【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第86話 出撃前夜
宇宙へ上がる前にやるべきことは多々ある。
アークエンジェルの徹底的な修理とオーブ軍イズモ型戦艦クサナギの準備だ。
MSも宇宙戦用に改造しなくてはならない。
前回は駄々をこねたマユ・アスカだが今回駄々をこねている暇は無くなった。
オーブの地上が安全になった今、宇宙戦力は一機でも欲しい。
シンとマユを遊ばせていられるほど宇宙での戦いは甘くはない。
オーブ軍は微力なれども最悪の絶滅戦争を回避するべく、地球とプラントを停戦させなくてはいけない。
それはほとんど不可能な任務だが、失敗すればオーブだけでなく人類全ての未来が危うくなる。
ニコルが決意を新たにしているとカガリに呼ばれる。
その内容は編成についてだった。
「僕がクサナギに乗艦するのですか?」
「うん。やっぱり嫌か?」
「嫌じゃないですけど、僕はてっきりアークエンジェルに乗るものだと思っていた」
「その案もあった。ニコルがクサナギに乗る理由は三つある。リジェネレイトは大きすぎてどうしても搭載困難だ。アークエンジェルにはフリーダム、ジャスティス、ストライク、ストライクレッド(フレイ機)アストレイMK-2(トール機)が乗り込むのでリジェネレイトを乗せる余裕はない」
「確かにそうですね。今までは分割して空中合体していましたが今回はクサナギもいますから無理やり詰め込まなくても余裕があります」
「二つ目はクサナギの戦力が不足している所だ。現在シンのアストレイ・シルバーフレームとマユのシェンウーで、残りはアサギ、マユラ、ジュリとアストレイMK-2が数機しかいない。明らかに戦力不足だ」
「それは僕も心配していました」
「三つ目。これが一番重要なんだが」
そう言ってカガリが言いよどむ。
ニコルはカガリが何を言い出すのか固唾を飲んで待った。
そして意を決したようにカガリが言った。
「マユのそばにいてやれ」
「……」
「マユは優秀とはいえまだ九歳なんだ。宇宙に出れば不安も大きいだろう。クサナギにはシンもいるとはいえメンタル面がな」
「僕もそうしたかったですが私情を挟み過ぎだと思って言い出せませんでした」
「好きな相手がいるだけで強くなれる。そういうものだと私も最近知った」
ニコルはなるほどと頷いた。
アスランもちゃんとカガリに気持ちを伝えられたんだ。
「カガリはアスランと一緒じゃなくていいのですか?」
「お、お前なんで知ってる!?」
図星である。
カガリが慌てるのが楽しいが弄るのはよくない。
「わかりました。僕はクサナギに乗艦します」
そう言って敬礼し退室したが、カガリが狼狽えていたのを思い出し微笑ましく思った。
◆◆◆
カガリの元を離れニコルはモルゲンレーテ社に向かう。
地球軍の新型MSカラミティガンダムのパイロット、オルガ・サブナックに渡された薬の解析結果と量産が可能か聞きに来たのだ。
モルゲンレーテ社はMSだけでなく色々な技術者がいる。
地球上で暮らすコーディネイターの科学者も多く在籍していた。
そこの医学スペースに来たのだがそこに居たのは10人くらいの医学者だ。
全員白衣を着ているがニコルがくると一斉に手を上げて叫ぶ。
「我ァァァァが!!モルゲンレーテのォォォ!!医学薬学はァァァ!!世界一ィィィ!!できんことはないイイ───ッ!!」
「え、あ、え!?」
勢いに圧倒されて後ろに倒れそうになる。
どうしてこんな変人ばかりがモルゲンレーテに在籍しているのか?
だってモルゲンレーテだから。
彼らの話によれば生産は可能らしい。
言動は怪しいが優秀なコーディネイターの医学者達は付け加えた。
「それでェェェ───!!どうしてもォォォ!!この薬と同じものをォォォ───!!作れと言うのかァァァ───ッ!!」
「ええ、お、お願いします」
「こんな雑な薬ィィッィ───ッ!!作った事などナイィィッィ───ッ!!」
「ええっと、つまり?」
「我がモルゲンレーテにィィィ───ッッ!!こんな下等な薬などォォォ!!作らせると言うのかァァァ───ッ!!もっとマシな薬ならァァァ!!作ってやるゥゥゥ───ッ!!」
ようするにもっと上質の薬なら作ってやるという事らしい。
ニコルは安心して出発前に十分な量の薬を手に入れる事が出来た。
問題はどこで渡すかだが。
今からビクトリア基地に潜入してもオルガたちは宇宙に上がっていて行き違いになるだろう。
どこかで落ち合わなくてはならない。
最悪戦場の真っただ中でだ。
常にリジェネレイトに搭載しておこう。
そして事情を全員に言っておかないといけない。
誰が遭遇しても交戦せずに済ませるかが重要だからだ。
地球連合の通信コードは周知しているので誰が呼びかけても大丈夫にしないと。
ニコルはそう決意してクサナギに向かう。
その途中、マユとシンが両親と話しているのを見かけた。
アスカ家は全員クサナギに乗船する。
四人は仲良く話しながら歩いている。
ニコルは声をかけようとしたが思いとどまった。
家族の時間を大事にしてあげようと思ったからだ。
自分も家族と離れて長い時間がたつ。
今頃父さんと母さんはどうしているだろう。
◆◆◆
その頃ニコルの父親ユーリ・アマルフィはジャンク屋のプロフェッサーと名乗る妙齢な美女と握手していた。
本当ならマイウス市でエターナルとラクス・クラインを匿いたいがそうもいかない。
そこでジャンク屋に依頼して廃棄されたL4コロニーの一つに補給基地を建設していたのだ。
これでエターナルの受け入れ準備は整った。
しかもユーリは常に用心深くかつ小心者だったので、エターナル一隻が使いきれないだけの物資を蓄積していたのだ。
転ばぬ先の杖を何本も用意する性格が幸いした。
時々こういう小心者が状況を動かすのだから先が読めない。
「これで契約は終了です」
「よろしくお願いします」
マイウス市から極秘裏に補給物資を送りL4コロニーに届ける契約も新たに結んだ。
これがパトリック・ザラに見つかれば反乱と言われても言い逃れできない。
そもそも反逆者シーゲル・クラインを匿っている時点でユーリの行為は犯罪になる。
だが彼は息子を信じていた。
息子は間違えた事をしていないと。
このままプラントと地球が争えば人類は絶滅してしまうかもしれない。
自分はプラントの歴史に永遠に消えない裏切り者として記されるかもしれない。
だが自分は愛する妻と息子と人類を裏切ってはいないと確信していた。
そしてある機密がはいったディスクを傭兵のサーペントテールに渡す。
プラントの持つ最終兵器、ジェネシスのデータだ。
このデータは不要だと信じたい。
あのような非人道的な戦略兵器をパトリック・ザラが使うとも思えないが打てる手は全て打つ。
ユーリ・アマルフィは小心者だが小心者ゆえ用心深かった。
このデータは後にニコルの手にわたる。
どのような結果になるか現時点で知る者はだれもいなかった。