【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。   作:屠龍

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今回はグロ中尉です。といっても映像ではないので規制は入りませんが。R-15の範囲内だよね?これ映像化されたらやばいよなって思います。なら書くな?ごもっともでございます。


第98話 悲劇の姉妹

 第98話 悲劇の姉妹

 エマとジャンヌについていくと巨大な円筒形の建物にたどりついた。

 巨大な金属のパイプから、いくつものボルトが突き出ている外観の建物。

 何かの研究施設だろうか。

 地面には血がしたたり落ち、奥へと続いていた。

 血の乾き具合からついさっき誰かが流した血のようだ。

 

 「誰だか知らないが人の家を血で汚すとは不躾なやつめ」

 

 ジャンヌが嫌悪感で血を見る。

 

 「ここがエマとジャンヌの家?」

 

 ニコルが一見悪魔の住処のような印象を持つ建物を見る。

 とても家には見えない。

 何かの施設には見えるが温かみというものが感じられないのだ。

 

 「そうだ。ここがエマとわたしの家だ」

 

 「こっちこっち」

 

 そう言ってエマが中に入るように促す。

 そこはエントランスホールのようで円形のホールに人はいない。

 吹き抜けになっていて光が取り入れられた空間。

 中央に太い円柱がそびえている。

 どこか遠くで銃声と人の声が聞こえた。

 ニコルとアスランには両方の声が誰のものかわかる。

 

 「この声はクルーゼ隊長とキラとムウさん?」

 

 ニコルが呟くとアスランが同意の頷きを返す。

 イザーク達にもクルーゼの声はわかるがキラとムウの声に聞き覚えはないようだ。

 クルーゼが何かを叫び、ムウが叫びかえしている。

 その声を聞いていたエマが皆を手招きして呼び寄せる。

 

 「こっちこっち。あたしとジャンヌの母親を紹介するよ」

 

 そう言ってエマとジャンヌの後ろについていくと、部屋には中に青い液体の入った冷却槽になっていて、丁度赤ん坊が入りそうな装置が何個も並んでいた。

 装置にはずらりとモニターが並び装置の状態をモニタリングできるようになっている。

 その装置はまだ稼働しておりモニターにはよくわからない数値や文字が流れ、何か胎児のような映像が映し出されている。

 

 「なんだここは」

 

 イザークが絶句した。

 あまりの光景に声もだせない。

 何かの実験施設なのは皆わかったが。

 皆が絶句している時、部屋の奥に入っていたエマが何か標本のようなものが入ったガラス瓶を持って来た。

 

 「紹介するね。私の25番上のお姉さん」

 

 そう言ってエマが掲げたガラス瓶の中にはホルマリン漬けの胎児が入っていた。

 胎児は女の子でまだ髪の毛も生えていない。

 そしてよく見ると、その胎児の目は一つしかなく出目金のように目が突き出していた。

 ラスティが口を押える。

 皆軍人だから死体は見慣れているが、これは生理的嫌悪感をもよおした。

 

 「皆も見ろ。これがコーディネイターの失敗作だ」

 

 そう言ってジャンヌが部屋の奥から手招きする。

 ニコル達は覚悟して部屋の中に入った。

 そこに並んでいたのは───

 あえてそれを人間の胎児と形容しようか。

 ただその人間の胎児たちは顔が膨れ上がり目が飛び出ていたり、手足が欠損していたり下半身がぐずぐずに崩れて肉片になっているような者たち。

 明らかに人間になれなかった胎児たちだった。

 障害などという表現が稚拙に思えるほどの惨たらしい胎児たちのホルマリン漬け。

 そのガラス瓶の一つ一つをエマとジャンヌは愛おしそうに撫でる。

 

 「まさか君たちは」

 

 ニコルにはそれ以上の言葉が出なかった。

 あまりの光景にアスランもイザークもディアッカもラスティもミゲルも戦慄している。

 

 「そうだ。私もエマも人から生まれた者ではない。この実験施設で造られた者だ。命は生まれいでるものでは無い。生身の子宮でも機械の子宮でも同じ事。命とは製造するものだ」

 

 そういうジャンヌは嬉しそうに笑いエマも薄ら笑いを浮かべた。

 二人の冷たすぎる笑顔にニコルは言葉が出ない。

 アスランもだ。

 イザークやディアッカ、ラスティにミゲルも言葉がでない。

 そんな時、クルーゼとキラの声が聞こえた。

 その二人の声がこの施設内に響き渡り、皆の耳に届くのだ。

 どうやら二人はまだ戦っているらしい。

 そして二人が何か会話しているように聞こえたので皆聞き耳を立てたが、何を言っているのかわからないし聞き取れない。

 ただ最後にクルーゼがこう言ったのは聞こえた。

 

 『君は人類の夢、最高のコーディネイター。そんな願いの元に開発されたヒビキ博士の人工子宮。それによって作り出された彼の息子、兄弟たち。数多くの犠牲の果てに作り上げられた唯一の成功体。それが君だキラ・ヤマト!!』

 

 その言葉は皆の心に突き刺さった。

 最高のコーディネイター?

