【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。   作:屠龍

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お待たせしました。
休憩して元気になりましたので投稿を再開します。

今回はアスランが命懸けでプラントに戻って父親と話をしようとする回です。書いてて思ったのですがパトリックってそれなりにアスランを愛していたと思うのですよね。
そうじゃないとアスランがパトリックを説得しようとは思わない。
厳格だけど優しい父親だったのかもしれません。


第88話 和平を目指して

 第88話 和平を目指して

 

 宇宙へ上がってすぐニコルは難問に直面する。

 フラガ少佐がニコルとアスランに同胞のコーディネイターを撃つ事が出来るかと聞いてきたのだ。

 

 「俺はニコルとアスランを信頼したい。二人ともザフトの人間だ。酷なようだがザフトと戦闘になった時、君たちはザフトの人間を撃てるのか?」

 

 ニコルもザフトも同じコーディネイターで仲間だ。

 オーブでの戦いはあくまで自衛での戦いであり、相手が地球連合だという事もあって躊躇しなかった。

 だがここまで来て撃てないとはいかない。

 あくまで平和を望む自分たちではあるが、おそらく地球連合もザフトもそんな言葉には耳を貸さないだろう。

 だから決めるしかないとニコルは覚悟を決めた。

 

 「撃てます。もちろん撃ちたくはない。でもオーブや砂漠で色んな人と出会ってこの世界の正義と悪と人の歪みを見てしまいました。必要があるなら、戦わねばならないなら僕は戦います」

 

 ニコルの言葉にフラガ少佐は頷く。

 アスランの答えは意外だった。

 

 「父を説得します。俺もキラやニコルみたいに色々な物を見てきました。このまま戦えば憎悪は増すばかりだ。だから俺は自分の出来る事で平和を実現したい」

 

 皆想像していなかったアスランの発言に驚く。

 アスランの父親パトリック・ザラはプラント側の最高権力者で、この戦争を行っている当事者の一人だ。

 その人をアスランが説得するなんて無理だとニコルは思った。

 

 「無理です!!アスランのお父さんパトリック議長は聞き入れないでしょう!!殺されにいくようなものですよ!!」

 

 ニコルも皆も止めるがアスランは聞かない。

 確かにパトリック議長が戦争の終結を望めば、地球連合との和平交渉を行う事も出来るだろう。

 だがその議長はユニウスセブンへの核攻撃に対する報復で、地上に核兵器の雨を降らせようとした人だ。

 そして彼は戦争を終わらせる気などさらさらない。

 それは彼の政策を見れば明らかで、パトリック・ザラという人はナチュラルとコーディネイターが共存する世界など想像もしていないのだ。

 

 「俺の父は愚かな人では無い。きっとわかってくれるはずなんだ」

 

 アスランはそう言って引く気は無いらしい。

 そこに助け舟を出したのはカガリだ。

 

 「戦うにしろ何にしろお父さんと話し合えばいい。実のお父さんならわかってくれると思う。それで納得してくれればこの戦争は終わる。私達の戦力で両軍を止めるなんて不可能だ。ただし危なくなったら絶対私達の所へ帰ってくるのが条件だ」

 

 確かにそうだとニコルも思う。

 だがパトリック個人が和平を望んでも周りが納得するかは別問題だ。

 プラントのタカ派も説得しなくてはいけない。

 だが何もしないままでは事態は悪化の一途を辿るだけだ。

 

 「わかったわ。アスラン君を使者に派遣しましょう。ただし命の危険があるときは必ず逃げて帰ってくること。いいわね?」

 

 ラミアス艦長の言葉で裁可は下った。

 極めて低い可能性にかけたのだ。

 

 「俺にもしもの時があったとき、ジャスティスはシンが使ってくれ」

 

 そう言ってアスランはプラントへと戻った。

 

 ◆◆◆

 

 その頃、月面のプトレマイオス基地にムルタ・アズラエルが乗り込んできた。

 オーブでの雪辱を晴らすべく彼の士気は高い。

 彼は乗艦をアークエンジェルと同型の最新鋭艦ドミニオン(主天使)と定めた。

 艦長は亡きハルバートン提督の孫娘であるアリス・ハルバートン。

 彼女はナタル・バジルールと士官学校同期で若干一三歳で首席卒業した天才だ。

 オルガ・サブナックとシャニ・アンドラスとクロト・ブエルの三人も乗機とともに搭乗している。

 またブルーコスモス派の将官もぞくぞくと終結しつつあった。

 第六、第七艦隊に第八艦隊の残存兵力を集結させ、全艦隊にストライクダガーの搭載母艦機能を取り付けた贅沢な艦隊だ。

 今までにない兵力で一気にプラントへ侵攻し決着をつけるという意志の表れだ。

 

