プシットはペンダントを取り戻すため、フウカとの戦いに挑んだ。
鮫を操るフウカに苦戦するプシットだったが、何とか彼女に勝利する。
しかし、ペンダントの行方は依然不明のままだった。
「結局、僕のペンダントは見つかりませんでした」
「でも、オタカラは集まってきたね」
「ガラクタも、役に立つ時が来るからな」
セピアは集まったパーツをしげしげと見やる。
ただのガラクタにしか見えないが、いずれ役立つだろうとセピアは読んだ。
ペンダントは見つからなかったが、次のサイトで絶対に見つかるだろう。
―ザザッ! ザーーー! ……応答されたしーーッ!
すると再び、通信機からアタリメの声が流れる。
ノイズ交じりで、どこか焦りが混ざっていた。
「ジジィから通信が来たか……」
「もしもーし!」
『応答された……おお、ア……1号か!』
アタリメは一瞬、孫娘の名を言いかけた後、現在の状況をアオリ達に報告する。
「どうした、ジジィ」
『部屋から出る方法を探っとるんじゃが、出口が見当たらんくてのゥ!』
「何、出口がないのか?」
『そういうわけではないのじゃが……とにかく、暗くて辺りが見えん。……ヌッ、誰か来よる!』
アタリメは何かの気配を感じたらしい。
プシットは鬼気迫る表情でアタリメの話を聞いた。
『気がついたようだね、アタリメ元司令』
『むむっ! イカにもワシはアタリメじゃが……なんじゃ貴様は! 名を名乗れぃ!』
その声の主は穏やかだが、狂気が宿っていた。
アタリメは声に警戒しながら話す。
『はは、元気なおじいさんだ……いいね。私は……そう、「クマサン」だよ』
声の主は自身をクマサンと名乗った。
クマサンといえば、バンカラ地方にも存在するあのバイトをしている者らしい。
「……クマサンだと? ジジィ、知ってるのか?」
『ワシはそんな奴は知ら……いや、おぼろげながら聞いた事はある。クマさん……と?
そん……ク……んて……じゃ!』
「ジジィ! 応答しろ!」
アタリメの声にノイズが混じる。
セピアは焦ってアタリメに呼びかけるが、アタリメはセピアの声に反応しない。
―ザザーーーー!
そして、ノイズと共に通信は途絶えた。
「まずいな……ジジィの命が危ない」
「命……?」
プシットはアタリメが命の危機に晒されている事をセピアの声色と表情で知った。
しかも驚くべき事に、アタリメと接していたのはクマサンという謎の人物だった。
情報を調べなければ、クマサンが何者か分からないと思ったプシットは、
セピアの方を向いてこう言った。
「僕、クマサンに会いに行きます」
「クマサンって、あのクマサン商会をやってる?」
「何ですか、それ」
「イカとシャケは接しちゃダメみたいだけど、クマサン商会の時はおっけ~みたい」
「だがプシット、本当にクマサン商会に行くのか?」
この地球では、イカとシャケが無断で接触する事は禁じられている。
だが、クマサンが運営しているクマサン商会では、
サーモンランというアルバイトでそのシャケに接する事ができるという。
それだけでも怪しいというのにクマサン商会に行こうとするプシットにセピアは疑問を抱いた。
だが相手の情報を知るのが攻略であるため、プシットの表情に迷いはなかった。
「僕はクマサンの事を知りたいから、クマサン商会に行きます。
必ず、分かった事は皆さんに報告しますよ」
「そっか。じゃあ、いってらっしゃ~い」
「イカ、よろしく~」
プシットはアオリ、ホタル、セピアに別れを告げ、ラクスと共にバンカラ街に戻った。
こうしてバンカラ街に一度戻ったプシットは、辺りを見渡しながらクマサン商会に向かう。
入り口には、鮭を加えた熊の像が置いてあった。
恐らく、これがクマサンだろう。
「あなたがクマサンですね」
「ああ」
どこから声が聞こえたのかは分からない。
プシットは、落ち着いて辺りを見渡した。
「話があるんですけど」
「おや、バイト希望者かね?」
「いえ、そうでは……」
「ふむ、君のようなイカした若者にしか頼めない大事な仕事なんだ、とても助かるよ」
話を聞かないクマサンにプシットは首を傾げる。
オルタナを探索し、ある程度の実力を身に着けたプシットなら、この仕事もできるはずだ。
「ウチはアルバイトだからといって、なかなか給料が上がらない、なんて事はないよ。
頑張ってくれたら、きちんと報酬にも反映させるシステムを整えているからね」
(なんだ、意外と良い企業じゃないですか)
怪しいと思っていたプシットだったが、それなりに報酬は渡してくれるそうだ。
とりあえず、彼はクマサンの話を最後まで聞いた。
「アルバイトのみんなには、まず研修を受けてもらう事になっているんだが……。
今から研修を始めてもいいかな?」
「はい」
「やる気十分だね……。君のような若者を待っていたよ」
プシットは真剣な声色で言った。
サーモンランのアルバイトがどのようなものか、プシットは一度知りたかったのだ。
「さて、バイト内容についてだが……。ふむ、ちょうど次のヘリが出るようだ。
『習うより慣れろ』という海の教えを聞いた事があるだろう?
