【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第92話 ハーバーコロニー
ニコル達はニコルの父親ユーリ・アマルフィが用意してくれたL4コロニー群にある廃棄されたハーバーコロニーに向かう事を決めた。
ハーバーコロニーは農業用肥料などに有用なアンモニアを空気中の窒素から合成するハーバー・ボッシュ法の開発で、ノーベル賞を受賞したフリッツ・ハーバーという学者にちなんだ名前で、皮肉な事に彼はCEでも使用された毒ガスの開発者でもある。
そこは隠れ蓑には最適で、外見は廃棄されたコロニーだが内部はジャンク屋組合の手で宇宙港となっており、乗員の休息や艦船の武器弾薬食料などの補充から修理設備まで整えてある。
「よっ。また会ったなニコル」
そう言って笑いかけてくるジャンク屋のロウ・ギュール。
彼とも縁深い関係になってきた。
軍港の設備の点検や物資の蓄積状況も教えてもらう。
専門的な事はロウ達の仲間のプロフェッサーという女性とエリカ・シモンズが友人なので二人で打ち合わせてマリュー達に報告と打ち合わせを行っていた。
「いつもロウ達にはお世話になっていますね」
「そんなの気にすんなって。こっちは依頼通りの事をしているだけさ」
これから戦場になる場所に宇宙港を作ってくれるというのは気にしなくていい範囲ではないだろう。
こういう度胸があって男気があって仕事も出来るロウという人物はとても好きだ。
しかし父はよくこんなツテを持っているものだ。
ニコルにいつも優しい、よく言えば平凡で目立たない父親の事を自分はまだまだ知らないと思う。
生きて帰ったら父に聞きたい事が沢山出来た。
自他ともに認める野心の無い凡庸な政治家というのは只の隠れ蓑なのだろうか?
「親父さん心配してたぜ。こんな戦争早く終わらせようぜ」
そう言って立ち去るロウの後ろ姿を見送ってニコルは軍港施設を見回す。
管制室にはクライン派と呼ばれるシーゲルやラクスに与するコーディネイターの兵士が働いていた。
そこにニコルの馴染の人がいた。
ニコルの故郷のマイウス市にあるハインライン研究所で働いていたアルバート・ハインラインという人だ。
父の紹介で一度会った事がある。
矢鱈と早口で話す人だったと思う。
「ヤアニコルクンヒサシブリダネ、オチチウエカラハナシハキイテイマスヨ、トコロデワタシガツクッタフリーダムノチョウシハドウカナ?アレハモトモトテニイレタXナンバーノキタイヲベースニシテワタシガドクジセッケイシタ」
0.5倍速しよう。
『やあニコル君久しぶりだね。お父上から話は聞いていますよ。ところで私が作ったフリーダムの調子はどうかな?あれはもともと手に入れたXナンバーの機体をベースに私が独自設計した』
その後フリーダムの会話が続いたのでニコルは実際に乗っているキラへの紹介を約束し、自分が乗っているリジェネレイトについても話を聞く。
フリーダムの武装過多でバランスが崩れたとき、主任設計者のアルバートと他の設計者たちの対立を上手くまとめたのがニコルの父親ユーリらしい。
背部の武装を腰部に抱える形にしてバランスを取ると言う設計変更を目の前で処理したユーリの事をアルバートは高く評価したらしい。
ユーリは基本現場には口出さず、もめごとは上手く調整するあたりやはり政治家だと思った。
『あれは奇抜な設計で先の技術を沢山盛り込んだ実験機なのです。本当は整備が容易な本国での使用を想定していたから、まさかオーブのような地上で使う事になるとは思いませんでした』
確かにパーツを次々に取り換える事で長く戦える設計なのだからパーツの補充が容易な本国で使用したほうがいいに決まっている。
