【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第99話 それぞれの道
皆があまりの事に混乱している。
エマとジャンヌが実験体だったこと。
イザーク達が親のエゴで造られた存在であるかもしれない事。
そしてナチュラルの滅亡を二人が望んでいる事。
「と、いう訳だ」
「みんな納得したかな?多分人類って火を発見した頃とあまり変わらないと思うよ」
「異端を迫害し差別し殺戮しているのだ。腐りきっていて救いようが無いのが大変ポイント高いな。人類という存在自体が欠陥品の気がしてきたぞ。さて改めて問う。ニコル、アスラン。これでもまだナチュラルと共に歩めると信じるのか?」
エマとジャンヌの言葉にニコルとアスランは言葉が出ない。
自分達が親のエゴで造られた存在かもしれないという事もショックだが、ナチュラルの本性を目の当たりにしてそれを否定できるのか?
ジョージグレンを求めた結果、これほどおぞましい生物を製造してしまったナチュラルと共に歩めるのかと聞かれている。
「僕は歩めると信じます」
そう言ってニコルが前に出る。
ナチュラルにだってカガリみたいに立派で魅力的な人もいるし、ヒビキ博士のような愚劣な人間もいる。
ナチュラルという枠組みだけで測れるものでは無いとニコルはこの旅で知った。
「ナチュラルにだってコーディネイターにだって、立派な人も愚劣な人もいる。それを一括りにして滅ぼそうなんて考えこそが、この戦争の元なのだと僕は思います」
ニコルの言葉にアスランも我に返る。
自分の想い人のカガリを思い出したのだ。
「父上がエマやジャンヌ達を使ってナチュラルを滅ぼすというなら俺は戦う。そんな蛮行に加担する事などできない」
アスランの宣言にニコルも頷く。
そうだ、ナチュラルを滅ぼすなんて間違っている。
そんな事の為に戦争をするなんて馬鹿げているし、カガリが悲しむ事だってしたくない。
「考えは変わらないか。だがそれも道理だ。人は自分の信じたいものしか信じない」
「これでニコルとアスランはあたしたちの敵って事で決定。イザーク達はどうするの?」
エマとジャンヌは寂しそうな顔を一瞬見せてから、すぐに笑顔になってイザーク達に問う。
その笑顔が痛々しくてニコル達は胸が締め付けられる。
ニコルとアスランが正義と信じるものと違う正義がエマとジャンヌにはある。
どちらが正しいのかなどの裁定は神にしか出来ないだろう。
CEなんていうクソッタレな世界に神なんて存在がいればだけど。
「俺はこの戦争を終わらせる。だがナチュラル全てを滅ぼすというやり方には賛同できない。だからエマとジャンヌがナチュラル全てを滅ぼすというなら、俺はお前たちを止める」
イザークの言葉にエマが満面の笑顔になる。
彼女が愛したのはこういう高潔な男なのだ。
プライドが高くて怒りっぽくていつも怒鳴ってばかりで、そして深い愛情を持つ男なのだから。
次にディアッカが答えた。
「ジャンヌが俺の事好きだって言ってくれて嬉しいけどさ。やっぱり俺はお前たちの考えを認められないぜ。俺だってナチュラルは憎いけどさ、でも全員殺すっていうのは性に合わない。ナチュラルにも可愛い子はいるしな」
ディアッカもエマとジャンヌと同じ道を選ばない事を選択したのだ。
それはディアッカなりのケジメだった。
ニコルやアスランのようにナチュラルに好意を持っている訳ではない。
だがナチュラルの美少女が目の前にいれば銃を向けられないという良識を持っているからだろう。
女好きだからという簡単な理由ではない。
人類を深く愛するゆえにナチュラルだからという理由だけで殺しはしない。
「だな。戦争だからって民間人皆殺しは狂ってるって。それじゃ俺たちは猿以下じゃないか」
ラスティもイザークとディアッカの意見に賛同した。
戦争だからとはいえ民間人を殺すのは間違っていると思うし、ラスティだって最初から人を殺したい訳ではなかったのだ。
ユニウスセブンに撃ち込まれた核ミサイルはただの引き金にしか過ぎなかった。
人間の闇と憎悪はラスティが生まれる前から始まっていたのだ。