 数多くの犠牲?

 いったいクルーゼ隊長は何を言っているんだ?

 その疑問にジャンヌが答える。

 

 「始まりはすべてジョージ・グレン。あの男だ。受精卵に人為的な遺伝子操作を受けて生まれた人類初のコーディネイター。あの男が自分をコーディネイターと明かした事で人は何を得ようとしたのか。ジョージグレンのように一流の才を多数持っている天才。叶う事なら自らの子供も彼のように育てたいと、そしてそれは金銭でかなうと知った人類は何をやったのか。プラントでも最高傑作のお前たちならわかるだろう?」

 

 それはニコル達が一番よく知っている。

 人より優れた知性、身体能力を持つ者を我が子にする。

 最初は親が子供にできる愛情だったのだろう。

 親は誰だって子供に障害を持って生まれて欲しくはない。

 だがいつの間にか、金銭次第で優秀な遺伝子を作れると知ってしまった。

 

 「優れた知性優れた能力。だがそれだけでは満足できない。もっと強く、もっと先へ、人よりもっともっと優れた者に。そして人は何をはじめてしまったのか。あらゆる容姿、あらゆる才能がすべて金次第で手に入る。誰よりも優れた者を求めた」

 

 ニコル達はミゲルを除いてみな才能豊かでザフトレッドに選ばれるほど優秀だ。

 だがそれは親の持つ裕福さで決まる。

 本人の努力では埋められない高み。

 努力ではどうしようもない者を見る時、人は妬む。

 嫉妬し憎悪し妬み呪う。

 ザフトレッドを目指して挫折した者の中に親の資金が足りなくてコーディネイトしきれなかった者もいるだろう。

 ニコル達は自分たちが努力してザフトレッドになったと信じて疑わなかったが、こうも目の前で遺伝子操作の結果、人のなりそこないとしてホルマリン漬けにされた者と、裕福な親の元で十分なコーディネイトを受けて育った自分たちの差を見せ付けられた。

 自分たちがザフトレッドに選ばれたのは本当に実力だったのか?

 たまたま裕福な家の受精卵になったから他人が羨む才能を努力なしで手に入れたのではないか?

 

 「だが母胎の影響によって不適合、早産流産などが発生する。それは自然に授かった存在なら当然ありうる事。だが人はそうは考えない。高い金をかけて設計した夢だ。誰だって失いたくはない。だからこの研究所の所長ヒビキ博士は考えた。生きた母胎が最大の不安材料だと」

 

 そう言ってジャンヌは手を広げる。

 人ならざる者に宿された者を代表しているようだった。

 ニコル達も莫大な財産を惜しみなく浪費してコーディネイトされた。

 それが失敗作だとしたら?

 激しい憤りと後悔するだろう。

 ニコルの両親なら同じだけの金をかけて再びコーディネイトする事も可能だろう。

 だが普通はそうはいかない。

 子供により多くの金をかけられるほど裕福な者はそう多くない。

 

 「常時安定した人工子宮。それが答えだ。人よりもっと欲しがり子供の為だという偽善を捨て去り命を弄び殺し合い憎しみあう。太古から人が求めて来た『優秀な自分』優秀な自分から生まれた子が愚かなど、障害を持つなどありえない。優秀な遺伝子をもった民族を残し、弱い種族を劣等種と見下し殺し尽くし滅ぼす。太古から人の心の闇は何も変わらないさ」

 

 そう言ってジャンヌはガラス瓶の中の胎児のホルマリン漬けを慈しむように撫でる。

 それはまるで我が子を愛でるように。

 ニコルもアスランも言葉が出ない。

 イザーク達もだ。

 自分たちはたまたま、母親の子宮で育ち生まれた運のいい者でしかない。

 親が自分たちを愛してくれたのは、コーディネイトした金なのではないか?

 自分たちが失敗作として生まれたとしたら、親は自分たちを愛してくれなかったのではないか?

 「アスラン。先ほど父親と意見の相違があって敵対したと言ったな。ザラ議長は折角コーディネイトした子供が反旗を翻してさぞご立腹だろう。折角大金をかけて作った子供がとんだ粗悪品だったのだからな」

 

 「違う!!父上はそんな事を思う人ではない!!俺が違う考えだから敵対せざるをえなかったんだ!!」

 

 「本当にそうだと言い切れるのか?大金を投じた自分の子供だ。親の思い通りにコーディネイトできなかったと落胆していないと言えるのか?」

 

 「───それは」

 

 アスランにも多額の資金が投入されたはずだ。

 ほぼ完ぺきな容姿とザフトレッド首席の能力。

 完成した時、パトリックは喜んだだろう。

 それは親としてではなく、自分のコレクションを作り上げた喜びだったのではないか?

 ニコル達も親がどんな想いでコーディネイトしたのかわからなくなってきた。

 自分は愛されていると信じていたが、それは能力があるからではないか?

