球連合は兵力を立て直すだろう。
今度はアスランが挙手する。
「俺もニコルの意見に賛成だ。都合よく動くかはわからないが、今攻撃すれば大損害を与えられるだろう。それにあのMSはエネルギー切れが早いのか長時間は戦えないようだ。俺とキラがあのMSを攻撃している間にニコルとアークエンジェルは地球連合艦隊を叩く。これではどうだ?」
アスランの発言に皆が頷いた。
確かに今なら大損害を与えられるだろう。
「それしかないだろうな。よしそれでいこう」
カガリは指揮官に必要な能力、すなわち決断が早いという大きな利点を持っていた。
その後会議は散会し幕僚たちが作戦立案に入る。
◆◆◆
会議室を出たあとでカガリはキラを呼び止めた。
そして一枚の写真を見せる。
金髪の赤子と黒髪の赤子が写った写真だった。
その写真の裏にはキラとカガリという文字が書いてある。
「この写真は?」
「会議の前にお父様から渡された。お前には姉弟がいると」
「カガリが僕の妹だっていうの?」
「ちょっとまて。間違いなく私が姉だ」
「まだそうと決まった訳じゃないよ」
「いいや間違いなく私が姉だ」
そう言ってキラとカガリは笑いあう。
お互いこの世界に身内がいるとは知らなかった。
だが、この写真がその証拠だ。
カガリはキラの姉か妹で間違いない。
それを聞いていたニコルはアスランに耳打ちする。
「良かったですねアスラン。キラとカガリが姉弟で安心したでしょ」
「ちょっと待て。何故俺が安心するんだ」
「だってキラがカガリと仲良くしてた時アスラン辛そうでしたから。これで二人が恋人になる事は無くなって安心ですね」
「……そうだな。って違う!!俺はカガリの事を好きとかじゃない!!」
「たまには自分の気持ちに正直になってもいいと思いますよ。特に明日死ぬかもしれない戦争中なんですから後悔しても遅いです」
「……そうだな。ニコルだってマユの気持ちにちゃんと答えてやれよ」
「マユちゃんはまだ九歳ですよ?色恋は早いでしょう」
「いいから答えてやれ。出撃したら気持ちを伝える事も出来ないんだぞ」
確かにそうだ。
自分の事を好きだと言ってくれた女の子の気持ちにちゃんと答えないといけない。
そうでなければニコルが死んだあとマユは苦しむだろう。
ニコルはマユの気持ちにちゃんと答えようと心に決めた。