【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第85話 姫と赤い騎士
三人ともブルーコスモスと地球連合には恨みしか無かった。
名前も過去も全て奪い取られ、今も禁断症状を抑える薬という鎖で身体を縛られている。
三人とも長生きは出来ない。
このまま飼い殺しされるくらいならいっそ。
アズラエルを噛み殺してやる。
初めて三人の意見が一致した。
「コーディネイターが俺たちの為に薬を作るって保証はないな」
「じゃあ代案だせよ」
「コーディネイターが薬をくれるなら寝返るってのもよくね?」
確かに薬さえくれれば当分生きられる。
コーディネイターが受け入れてくれるかはわからないが、今より悲惨な事にはならないだろう。
「やるか?」
「やろう」
「めんどくせー」
問題はコーディネイターに知り合いがいない事だ。
しかも秘密で取引しなくてはいけない。
しかしどうやって?
その時激しい振動が艦を襲い音を立てて崩れ始めた。
三人は格納庫に向かうと自分のMSに乗り込む。
格納庫に火が回っており完全に手がつけられない。
燃えさかる格納庫から三人はそれぞれのMSでなんとか脱出したが今後の命令は受けていない。
見ると目の前に見慣れた黒と紫色の巨大なMSがロングビームライフルを乱射しながら艦隊を攻撃している。
「殺るか?」
「殺すも何も敵だろ?」
「でもあいつコーディナイターだろ?さっきの話聞いてくれるかもな」
ニコルがビームライフルを連射していると足元の地球連合太平洋艦隊の旗艦パウエルから見慣れたMSが三機出撃してきた。
三対一。
覚悟はしていたとはいえ、現実になるとやはり心が乱れる。
だがやるしかない。
今まで自分は一度死んだ身だからと割り切れていた。
でも今は違う。
自分を好きだと言ってくれたマユの為に死ぬ訳にはいかない。
死を覚悟してビームサーベルを構えると、鳥の形のレイダーガンダムの上に乗っている青緑色のカラミティガンダムが両手を上げていた。
どうやら戦う意志は無いらしい。
モニターにカラミティガンダムからの通信が入る。
オルガだ。
「そこのコーディネイター聞こえるか?」
「聞こえるけど、どういうつもりですか?降伏するのですか?」
「はあ!?馬鹿じゃねえのお前!!誰が降伏なんかするかよ!!」
「では何の用ですか?」
「俺たちはお前たちがこの薬を作れるか聞きたい」
そう言ってオルガはアンプルに入った液体を見せる。
ニコルは医学に詳しくないので即答は出来ない。
「詳しくは分析しなくてはわかりませんが、作れるかもしれません」
「お前たちがこの薬をくれるなら、俺たちはお前たちの側につく」
「つまり寝返るという事ですか?」
「そうだっつってんだろお前馬鹿か。薬を渡すから受け取れ」
そう言ってカラミティガンダムのコクピットハッチが開いてオルガが現れた。
レイダーガンダムもフォビデュンガンダムもビーム砲をこちらに向けたままだ。
今外に出るのはあまりにも危険すぎる。
だが三機が襲い掛かってくれば多分負けるだろう。
ニコルは胸の前で拳を握りしめてマユの事を想う。
(マユちゃん僕を守って)
そう念じてリジェネレイトのコクピットハッチをあけて近づく。
もし今ビームを撃たれたら一瞬でニコルは蒸発するだろう。
「これを受け取れ」
オルガが投げてよこした箱にはアンプルが大量に入っていた。
ニコルはアンプルをコクピットに収納しハッチを閉める。
「いいか一度しか言わねえからよく聞け。俺たちはその薬が欲しい。地球連合に義理はない。薬をくれたら寝返る」
「わかりました。受け取り場所と時間は?」
「そんなの知るかよ。お前が持ってきたら信用する。それでいいな?」
「わかりました。では薬が製造可能になったら僕が届けます。名前を聞かせて貰えますか?」
「オルガ・サブナックだ」
そう言うと三機のMSは戦場を離脱する。
味方の救援を行わないのを見ると確かに地球連合に未練はないようだ。
オルガ達が去ったあとの戦闘は一方的なものになった。
ニコルのリジェネレイトが暴れまわり敵艦隊を壊滅させている間にキラとアスランが到着し、緊急発進したストライクダガーは連携も取れないまま撃ち落とされていく。