 能力が無ければ愛されないのではないか?

 考えるだけでおぞましい。

 優しい両親の笑顔が崩れ去る恐怖にニコルは怯えた。

 

 「ま、ようするに。みんなは親に愛されてるって思って疑わなかった。そう思える親の元に生まれてよかったねって事だよ。あ~羨ましいな~妬ましいな~」

 

 そういってエマがちっちっちって指を振って皆に語り掛ける。

 とても重苦しい会話の後だとは思えない。

 

 「あたしとジャンヌは最高のコーディネイターを作る過程で生まれた欠陥品。ゴミってわけ。だからさ、本当は今頃生きてる筈がないんだけどね」

 

 エマの軽口にディアッカが咄嗟に口を開く。

 このまま怨嗟と疑心暗鬼に包まれては倒れてしまいそうだったからだ。

 

  「……まて。確かにここがそんな虫唾の走る施設だったとしよう。だがエマとジャンヌがここで生まれたという証拠はあるのか?」

 

 ディアッカの疑問はもっともで、今までが芝居だという可能性だと言うのも一理ある。

 だがエマは首を横に振る。

 

 「だってさ。だからジャンヌ言ったでしょ。やっぱ証拠見せないと納得してくれないよねって。仕方ないから見せよっか」

 

 「見せたくはなかったがな」

 

 そう言ってエマとジャンヌは悲しそうに笑う。

 エマはイザークが、ジャンヌはディアッカが好きだ。

 だから見せたくは無かったし、結ばれる事は無いと最初からわかっていた。

 

 「イザーク、あたしはイザークが好き♪」

 

 「───なに!?」

 

 「ディアッカ。わたしはお前が好きだ」

 

 「ええ!?」

 

 エマがイザークにジャンヌがディアッカに告白したあと、パイロットスーツを脱ぎ上半身裸になる。

 ジャンヌの身体は左胸が抉れており、紫色の斑点が広がっていた。

 そして左足を外す。

 パイロットスーツからは見えないが義足のようだ。

 そして左目に指をはめ込むと義眼が落ち、眼窩からどろりとした肉片が垂れ下がった。

 

 「すまないなディアッカ。こんな化け物に懸想されて不愉快だろう」

 

 エマの身体はもっと酷く、右胸にぶつぶつの穴が開いていて、右肩から腕らしきものが崩れた枯れ木のように生えていた。

 腕は肘までしかなかった。

 肘から先は義手になっている。

 そしてエマが腰を押さえた。

 

  「あたしもジャンヌも下半身は流石に見せたくないな。絶対抱きたくないおぞましさだもん♪えへへ。こんな化け物じゃ、いくら息子の見合いに熱心なイザークのお母さんだっていやだよね」

 

 絶句するイザークとディアッカに顔を背けたあと二人はパイロットスーツを着た。

 パイロットスーツを着た二人は一見して普通にしか見えない。

 

 「……どうやって身体検査を潜り抜けたんだ?」

 

 アスランが務めて冷静に疑問を口にする。

 ザフトでは当然身体検査がある。

 

 「それはね。あたしとジャンヌを買った人が手配してくれたからだよ。ザフトの規則を破れるくらいに凄い人」

 

 そんな人物はプラントに一人しかいない。

 

 「───まさか父上が」

 

 アスランが倒れそうになるのをニコルが支えた。

 周りにいる皆も顔が青ざめている。

 自分たちの存在価値が遺伝子というものでしかなかったのだとしたら、なぜ自分たちは生きているのだろう。

 エマとジャンヌは自分たちのありえたかもしれない姿だったのかもしれない。

 人より優れた能力は全て親の欲望の為だったのだとしたら。

 その意味で言えばコーディネイターを人為的に造る施設で、最高のコーディネイターを作る実験で生まれたというこの少女たちは、普通のコーディネイターではない。

 エマとジャンヌは体に欠損があるとはいえ、最高のコーディネイトをされたのだから。

 

 「ザラ議長は私たちに役割をくれたのだ」

 

 「そそ。ただのゴミに生きる理由をくれたの」

 

 「まってください。いま『わたし達』って言いましたよね」

 

 ニコルが確認する。

 そうだ、確かに今この少女たちはそう言ったのだ。

 なら───! ジャンヌとエマは寂しそうに笑う。

 

 「さっきクルーゼ隊長も言ったじゃん。数多くの犠牲の果てって」

 

 「私たちのきょうだいは時が来るのを待っている。旧人類最後の時をね」

 

 「旧人類最後の時?」

 

 「そうだ」

 

 「あたしとジャンヌみたいな欠陥品を製造したナチュラルなんか、みんな死んじゃえばいいんだよ♪」

 

 「旧人類尽く死滅した後、新たなる種である我らコーディネイターが世界を創るのだ」

 

 エマとジャンヌの満面の笑顔と共に発された言葉を聞いて、皆言葉を失った。

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