 「L4コロニーにオーブ艦が向かっている?」

 

 アズラエルはその報告を聞くと訝し気に首を捻り思考する。

 あんな廃墟に何があるというのだろう。

 あそこはブルーコスモスの手であのおぞましい施設ごと破壊したはずだ。

 オーブ艦とはいってもアークエンジェルとクサナギの二隻だけという報告を聞いている。

 まさか二隻だけで挑んでくるほど馬鹿だとも思えない。

 

 「それで現在どのような対処をしているんだ?」

 

 「フィリップス少将の第7艦隊の一部が追撃中です」

 

 些か過剰兵力のような気がするが対処としては間違っていない。

 不安の種は小さいうちに摘み取っておかなければならない。

 

 「ならいい。新しい情報が入りしだい教えてくれ」

 

 そう言ってアズラエルはこの話を打ち切った。

 

 ◆◆◆

 

 ピンク髪の少女の透き通った声がプラント中に届く。

 あちこちのスクリーンに彼女───ラクス・クラインの歌声とメッセージが映っていた。

 

 『私たちはどこに行きたかったのでしょうか?何が欲しかったのでしょうか?戦場で今日も愛する人たちが死んでいきます……。私達はいったいいつまで、こんな悲しみの中で過ごさなくてはならないのでしょうか?戦いをやめ、道を探しましょう。求めたものは、なんだったのでしょうか?このように、戦いの日々を送る事でしょうか?愛する人々を失ってもなお、戦い続けるその未来に、幸せな世界は間違いなく待つものなのでしょうか?』

 

 ラクス自身もこの訴えかけで和平が到来する可能性が高いとは思っていない。

 だが彼女はたとえ可能性が低くても自分の出来る事を成そうとしている。

 オペレーション・スピットブレイクの失敗はラクスとシーゲルの親子が仕組みフリーダムの強奪も親子がした事にされていた。

 ……まあ半分は当たりだが。

 クライン派と呼ばれる和平派は既に拘束されており、プラントはパトリック派一色。

 『たまたま』故郷に戻っていたユーリ・アマルフィなどの数少ないクライン派もいるが勢力は微々たるものだ。

 パトリック派の天下だと誰もが認めるのに彼女の歌が邪魔をする。

 ラクスの歌声は誰をも魅了する歌声だ。

 そしてその言葉には真実を思わせる魅了がある。

 

 そして体制側、パトリック・ザラが逆の演説をする。

 両手を振るい身体全体を使って行うパトリックの演説はヒトラーから学んだものだった。

 

 『ラクス・クラインの言葉に惑わされてはなりません!!彼女は地球連合軍と通じ、軍の重要機密を売り渡した反逆者なのです!!戦いなど、誰も望みません!!だがそれではなぜ、このような事態になったのでしょうか?思い出していただきたい!!自らが生み出したものでありながら、進化したその能力を妬んだナチュラルたちが、我らコーディネイターへ行ってきた迫害の数々を!!』

 パトリック・ザラは48歳。

 生まれは地球の大西洋連邦で第一次コーディネイターブームで生まれる。

 その人生はコーディネイターに対する差別と迫害と戦い続けてきたものであり、特に武力を持たないプラントが地球に隷属する苦渋の時代を生きて来た。

 数々の交渉で思い知らされた地球のナチュラルによる傲慢不遜に耐え続け、ついに食料供給の停止という生存権まで奪われそうになった為ザフトを設立。

 食料を輸入する貿易船を撃沈された憎しみなど遂に耐えかねたが穏健派のシーゲル・クラインに抑え込まれていた。

 実はシーゲル・クラインとは古くからの盟友だったりする。

 アニメではあっさり描写なのでわからないけど。

 彼の人生と同年代、次の世代。

 つまり社会の主構成員である三十代から五十代に支持者が多く、ラクスの歌声でもプラント全体の意見が動かないのは実際にコーディネイターの苦難を知る世代が多いからだ。

 間違いなく一流の政治家と言える。

 いや言えた。

 今や復讐に狂った鬼であり、政治家ではなくなっていた。

 

 『それに反旗を翻した我らに答えとして放たれたユニウスセブンへの、あの一発の核ミサイルを!!この戦争、我らは何としても勝利せねばならないのです!!敗北すれば、過去よりなお暗い未来しかありません!!』

 

 パトリックは妻でありアスランの母親のレノア・ザラを愛していた。

 それゆえ狂ってしまった。

 粘り強い老獪な政治家ではなく復讐鬼に変わってしまった。

 そしてアスランはこの父親を説得しに向かったのだ。

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