まず、君には現地でバイトのキホンを覚えてもらおうか……。さあ、出発だ。
……おや、そのコジャケは……危ないね。ここで待っていてもらうよ」
「えっ……」
「そして、そのシューターも預からせてもらう。大丈夫だ、終わったら必ず返すからね」
クマサンはプシットの傍のラクスを見ていた。
ラクスを連れて行きたかったプシットだが、クマサンがそう言うのならば仕方ないと、
プシットはラクスを入り口で待たせた。
ヒーローシューターもクマサン商会の入り口に置いて、
プシットはアルバイトの研修に行くのだった。
プシットがヘリコプターに乗ってやってきたのは、果物のブイがあるアラマキ砦だった。
赤いヘルメットに赤い服と相当な重装備なので相手は非常に強いだろうとプシットは認識した。
「研修その1、アルバイト、キホンの『キ』。海からはね、シャケがやってくるんだよ」
「……シャケ、ですか?」
シャケ……コジャケはいつも連れているが、この海にシャケが存在するのは初めて聞いた。
イカとシャケの接触は法律で禁止されており、イカ達がシャケを知らないのも無理はなかった。
「ああ。彼らをインクで撃つとイクラを落とすんだ。
アルバイトの君の仕事は、このイクラをたくさん集める事、ただそれだけだよ」
「イクラを使ってあなたは何をしたいんですか?」
「……君は勘がいいんだね」
ぼそりと、クマサンが悪態をついているような気がして、プシットは首を傾げる。
しかし、途中でやめるわけにはいかず、プシットはクマサンが支給したブキを構えた。
「それじゃあ、シャケを探してみようか……」
プシットがインクで塗りながら辺りを探索していると、大きな魚がぴちぴちと動いていた。
恐らく、これがシャケだろうとプシットは睨む。
「そこですね!」
プシットがその魚目掛けてブキを乱射すると、魚は弾け飛び、イクラが飛び出した。
「ふむ、今手に入れたのがイクラだよ。このイクラをたくさん集めてほしいんだ」
イクラの使い道はプシットには分かっているが、クマサンの目的はまだ分からなかった。
とにかく、彼の言う事を聞けばいいと、プシットはあちこちを探索して回った。
すると、フライパンを持った巨大な魚が、小さな魚を連れてのしのしと歩いてきた。
プシットはできるだけ距離を取り、二匹の魚を撃ち、イクラを何個か回収した。
「いい仕事ぶりだね……。君になら、本当の仕事を頼んでもいいだろうね」
「本当の仕事って、何ですか?」
もしかして、たくさんのシャケを相手にするのだろうか。
プシットはごくりと唾を飲む。
「実は、私が欲しいのは金イクラなんだ。金イクラはオオモノシャケが持っているものでね……」
「オオモノシャケって強いんですか?」
「ああ、強いとも。気を付けた方がいい」
オオモノシャケと言うには、きっと強力な武装をしているかもしれない。
現れたのは、様々な工具で戦車のように武装したオオモノシャケ、テッパンだった。
プシットはしっかり構えてテッパンと戦い、見事、金イクラを落とす事に成功した。
「オオモノシャケは金イクラを落としたね。金イクラは触れる事で持つ事ができるんだ」
「はい、これの事ですね」
そう言ってプシットは金イクラを袋の中に入れる。
オルタナをそれなりに長く探索したため、すぐに金イクラの回収はできた。
「金イクラをノルマの数だけ集める、これが君に頼みたい本当の仕事なんだ……
おっと、既に持っていたのかい……仕事が早いね。君には才能があるのかもしれないな……」
「あ、ありがとうございます、クマサン」
言われる前に金イクラを回収したプシットは、クマサンに褒められて赤面する。
どうやらクマサンは金イクラを探しているようだ。
プシットは金イクラを回収した後、イクラコンテナに納品した。
「ノルマを1つこなせたね。今回のノルマは3つだから、あと2つ必要なんだ。
さっきの2つの金イクラも……おや? あのシャケは……」
「えっ? 何々?」
プシットが金イクラのあった方を振り向くと、空から一匹のシャケが飛んできた。
シャケは調理用具を使い、金イクラを持って行ってしまった。
「あのシャケは金イクラを回収するシャケだ……。海から飛んでやってくるみたいだね。
海へ逃げられる前に倒す事ができれば、回収された金イクラも取り返せるからね……」
すなわち、泥棒シャケは真っ先に倒さなければいけない、とプシットは肝に銘じた。
しかし、向こうから誰かの声が聞こえてくる。
「あれは……」
「おや……仲間から呼ばれているようだね。仲間のところへ行ってあげてくれないか?」
「はい」
プシットは仲間のところへ行くついでに金イクラを回収して合流した。
「このように、仲間と声を掛け合えば、より効率よく金イクラを集められるからね」
