【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第94話 アリス強襲
アークエンジェル、クサナギ、エターナルのCICに警報が鳴り響く。
左舷と上下から対艦ミサイル、スレッジハマーの攻撃を受けたのだ。
戦闘宙域はコロニーの破片が多く、アークエンジェル達が身を隠しやすい場所だった事が不利になる。
敵はアークエンジェル、クサナギ、エターナルの位置を正確に把握して攻撃を仕掛けてくる。
アークエンジェルの艦橋でマリュー・ラミアス艦長が回避行動を指示する。
「回避しつつ熱源から敵の位置を測定して!!外に出ているのは誰!?」
「フレイとトールです!!」
切羽つまったサイの報告に哨戒に出していたフレイのストライクレッドとトールのアストレイMK-2が危険に晒されている事に気が付く。
すぐに援護のMSを出さなくてはいけない。
しかしザフト艦も近くでこちらを探しているのだ。
そちらへの警戒も緩める訳にはいかない。
その間にもミサイルが四方八方から襲い掛かってくる。
三隻とも対空防御でミサイルを撃ち落としていくが間に合わない。
エターナルとクサナギにミサイルが命中する。
激しく揺れるエターナルの艦内でよろけるラクスをキラが支えた。
「ありがとうキラ」
「ラクス、大丈夫?」
「ええ。でも今の攻撃は……」
ラクスが言いかけた所で再び激しい衝撃がエターナルを襲った。
右舷にミサイルが命中したのだ。
「右舷CIWS(対空防御機関砲)に損害。艦内の火災がミサイル発射管に誘爆。防ぎきれないワ」
「消化急げ!!ちいっ!!どこからの攻撃かわかれば」
副長のアイシャの報告にバルトフェルドが毒づく。
敵艦の数が不明な以上不用意に動けない。
距離を取って散開するのを見越していたようにミサイルが飛んでくる。
回避コースを完璧に読まれていた。
散開しようにも頭を抑え込まれて動けない。
ミサイルはクサナギにも命中する。
激しい振動に揺れる艦橋でカガリが叫ぶ。
「MSの発進を急がせろ!!」
「駄目だカガリ。いまカタパルトを開いたら狙い撃ちされる」
「くそっ!!」
艦長のキサカの意見にカガリは悔しそうに叫ぶ。
そして再び激しい振動。
今度は左舷にミサイルが命中する。
艦が大きく揺れると、その衝撃でカガリは転倒した。
カガリは床に倒れたまま叫ぶ。
「敵の位置は!?相手は何隻いるんだ!!」
相手がドミニオン一隻だと誰も気が付かない。
アリスは艦尾大型ミサイル発射管二四基全てで対艦ミサイルのスレッジハマーを発射した。
本来は対空に六基は残しておくものだ。
完全な奇襲という自信がなければ出来ない大胆な攻撃だ。
また戦闘宙域にミサイルを散布し時間差で攻撃させている。
カガリたちには四方八方からミサイルが飛んでくるようにしか見えない。
勿論こんな攻撃は長くは続かない。
アリスが欲しかったのはアークエンジェルを必中できる時間だ。
この攻撃でエターナルとクサナギの二隻とも艦のダメージが深刻である事が判明した。
エターナルは右舷CIWSとミサイル発射管に被弾し使用不能になる。
クサナギも後部ミサイル発射管と225cm連装高エネルギー収束火線砲「ゴッドフリートMk.71」に損傷を受けた。
エターナルとクサナギが動けなくなりアークエンジェルは丸裸にされる。
そこに必中を期してドミニオンが陽電子破城砲「ローエングリン」を発射した。
「ビーム来ます!!これはローエングリン!?」
「回避!!」
「やってます!!」
ドミニオンから発射された必殺のローエングリンがアークエンジェルを掠めるが、イーゲルシュテルンと艦尾大型ミサイル発射管が吹っ飛んだ。
ノイマンの操舵でもかわしきれなかったのだ。
更にドミニオンは対艦ミサイル、スレッジハマーとバリアント、ゴットフリートを連射しアークエンジェルに撃ち込んでくる。
そのミサイルをクサナギがイーゲルシュテルンで撃ち落とす。
しかしドミニオンの猛攻は止まらない。
今度はスレッジハマーに混じってゴットフリートがクサナギを狙う。
クサナギに命中し、損傷個所から有毒ガスが発生した。
「ニコル機発進準備出来てます」
ニコルの報告にカガリは頷きカタパルトを開いた。
一か八か。
ここ一番の度胸と判断力がカガリの真骨頂だ。
「ニコル!!カタパルトから射出後すぐ砲撃が来る!!なんとか持ちこたえてくれ!!」
「わかりました、やってみます。ニコル・アマルフィ!!リジェネレイト行きます!!」
L4コロニー群内宙域では、ドミニオンから発射されたミサイルとビーム砲によりクサナギとエターナルは大破、アークエンジェルも中破した。
この光景を見てオルガ、クロト、シャニは迷う。
「なあ、こっちのほうが強くないか?」
「みたいだな」
「……ちっ」
オルガの疑問にクロトが答え、シャニは舌打ちする。
ドミニオンから発進した三機は目の前に赤いMSを見つけた。
その三機を待ち受けていたのはビームライフルを構えたストライクレッドだった。
フレイの乗る機体だ。
「この!!この!!当たって!!」
