【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第95話 強化人間
アークエンジェル級強襲機動特装艦・二番艦 ドミニオン
ドミニオンにある艦長室では、シャツと短パンツという年頃の少女の着る服にしては些か不憫な姿で、アリス・ハルバートンがささやかな自由時間を楽しんでいた。
といっても彼女は年頃の友達もいなく寂しい私生活でもあり、祖父やクルーは優しくしてくれたが天才ゆえの孤独だ。
両親を幼くして事故で失ったアリスは、祖父が亡くなってから自分を理解してくれる人がいないという生活にも慣れたとはいえ、やはり寂しい。
いつもは読書の時間にあてる自由時間だが、今日はデータ解析を行う。
机にある端末で軍のデータにアクセスしてオルガたちの情報を探っていた。
小型モニターにオルガ、クロト、シャニたちのデータが映し出されるがそれぞれ『強化インプラント・ステージ』と書かれていた。
ステージによって思考力などが変わるらしく、一番軽いオルガが読書、クロトがゲーム、シャニが音楽鑑賞のように自分から頭を使う能力や欲求が低下していた。
あとはMSの生体CPU、例えばオルガならGAT-X131カラミティガンダムの生体CPUという扱いだ。
つまり機械の部品扱いだという。
他の項目から導き出した答えは彼らは幼少期から改造と薬品によって身体精神強化された強化人間であり、コーディネイターに対抗するために作り上げられた彼らは、遺伝子改造はされていないとはいえ非人道的な歪んだ存在らしい。
コーディネイターに対抗する為にナチュラルとはいえ子供を薬漬けにして改造するなど本末転倒だ。
そして生み出された彼らは短命の命を人との交わりではなく読書や音楽鑑賞といった他人と接触を禁じられてもできる趣味、趣味というか時間つぶしだがそれに費やすだけの生命。
人と接する喜びも悲しみも知らず戦う事しか知らない子供たち。
そんなおぞましい存在にアリスは顔色一つ変えずにデータを検索し情報をあつめるがそこでストップがかかる。
トップシークレットにあたったのだ。
ここから先は特別な人間にしか閲覧できない情報がある。
いくつもの厳重なパスワードが施されていて軍や政治家でもトップクラスの者しか見る事が出来ない情報。
「ちょちょいのちょい」
アリスはあっさりとトップシークレットを突破した。
きっとメイリン・ホークと話が合う。
そこに映し出されていたのはL4にあるコロニー『メンデル』で行われていたおぞましい実験のかずかずだった。
ユーレン・ヒビキとヴィア・ヒビキの息子。
唯一の成功例キラ。
キラを生み出すために犠牲となった五万人を超える彼の兄姉たち。
スーパーコーディネイターを超える存在を作る為に人類が手を出した禁忌の技術。
「これはいけませんね」
アリスはデータを抜き取ってメモリーに保存した。
もちろん足跡を残すようなヘマはしない。
『キラ』
何者なのだろう?
抹殺に失敗したと書かれていたから生きてはいるのだろう。
おそらく自分と同年代の少年。
何故生まれ何故生み出されたのか。
きっとまだ彼は何も知らない。
アリスはオルガ達の事を考えると胸が張り裂けそうに痛い。
あまりにも酷い扱いではないか。
薬漬けにされMSの部品扱い。
人として扱われないなんて酷すぎる。
アリスは軍人だ。
軍人が戦う理由は国益と国民を守る為だ。
オルガ達だってコーディネイターと戦う為に生み出された。
それは否定出来ない事。
そして自分が出来る事は彼らを戦場に送り出して戦果を挙げさせる事だけだ。
こんな時、机の上に置いてある祖父と映った写真立ての写真を見る。
祖父の故郷の森で一緒にキャンプした時の自分と抱き上げてくれる祖父。
口いっぱいに焼肉を頬張り笑顔で笑う自分の姿に、こんなに自然に笑えなくなったのはいつからだろうかと思い出す。
オルガ達にはこんな思い出もないのだ。
ただ戦場とパイロットルームを行き来するだけの生命。
祖父ならこんな時どうしただろう。
想いを馳せるまでもない。
祖父なら行動に移したはずだ。
オルガ達を生体CPUから人間に戻すために。
◆◆◆
L4コロニーにあるハーバー・コロニーはミラージュコロイドを展開して円筒の軍港に傷ついたアークエンジェル、エターナル、クサナギをドックに収容した。
三隻とも満身創痍で途中で爆沈しなかったのが不思議なくらいだ。
特にクサナギはエターナルとアークエンジェルを守る為に盾となった為、ドミニオンの猛攻を受け続けた。
ゴットフリートと対艦ミサイル、スレッジハマーを集中攻撃されて耐え続けたのは流石だと言えるが、カガリはもう少し自分たちの身を思いやるべきだろう。
「えらく手ひどくやられたもんだな」
三隻の損害を見ながらジャンク屋のロウ・ギュールがため息をつく。
確かに修理は出来るがすぐに出航というわけにはいかなかった。