無論地球連合に戦力は残っていたが指揮系統が麻痺した状態でフリーダム、ジャスティス、リジェネレイトの攻撃を受けて殆ど発艦する事もできず母艦ごと沈む機体が続出した。
だがキラとアスランが狙うのはストライクダガーの腕や足などでコクピットは狙わない。
その意味するところは明白だ。
命を取る気は無いという意志表示だった。
「もうやめろ!!お前たちは負けた!!旗艦も母艦も無い状態でまだ戦うのか?」
「これ以上の戦闘は望みません。おとなしく投降してください」
キラとアスランはストライクダガーのパイロットに投降を呼びかける。
旗艦も母艦も失ったパイロットや水兵達が次々と投降し脱出のゴムボートに乗って手を挙げた。
沈みゆく艦船も抵抗しなければキラもアスランもニコルも撃たない。
もはや地球連合に残された戦力は無くなったと言ってもいい。
「ゴッドフリートは使わずバリアントで逃亡する艦の機関部を狙って。抵抗する艦は敵とみなし攻撃を続行」
ラミアス艦長も無意味な殺戮は望まなかった。
尚も散発的な反撃が続いたが、それに対する返事はニコルのロングビームライフルだ。
抵抗する艦の機関部を貫通し、それでも抵抗する艦は容赦なく撃沈していく。
その光景にキラは唇を噛んで俯き、アスランはやりきれないと首をふる。
ニコルは二人に手出しさせなかった。
特に軍人教育を受けていないキラにはむご過ぎる。
ニコルは親友の二人に汚れ仕事をさせたくなかった。
速度の遅い艦船がリジェネレイトから逃れる事ができる筈もなく、殆どの艦船が停船し降伏旗を掲げる。
その後オーブ艦隊が到着し捕虜を収容しはじめた。
オーブ攻略作戦は地球連合軍太平洋艦隊の壊滅という大敗退に終わった。
◆◆◆
その頃数少ない生き残りの艦隊の中でずぶ濡れのスーツを着て身体を震わせている男がいた。
ブルーコスモスの盟主、ムルタ・アズラエルだ。
海に投げ出された彼は運よく救助され、ずぶ濡れの身体で震えながら缶紅茶を飲んでいた。
「くそっ!!くそっ!!くそっ!!やってくれたなオーブ!!絶対許さないぞ!!」
残された艦隊はハワイへ向けて敗走する。
アズラエルの戦意は衰えず、ハワイへ戻ったら再編成してオーブへ向かうつもりだった。
だがそこで情勢が動く。
地球連合軍のユーラシア連邦の部隊がビクトリア基地をザフトから奪い返し宇宙への出口が手に入ったのだ。
この状況でオーブへの侵攻で更に戦力を消耗させる事はできない。
そんな事をしたら月基地が奪われてしまうかもしれない。
アズラエルは憤ったがオーブ攻略を当面諦めざるをえなくなった。
オーブは当初予想された敗北を免れ生き残ったのだ。
◆◆◆
「みなよく戦ってくださった。オーブ政府を代表してお礼申し上げる」
そう言ってウズミ・ナラ・アスハはアークエンジェルクルーやニコルたちに頭を下げる。
その隣で笑顔なのはカガリだ。
父の代わりに軍を指揮したカガリは自身も負傷したものの、立派に務めを果たした。
戦後処理で忙しい中カガリはアスランを誘ってアスハ邸の庭園へ向かう。
カガリはドレス姿でアスランはザフトレッドの軍服姿だ。
姫と護衛の騎士に見えるし間違いでもない。
赤い騎士はMSという馬を駆って姫と彼女の国を守ったのだから。
庭園には南国の花々が咲き甘い香りが満ちていた。
椅子に腰かけた二人はお互いすこしぎこちない。
「今回は助かった。ありがとうなアスラン」
「どういたしまして。この後が問題だな。地球連合は宇宙に出てプラントと全面戦争を再開するだろう」
「アスランはどうするんだ?」
「ラクスが言っていた通り、地球連合とプラントは最終決戦になるだろう。俺は宇宙に行く」
「そうか。実は私もMSを用意していてな。この戦争の終わりを見届けようと思う」
アスランはカガリを止めようとしたが、カガリの性格上止めても聞かないだろう。
だからこう答える。
「カガリ」
「なんだよ。止めても無駄だぞ。わたしは絶対に宇宙へ!?」
カガリがその後の言葉を続ける事は出来なかった。
アスランが唇でカガリの唇を塞いだからだ。
驚いたカガリだったが拒む事無くアスランを受け入れる。
やがて唇を離したアスランがカガリの瞳を見つめる。
「カガリ。俺はカガリが好きだ」
「ばか……私が先に言おうとしたんだぞ」
顔を真っ赤にしたカガリは嬉しそうにアスランと抱きしめあう。
オーブの姫とプラントの赤騎士はこの日想いを通じ合った。