【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第91話 ジェネシス
アークエンジェルとクサナギがエターナルと合流したのは夜の21時ごろだった。
エターナルからのシャトルがアークエンジェルに接舷し、ようやくラクスとキラは再会する。
たった数か月なのに何年も会えなかったと思う程、愛し合った二人は皆の目の前だというのに抱きしめあい唇を重ねる。
ニコルとカガリがアークエンジェルについた瞬間その光景を見たニコルは一瞬だけ驚いたが恋人同士の再会に涙があふれた。
あの人質交換の時にキラからニコルに手渡された絆はようやく元にもどったのだ。
「キラ…キラ…会いたかった…会いたかったですわ」
「僕もだよラクス。会いたかった」
キラとラクスの抱擁にあてられたのか、トールとミリアリアも身体を寄せ合いサイとフレイも楽しそうに笑いあう。
その光景をみてマリューとナタルが優し気に微笑んだ。
「いいねいいね若いって事はさ」
ムウが笑いながらマリューとナタルの肩を抱くとノイマンが少し不機嫌になった。
その光景から少し離れた所で、怪我をした手を庇うアスランの隣にカガリが身体を寄せて語り合う。
「そっか……お父さんは聞いてくれなかったんだな」
「ああ。もう父上に俺の言葉は届かない。戦うしかないんだ」
そう言って俯くアスランの頭を抱きしめてカガリは背中を撫でる。
しばらくしてアスランの嗚咽が聞こえだした。
「大丈夫、大丈夫だから」
「───カガリ」
「泣きたい時は泣いていいんだ。キラを見習え。あいついっつも泣いてるじゃないか」
そんな皆の姿を見ていたニコルの所に見知った二人の姿が見えた。
バルトフェルドと恋人のアイシャだ。
ニコルは二人に駆け寄る。
「バルトフェルド隊長、アイシャさんお久しぶりです」
「よお生きていたか少年」
「久しぶりね。少し男らしくなったじゃない」
「二人はエターナルに乗っていたんですか?」
「ああ。これでもザラ議長とは親しくてね。新鋭艦の艦長って地位さ。今は元艦長で反逆者になってしまったがね」
あの砂漠で突き放して貰わなかったら今頃自分は死んでいたとニコルは思う。
オーブに行くことも無かったし、キラ達と一緒に戦う事は出来なかった。
心も命も二人に救われたのだ。
「オーブは南国ですからコーヒーが美味しいですよ。この戦いが終わったら一緒に飲みたいです」
「そりゃあ楽しみだ。その時は特別ブレンドをするとしよう」
ニコルとバルトフェルドは笑いあい再会を喜ぶのだった。
◆◆◆
アークエンジェルの艦長室ではラクスとカガリ、マリュー、キサカ、バルトフェルド、ニコルが共にいた。
無論今後の事を考えるためだ。
その時ニコルが五人にジェネシスという核エネルギーを使用したザフトの作った最終兵器の情報を皆に見せた。
ニコルの父親から傭兵サーペントテール経由でもたらされた情報だ。
これが発射されると対象者は体内の水分が沸騰して身体が膨張・破裂して、死体も残さずに即死すると説明しジェネシスの危険性を告げた。
この原理と威力を五人に説明するとマリューは顔をしかめラクスは口元を覆いカガリは絶句した。
バルトフェルドはため息をつき、キサカは唇をかみしめる。
「現在はニュートロン・ジャマー・キャンセラー(以下NJC)が使えなければ発射できませんし、あまりの威力に使う事を躊躇するでしょう。どこに設置されているのかは極秘です。流石に父も知りません」
このデータの提供元であるニコルの父親ユーリ・アマルフィでさえどこに配置されたのかはわからない。
常にミラージュコロイドが展開されており、巨大な兵器なのに場所がわからないのだ。
それが明かされた時、この兵器は使われるだろう。
「この兵器が使われると思いますか?」
ラクスの問いにニコルは頷いた。
もしプラントに危機が迫った時にザラ議長は躊躇するとは思えない。
そしてもしこの兵器が地上に向けて使用されれば、強烈なエネルギー輻射は地表全土を焼き払いあらゆる生物を一掃してしまう。
それは全ての生命を死滅させるだろう。
ニコルはマリュー達にその事を説明すると、五人とも顔を青くした。
「ジェネシスは強度から計算して陽電子砲でも破壊できないでしょう。ですが弱点があります」
そう言ってニコルはジェネシス後方にあるメンテナンス用ハッチなら内部に侵入できる事を示した。
そう言ったあとニコルは皆に念押しする。
「このことはここにいる全員と、キラとアスラン以外には秘密でお願いします」
「どうしてなのニコル君?」