なら自分たちが止めるしかない。
「俺もジャンヌとエマに賛同はできない。俺は殺人機械じゃない。命令に従って民間人を殺した事実を否定はしない。だが好き好んで殺したくはない」
ミゲルもエマとジャンヌの考えを否定した。
ミゲルは命令には従うが、それは軍人としてだ。
好き好んで民間人を殺したい訳ではないし、ナチュラル全てを滅ぼすなど容認できない。
彼は家族の為に軍人になったのだ。
ナチュラルにも同じ境遇の者がいる事は理解していた。
「OKOK。諸君の考えはよくわかったよ。じゃあここからはみんなとは別の道だね」
そう言ってエマがうんうんと頷く。
エマとジャンヌは最初から期待はしていなかったし理解されるとも思っていなかった。
自分たちと彼らは違うのだ。
望まれて生まれた彼らと、実験の結果製造された自分たちは違うのだ。
もう共に歩く事はできないだろう。
いや最初から同じ道を歩いてはいなかったのだ。
その事にようやく気づいただけに過ぎないのだから。
だからここで別れよう。
ニコルとアスラン、そしてイザーク達と共に歩む事はできないのだから。
エマとジャンヌは寂しそうに笑った。
「楽しかったよみんな♪」
「お前たちと共に戦えた日々を私は忘れない」
エマが可愛く手を振り、ジャンヌが完璧な敬礼をしたあと自分のMSに歩いていく。
誰も後ろから撃とうとはしなかった。
彼女たちと同じ考えを持つ者がプラントにも地球にもいるのだ。
二人を殺しても何の解決にもならない。
「ここでお別れですね」
そう言ってニコルがイザークに手を差し出す。
イザークはニコルの手を見て言った。
「まだ引き返せるんだぞ。お前もアスランも戻る気はないのか?たった三隻の戦艦で何ができるというのだ!!俺も弁護するから戻ってこい!!」
「もう決めましたから」
「っ馬鹿者が!!」
そう言ってイザークはニコルの手を強く握る。
ニコルも強く握り返す。
アスランはそんなイザークとニコルを複雑な表情で見ていたが、やがて決心した様子でイザークの手を握った。
その目には迷いはない。
アスランはもう自分の道を決めたのだ。
それはナチュラルであろうとコーディネイターであろうと同じ人間だと信じる道。
この過酷な道を進むと決めたからには迷わないと決めたのだから。
それがアスランの出した答えだった。
しばらくしてシンとマユがメンデルから飛び立つニコルとアスランを見つけた。
二人はニコル達の無事を喜んでくれたが、ニコルはメンデルであったことを考えると心が重かった。
アスランも実の父親が生き残ったメンデルの実験体を集めてザフトに入隊させていたという重大な秘密をどうあつかうか悩んでいた。
父は最初からナチュラルを滅ぼす気だったのだろうか?
それともいざという時の切り札で囲っていたのだろうか?
今となっては確かめる事はできないだろう。
エマとジャンヌはヤキン・ドゥーエへ転属になりイザーク達とは完全に違う道に進んだ。
スーパーコーディネイターの出来損ない。
彼らの未来はなお暗い。
◆◆◆
ラクスの部屋でキラはラクスを抱きしめて泣いていた。
人より優れた能力は人間を効率的に殺せる能力。
優れた頭脳はMSを動かす為。
そんなチカラなんてキラは望んで無い。
なのに友達を守って戦って殺して泣いてまた立ち上がって戦って殺して泣いてを繰り返し。
キラのメンタルはボロボロだった。
自分が父親に製造された命だと知ってしまった。
愛されて生まれたのではなかった。
実の両親だと信じていたヤマト夫妻は実の両親ではなかった。
「……ぼくは生まれてきてはいけなかったのかな」
キラの呟きにラクスはキラの顔を胸で抱きしめて囁く。
この世界に生まれてきてはいけない生命など存在しないのだと。
「キラ。わたくしはキラと出会えて幸せです。キラと出会えて私は幸せになったのです。キラはもう一人ではありませんわ」
いまキラを手放してはキラが立ち直れなくなる。
今夜はキラの傍にいよう。
誰よりも優しい彼が安心して眠るまで共にいよう。
ラクスはキラに優しく子守唄を歌う。
その歌は優しくも悲しい歌声だった。
世界の闇はまだ深い。