フレイの叫びも空しくビームライフルから発射されたビームがシャニの操縦するフォビドゥンガンダムにビームを曲げられ、そのまま巨大な鎌でフレイのレッドストライクを横なぎにする。
頭部と胸部にダメージを受けたレッドストライクが戦線から離脱した。
「……味方になるかもだからな」
シャニが手加減してくれなかったら、フレイは戦死していた。
同時刻トールのアストレイMK-2もビームバズーカごと右腕を吹き飛ばされる。
◆◆◆
砲撃をアークエンジェルに集中しているドミニオンの艦橋でアリスは違和感を感じていた。
明らかに三人の動きが悪いのだ。
相手のMS発進を阻止するべく攻撃したのに三人が手間取っていては態勢を立て直される。
奇襲はもうアークエンジェルには通用しないだろう。
狙うはアークエンジェルだったが神業的操舵で逃がしてしまった。
このまま強襲しては数の差で圧倒的に不利なドミニオンに勝ち目はない。
三隻のうち二隻に打撃をあたえ、アークエンジェルにもそれなりのダメージを与えた。
時間切れだろう。
「撤退します。信号弾。オルガさん達を収容して戦域を離脱します」
アリスがそう言うと、隣に座っていたアズラエルが叫ぶ。
「何を言っているんだ!!あと少しで決着がつくじゃないか!!」
「このままだと負けます。状況が変わる前に撤退します」
「みすみす勝利を逃すのか!!」
「このまま戦えば敗北します。私はまだ死にたくはありません」
それに明らかにオルガ達三人の士気が低すぎた。
そのオルガ達はニコルのリジェネレイトと極秘で会話をしていた。
裏切りの代償の薬の件だ。
「おい、薬は手に入れたのか?」
「これと同じものを量産に成功しました。受け取ってください」
「どこでだよ」
「廃棄コロニーで。この辺りにはいくつもあります。そこで戦闘から離脱したと思わせて渡します」
「わかった。次はもう少し骨のある戦いをしてくれよな」
確かにこの戦いではこちらの味方に付くのは難しいだろう。
情勢が不利なら彼らは寝返らないだろうからだ。
だが、薬の量産に成功したという情報は有益だ。
アズラエルに一泡吹かせる事ができるだろう。
ドミニオンはアークエンジェルから離脱し、クサナギとエターナルは損傷しつつも戦闘宙域を離脱した。
三隻とも艦が中大破しているうえにMSも大破した機体がある。
追撃は不可能だった。
しかしアズラエルにとっては屈辱的敗北である事は間違いない。
「この臆病者の腰抜けめ!!どこで油を売っていた!!お前たちが攻撃していたら勝てたんだぞ!!」
アズラエルの怒声がオルガ、クロト、シャニに浴びせかけられる。
明らかに三人のやる気のなさが勝敗を分けた。
一時的にせよキラ達が出撃出来ない時間を作れたのだ。
怒るのも当然だろう。
「お前たち当分薬は無いと思えよ!!」
その言葉に三人とも震えあがった。
地獄の苦しみを長時間与えられると知ったからだ。
その間にアリスが割って入る。
「薬は定期的に投与すると約束したはずです。ビジネスマンなのに契約を破るつもりですか?」
「うるさい!!だいたいお前もお前だ!!何が士官学校最年少首席卒業の天才艦長だ!!」
「天才美少女艦長です」
「やかましい!!なんださっきの戦いは!!あと少しで勝てたんだぞ!!」
「あのまま戦っていたら、今頃私達は全員あの世です」
「兎に角!!僕のやり方に口を挟むな!!こいつらの処分は僕がする!!」
「彼らはわたしの大切な戦友でありドミニオンのクルーです。ドミニオンに乗っている間は私の指揮に従って貰います」
「もし僕がそれを断ったら?」
「軍法会議なり裁判なりご自由に」
怒り心頭で顔を真っ赤にしたアズラエルと、いつもの無表情だが口を噛みしめたアリス。
ドミニオンのクルーでも殆ど見たことが無いアリスの怒った顔だった。
二人の睨み合いにアズラエルが先に冷静になる。
「まあいい。次はちゃんと勝ってくださいよ天才艦長サン」
「天才美少女艦長です」
◆◆◆
アズラエルが立ち去ったあと、三人にはちゃんと定期的に薬が処方された。
アリスが別れ際に「何か悩んでいるなら教えてください。善処します」と言われて部屋の中で上の空だ。
「なあお前ら」
「あ?」
「なんだよ」
オルガの問いかけにクロトとシャニが答える。
三人とも茫然としているのは生まれて初めて人間扱いされ優しくされたからだ。
「なあ。あの艦長さん撃てるか?」
「撃てるかも何も撃つしかないだろ」
「……自信ねえ」
シャニの珍しい弱音にクロトが答える。
その顔は苦悩していた。
「裏切るってのはそういうもんだろ」
アズラエルを討つには地球連合を裏切るしかない。
しかも新薬もある。
悩む必要などないはずなのに三人の表情は暗かった。
あの天才美少女艦長が、自分たちの撃ったビームでドミニオンごと吹き飛ぶイメージ。
その瞬間を想像するだけで心が痛い。
心などとっくに無くしたものだと思っていたのに。
人間扱いしてくれて優しくしてくれて守ってくれたあの華奢な少女を殺す事。
それは彼らにとって想像を絶する苦痛だった。