「ここに突入するという事はジェネシスが発射されたあとだという事です。そしてザフトと地球連合の混戦を突破してメンテナンスハッチまでたどり着けるのは、フリーダム、ジャスティス、リジェネレイトくらいでしょう。ですが我々がジェネシスの弱点を知っていると知られれば防御を固められてしまいます」
他のクルーに知られればどこから情報が洩れるかわからない。
それを聞いたバルトフェルドがため息交じりにニコルに語る。
「核もジェネシスもお互いがお互いを破滅させるという前提で作られた兵器だ。つまりお互いがその存在を明らかにして脅しなり警告に使わなければ意味が無い。それをザラ議長は秘匿している」
「はい。つまり使うつもりだという事です」
「どうやらザラ議長は本気でナチュラルを滅亡させたいらしいな。この事をアスランは知っているのか?」
そう言うとカガリが怯えたような表情の後、悔しそうに口を閉じる。
この事をアスランに告げたらどれだけ悲しみ苦悩するだろうと察したのだ。
「僕からキラとアスランに話します。だからカガリはそんな顔しないでください」
そう言ってカガリに微笑むニコル。
カガリはすまないと小声で告げるしかできなかった。
ニコルはその足でエターナルの格納庫に面した休憩室に向かう。
エターナルはジャスティスとフリーダムの運用母艦として建造されたのでキラとアスランはエターナルに搭乗しているのだ。
休憩室の扉をロックして、先ほど皆に話をしたジェネシスの話をキラとアスランに話す。
「地球連合が核を発射したら、ザフトはジェネシスを使うでしょう」
「そんな……」
キラは絶句した。
それはつまり、地球にジェネシスを撃ち込みその威力で全てを焼き尽くすという事だ。
「だから僕たちはそれを止めなければならないんです」
「でもどうやって?」
「僕のリジェネレイトかキラのフリーダム、アスランのジャスティスのどれかなら強行突破してメンテナンス用ハッチにたどり着くでしょう。内部から破壊するしかありません」
そこでアスランは父親の言葉を思い出す。
ナチュラルを全て滅ぼせば戦争は終わると言っていた。
「もしかしたら、父は地球が核を撃たなくても地球に向けてジェネシスを撃つかもしれない」
「まさか。そんな事をしたら人類がどうなるのか、アスランのお父さんだって知っている筈だよ」
「いや、父ならやりかねない。ナチュラルを全て滅ぼすと父は言っていた。そんな事をしないと思いたいが」
そう言ってアスランは拳を握る。
キラはその拳に手を重ねた。
ニコルはそんな二人を見て、この戦争を終わらせる為にもジェネシスの発射を止めなければならないと改めて思う。
だがどうやって見つけだす?
常にミラージュコロイドを纏った状態のジェネシスが姿を現すのは発射準備に入った時だ。
一発目が地球だったら防ぎようがない。
それにもし間に合っても破壊が間に合わなければ二発目が発射されてしまう。
ニコルは考え込み、そしてある事に気が付いた。
ザラ議長がジェネシスを使うタイミングだ。
流石に一発目は地球に撃たないだろう。
地球にもコーディネイターは住んでいるし、ザフトの基地もある。
そんな状態で撃てば戦後の裁判で死刑は確実だ。
だから撃つとしたら地球に撃ってもいいという大義名分がある時まで待たねばならない。
例えば地球の核でプラントに甚大な被害が及んだ時だ。
ユニウスセブンなんて比較にならない規模の犠牲者が出たらジェネシスを撃つ理由になる。
そんなおぞましい事は考えたくは無いが。
それにNJCの事もある。
地球連合にNJCが無ければ核は撃てない。
だが地球連合がNJCを開発する事だって可能性はある。
もし核とジェネシスの撃ちあいなんていう救いのない事態になったとしたら。
……その時はリジェネレイトでジェネシス内部に侵入し自爆しよう。
キラと戦った時も覚悟はしていた。
それにそんな不幸な未来を防げるなら、自分の命なんて安いものだ。
キラとアスランに知られたら絶対止められるのはわかるから言わない。
もしかしたら、自分が人生をやり直しているのはこの為なのかもしれない。
ラクス様が見た人類が滅亡した未来は、核とジェネシスの撃ちあいだったのかもしれない。
それだけは絶対に防がなくてはならない。
自分が死ぬ恐怖もあるけど、そうなった場合マユちゃんを泣かせる事になるなとニコルは思っていた。
だがこうも思う。
生きて隣にいるだけが愛情ではないと。
人類が滅亡した世界にマユの幸せは無い。
なら自分が出来ることをするべきだ。
本当にマユを愛しているなら。
人類を救えるなら迷う事は無い。