先ほどのロウ達ジャンク屋がリジェネレイトと補充パーツを持ってきてくれたから戦えたものの、今は取り換えるパーツが少なくなってきた。
『こんな事もあろうかと予備パーツは沢山用意しておきました。遠慮なく使ってください』
アルバートさんに見せて貰った予備パーツはクサナギに積み込まれる。
場所は多少取るがその分予備のアストレイMK-2をアークエンジェルに移す。
これでエターナルにキラのフリーダムとアスランのジャスティス。
アークエンジェルにムウのストライクとフレイのレッドストライクとトールのアストレイMK-2に予備のアストレイMK-2が三機
クサナギにニコルのリジェネレイトとシンのアストレイシルバーフレームとマユのシェンウーとアストレイ三人娘のアストレイMK-2が三機になった。
性能は遥かに高いが戦艦三隻にたった一八機のMSしかいない。
そしてL4コロニー群に近づいてきた地球連合軍第七艦隊先遣隊はネルソン級戦艦三隻、ドレイク級宇宙護衛艦六隻にストライクダガー六十機。
反対側からクルーゼ隊のナスカ級高速戦闘艦三隻が近づいていた。
◆◆◆
ハーバーコロニーの探知衛星が近づく艦隊を見つけた。
すぐさま軍港管制官が所属艦隊と戦力をアークエンジェル達に送ってくる。
なおこの人もマイウス市所属の軍人だったりする。
パトリックにばれたらマイウス市にジェネシス撃たれかねない所業。
「軍港に接近する艦隊は地球連合軍の戦艦三隻、護衛艦六隻。反対側からザフト軍三隻です」
サイ・アーガイルの報告にマリュー・ラミアス艦長は考える。
今出撃したら袋叩きに合うだろう。
だが出撃しなければいずれハーバーコロニーは発見される。
幸い軍港設備があれば多少の損害は修理できる。
スクリーンにエターナルのバルトフェルド艦長とクサナギのキサカ艦長が映し出された。
「出撃しよう。このままここにいては軍港ごと袋叩きだ」
バルトフェルドがそういうとキサカも頷いた。
艦レベルの決断は艦長三人に任されている。
「これより全艦出撃します。各員は第二種戦闘配備で待機。コロニーの遮蔽ハッチ開放、取り舵20」
ラミアス艦長の指示でアークエンジェルを先頭にエターナル、クサナギが発進する。
そしてハーバーコロニーはミラージュコロイドで姿を消した。
これだけの巨大質量を隠し通す技術はどこにあるのかと言われると答えは一つ。
モルゲンレーテだから。
後にモルゲンレーテとマイウス市(アルバート)が組むかもしれない。
クルーゼ隊とザフト軍三隻が地球連合艦隊と戦闘を開始する。
L4コロニー群から少し離れた宙域での砲雷撃戦だ。
地球連合軍はネルソン級戦艦を中心にストライクダガーをザフト艦に向かわせ、その後方からネルソン級の戦艦が砲撃する。
第七艦隊先遣隊の不幸は相手がクルーゼ隊だったという事だ。
たかだかナスカ級三隻と侮ったのが運の尽きだったというしかない。
クルーゼを筆頭に、イザーク、ディアッカ、ミゲル、ラスティ、エマ、ジャンヌが襲い掛かった。
戦闘は一方的なもので散々に打ち破られ撤退を開始する。
「随分とぬるい相手でしたね」
イザークの声は所詮ナチュラルという侮蔑の言葉を含んでいた。
彼としては以前戦ったストライクとアークエンジェルとの再戦を希望していたのだが仕方がない。
この宙域には拠点となるべきコロニーがあった筈だが影も形もない。
コロニーの残骸がデブリになっているので崩れたのかもしれない。
だが、あの三隻はどこに消えた?
クルーゼの疑問に答えられる者はいない。
「長時間ここにとどまっても仕方あるまい。一旦引くぞ」
「はっ」
クルーゼ隊が戦闘宙域から離れる。
これはただの遭遇戦だと思われたが意外な効果を生む。
地球連合はL4コロニーに強力な敵戦力が潜んでいる事を重要視したのだ。