いつも冷静なハルバートは既に必要な修理計画を立案し、手慣れたジャンク屋とマイウス市の技術者が修理を開始する。
その手際を感心しながら見つめていたマリュー・ラミアスはこの時間に乗員の休養を取らせる事にした。
ハーバー・コロニーは廃棄されたとはいえまだ生きているコロニーだったので、マイウス市の技術者の手で軍港の外は市街地が広がっている。
実際戦争が終わるまでミラージュコロイドで隠れていても見つからないし食料の備蓄もある。
勿論彼らにそんな気は無いが飲食店や娯楽施設など一通り揃っている。
羽を休めるのは重要だろう。
この戦争が終わった後、マイウス市の予算の何パーセントが機密費になっていたのか、後世の議論になるだろう。
ニコルの父親、ユーリ・アマルフィは石橋を叩く前に別の石橋を作る性格だった。
ハーバー・コロニー内にある公園でトールとミリアリアが口論していた。
オーブ戦につづき、この戦闘でも撃墜されかけたトールにパイロットをやめるようにミリアリアが泣きながらすがっていた。
「もう、やめようよ。このままじゃトールが死んじゃう」
「……大丈夫だって」
「大丈夫じゃないよ!!」
ミリアリアはトールに死んでほしくないと強く願う。
トールの胸の中でミリアリアは泣きながらすがりつく。
その恋人を辛い表情で見つめながらトールは抱きしめた。
「私、トールが死んだら生きていけない」
「ミリィ……」
「お願いだからもうやめて。私はトールに死んでほしくないよ」
「……ごめん。でも俺、やっぱり戦うよ。俺だけ安全な所にいてキラやニコルを戦わせるなんてできない」
トールはミリアリアの願いを聞き入れなかった。
もう決めた事なのだ。
この戦争が終わるまでは戦おうと。
◆◆◆
L4コロニーで休息を取るアークエンジェルでは修理作業が急ピッチで行われていた。
ドミニオンの追撃はないものの、いつまた攻撃をうけるかわからない。
それに先日の戦いぶりで只者では無いと知れた敵の事を対策しない訳にはいかない。
「アークエンジェル級二番艦ドミニオンね。どんな艦長が乗っているのかしら」
そう言いながらマリューはドーナツ片手にコーヒーを飲む。
アークエンジェルではバルトフェルド自慢のコーヒーレシピが共有されたので乗員に好評だった。
なおこのコーヒー豆も当然マイウス市経由である。
マイウス市にジェネシス撃たれてもおかしくない所業。
「おそらくアリス・ハルバートンでしょう。彼女が得意とする戦術です」
もぐもぐとドーナツを食べながらマリューに話しかけるナタル。
控えめに言って可愛い。
「アリスちゃんってハルバートン提督のお孫さんだっけ。いま幾つ?」
そう言ってドーナツを食べるムウ。
大男がスイーツを食べてるのは何か可愛い。
「たしか十六歳だったかしら(もぐもぐ)」
「十六歳です。わたしと士官学校同期でした(ぱくぱく)」
「その子何歳で士官学校入ったのさ?俺が十六の時ってまだ女の尻追いかけまわしてた頃だぜ」
「あら、今はもう追いかけまわしてないとでも?(もぐもぐずずず)」
「いやいや。もう追いかけまわす必要ないからさ」
「ご馳走様です(ぱくぱく)」
ムウとマリューが大人の関係になったのは正直ショックだが、自分には仕事があると決意したナタル・バジルール(25)
彼女に春が来るのはもう少し後である。
ナタルの説明と先日の襲撃を検証する為にアークエンジェルにラクスとバルトフェルドとカガリとキサカが集まって作戦会議を行った。
状況を整理すればするほど、どうしてこんなに少ない情報で、アークエンジェルとクサナギとエターナルの正確な位置と回避パターンが読めたのか戦慄するばかりだ。
ナタルが言う通り天才の一言に尽きる。
特にアークエンジェルと離れて散開しようとしたエターナルとクサナギは散開する予想位置まで正確に読まれていて対艦ミサイルの集中攻撃を受けた。
早急な対策を立てないといけないが、MSで索敵していては襲ってこないだろうという結論に達した。
相手はたった一隻に三機のMSだけしかいないのだから、正攻法では間違いなくこちらが圧勝だ。
ならばどうするか? 答えは一つ。
MS戦で撃破する。
キラやアスランやニコルがいるのだから負ける要素が無い。
「で、誰が出るんだ?」
バルトフェルドがラクスに尋ねる。
キラとアスランは言わずもがなだしニコルのパイロットスキルも高い。
「ニコルさまのリジェネレイトで偵察して貰うのがよいでしょう」
「たしかにリジェネレイトのミラージュ・コロイドを遊ばせておく理由はないな。ニコルのリジェネレイトで周囲の索敵を行って貰おう」
「その間にMS隊のみんなには交代で休憩と訓練をしてもらうのがいいわね」
方針は決まり、ニコルが定期的に哨戒しアークエンジェルとクサナギとエターナルの修理を急ぐ事になった。
だが情勢は再び動く。
今度はザフト艦隊が接近しつつあった。