そして、プシットはクマサンからひとしきり、キホンの「キ」を覚えるのだった。
「お疲れ様……じゃあ、今回の研修はここまでだよ……」
そして、プシットはクマサン商会の入口に戻った。
少し怪我はしたものの、余裕で治った。
「やあやあ、お帰り。なかなか筋がいいね……。君は優れた人材のようだ」
「ええ、僕、色々と知りたかったですからね」
プシットはクマサンの謎を知りたかったので、彼が運営するクマサン商会に行ったのだ。
「すぐにでもバイトをお願いしてよさそうだが……
もう一つだけ、受けてもらいたい研修があるんだ。
君のようなイカした若者を現場に放り出して怪我をさせるわけにはいかないからね」
「でも、実際シャケは強かったですよ。フライパンで武装してましたし」
オオモノシャケだけでなく、普通のシャケも武装していて攻撃的だった。
それをクマサンに伝えると、クマサンが唸り声を上げ、小声でこう言った。
「……どこまでも勘が鋭い君は要注意だ」
「……」
プシットは、自分を要注意と言ったクマサンを今以上に警戒した。
「次は、色々なオオモノシャケの倒し方を学んでもらうよ。
バンカラ地方で発見された新種の事も知っておくべきだろう……」
「そんなのいましたっけ? でも、オオモノシャケはかなり強いですからね」
「とはいえ、マニュアルを少しばかり読んでもらうだけの……
ふむ、ちょうど次のヘリが出るようだ。
『海は全てに答える』という海の教えを聞いた事があるだろう?
最後の研修も現地でこなしてもらおうか。さあ、今から出発できるかい?」
「……行きます」
「素晴らしい……それでは早速、ヘリに乗り込んでくれたまえ」
プシットは再び、ヘリコプターでアラマキ砦に向かった。
クマサンが何者か、クマサンは何をしたいのか、
プシットはヘリコプターの中でそれを考えていた。
「研修その2、アルバイト、キホンの『ホ』」
こうしてプシットのオオモノシャケ退治が始まる。
だが、どのオオモノシャケも激しい攻撃をして、プシットはかなり苦戦していた。
爆弾の範囲が意外と広くて危うく直撃しかけたり、
攻撃はかわせたが徐々に追い詰められたり……。
特に危険なのは、シャケが現れる海岸から動かず、
強力な攻撃を繰り出すタワー、テッキュウ、カタパッド。
タワーとカタパッドは言わずもがな、テッキュウも体力が非常に多く、倒すのに一苦労した。
予想以上に、サーモンランは危険なアルバイトのようだ。
それでも何とか、プシットは全てのオオモノシャケを気合と頭脳で倒すのだった。
「やあやあ、ご苦労様。これで安心してバイトを任せる事ができそうだよ。
これからは他のアルバイト達と協力して、イクラ集めに勤しんでくれたまえ」
「クマサン、ありがとうございます。ところで、キホンの『ン』って何ですか?」
キホンの「キ」と「ホ」は学んだのに、クマサンは何故か「ン」を言わなかった。
その疑問を、プシットはクマサンにぶつけた。
「そうだな……まあ、海とはそういったものだよ。
海も波も生き物も……あらゆるものは瞬く間に形を変えていく。
大事なのは、変わりゆくキホンの中で自分が何をすべきか考え続ける事なんだ……。
そうすれば、いつか君にもキホンの『ン』を理解できる時が来るかもしれないね……」
「はっきり言ってください。キホンの『ン』って何ですか?」
どこまでも言葉を濁すクマサンに対し、プシットは強い口調で疑問を言った。
静かで、決して怒りを感じさせないものだった。
「『ン』は繰り返す……打ち寄せる波から『ン』を感じ取るんだ……」
だが、クマサンはプシットの疑問に対し、一切、何も答えないのであった。
「……以上がクマサン商会について分かった事です」
オルタナに戻ってきたプシットは、アオリ、ホタル、セピアにクマサン商会の内容を報告した。
設備はボロボロ、防災用具も存在せず、非常口も傾いているという有様だった。
しかも、出てくるシャケは凶暴で、プシットは危うく倒されるところだったという。
肝心のクマサンも、色々なところを濁すなど、どう考えても怪しい場所であった。
「そんなに危ないところなの?」
「よく無事で帰ってこられたね」
アオリとホタルは報告を聞いて驚きを隠せない。
イカとシャケの接触が法律で禁じられているのは、あながち間違いではなかったようだ。
セピアは頷き、手を顎に当ててこう言った。
「クマサン……予想以上に危険だ。プシットよ、クマサンには警戒せよ」
「当然です」
危険なアルバイト、ボロボロの建物……どう考えても、優良な企業とは思えない。
今以上に、油断してはならないのだった。
せっかくの白ツナギも、味方をキャリーできなければ腐るだけ。
そんなスプラトゥーンの時間を過ごしました。