ロケットに向かったプシットは、ウツホの助言でパイプを通っていった。
すりみ連合はバンカラ街の財政を救うためにお宝を探していたらしい。
プシットはケバインクに覆われた道を慎重に進み、エネルギーコアを集めて隔壁を開ける。
そして、アタリメを救出するために危険な扉をくぐるのだった。
『今は、世界がバランスを失っているんだ。
哺乳類と魚介類……入れ替わってしまった者達を、あるべき形にしてあげなくてはね』
「……あるべき形、ですか? それは……」
プシットは哺乳類と魚介類が逆転した事をオルタナログで知るが、あるべき形とは何だろうか。
怯えながらも、プシットはインクを塗って先へ先へ進んでいく。
『そのためのケバインク……そして、そのための金イクラなんだ』
「金イクラ……それって、サーモンランの……」
『みんな、本当によく働いてくれたよ』
「ま、まさか……!」
その瞬間、プシットは全ての真実を知った。
ケバインクを運ぶためには莫大なエネルギーを必要とし、
そのエネルギーがサーモンランで手に入れる金イクラだった。
クマサンが地球を哺乳類の星に戻すため、
正体を隠して半分違法のアルバイトを募集する、それこそがサーモンランの真実だった。
インクリングやオクトリングは知らないうちに、クマサンの企てに加担していたのだ。
「僕達は、クマサンに騙されていた……!? これはいけない。すぐに止めなければ!
ラクス、行きますよ!」
そんな事を許すわけにはいかないと、プシットとラクスは急いでアタリメを追いかける。
アオリとホタル、そしてセピアも、一緒にプシット達を追いかけているのだろう。
プシットは脇目もふらず、ただ、只管に目的地へ向かって走り出した。
「アタリメ!!」
「じーちゃん! 助けに来たよ!!」
ようやく、プシット達はアタリメを発見した。
しかし、彼の姿を見たプシットは衝撃を受け、思わず吐きそうになるのを我慢する。
何故なら――
「……アタリメ……!?」
アタリメはしぼんで、真っ白になっていたからだ。
「やあやあ、よくここまで来たね」
「あ、あなたは……!」
衝撃を受ける間もなく、何者かの声が聞こえる。
ケバインクと同じ身体の色を持ち、爛々と光る白い眼の巨大な熊。
その名は、実験体熊三号――クマサン。
クマサンの正体は、かつて人類が実験を行った、既に地球から姿を消したはずの哺乳類だった。
「……まさか、本物の哺乳類だったなんて……」
「はぁ、はぁ、はぁ……やっと、着いた……」
その巨体に圧倒されるプシットの後ろから、セピアが遅れてふらふらと合流する。
あの時の怪我はまだ完治していなかったため、思うように歩けなかったらしい。
「ちょっと、毛むくじゃら! じーちゃんを……じーちゃんを元に戻して!!」
アオリは怒りの矛先をクマサンに向ける。
エキスを吸い取られて力尽きたアタリメを、元に戻してほしいからだ。
しかしクマサンは異様に落ち着いた様子で、プシット達にこう告げた。
「気にする事はない……。これから全て元通りになるんだ」
「入れ替わった、元通り、つまりクマサンは……」
「なんね?!!」
突然、最上階の地面が揺れると、クマサンは天を見上げている。
彼が見ていたのは、巨大なロケットだった。
ロケットはカウントダウンを告げると、ゆっくりと上空に飛び上がっていった。
「アルバイト、キホンの『ン』……。何事にも終わりは訪れるものだ」
クマサンはケバインクを載せたロケットに乗り、真っ直ぐ宇宙に向かっていく。
研修の時に、クマサンはキホンの『ン』についてプシットに最後まで語っていなかった。
それを目の前でクマサン自身が語るとは、プシットは思っておらず、ごくりと唾を飲む。
「そう、今の世界にもね」
「クマサン! 何をするつもりですか!?」
「何、天からケバインクを降らせて世界のバランスを正すだけさ。
この地球は魚介類が支配するようになった。哺乳類はもうこの世界にほとんどいない。
もう分かるね? 今日は終わり、明日が始まる。もうすぐ地球に哺乳類の楽園が生まれるよ」
「そんな事をすれば、地球は……!」
ケバインクはプシットが見てきた通り、魚介類にとって非常に危険な代物だ。
そんなものが地球に大量に降り注げば、地球のバランスはひっくり返ってしまう。
プシットとラクスはクマサンを追いかけるが、既にクマサンはロケットで宇宙に向かっており、
このままでは間に合いそうになかった。
「ああ、ロケットが……!」
「駄目だ、間に合わない……!」
「おじいちゃん!!」
プシット達は大急ぎでアタリメのところに向かう。
力尽きたアタリメは、セピアに力なく抱きかかえられている。
「カラカラになっとる……」
「そんな……そんなぁ!」
「アタリメ……」
プシット達の言葉にもアタリメは全く反応しない。
クマサンの言う通り、全身のエキスを吸い尽くされてしまったのだろう。
アオリは悲しみを隠せず、ホタルとセピア、そしてプシットも彼女と同じ気持ちになった。
(……間に合わなかったか……。
あの時、足を怪我していなければ……こんな事にはならなかったのに……)
司令のセピアは、自身の無力感に苛まれた。
せっかくNew!カラストンビ部隊を率いるのに、
怪我をしてしまってまともに動けず、プシット達に遅れてしまった。
自分がもう少し早くアタリメを救出できれば、アタリメは力尽きずに済んだというのに。
(ごめん……ジジィ……!)
セピアは悔しさと申し訳なさのあまり、アタリメの身体に一粒の雫を落とした。
すると、真っ白だったアタリメの身体に色がつき、茶色く染まるとアタリメの目が開く。
そして、アタリメはゆっくりと宙に浮かんだ。
「え!?」
「ジジィ、生き返ったのか?」
「どうして、アタリメが? もう彼は、力尽きたはずなのに……」
アタリメの蘇生に、アオリは驚きを隠せずホタルに慌てて抱き着いた。
プシットは、あの涙で蘇るのか、と思っていた。
それと同時に、思いは論理を上回る事も理解した。
「ふ~、ビックリしたわィ。急にちゅーっとされたもんでの」
「よかった、意識が戻りましたか」
「まったく、心配したんだぞ、ジジィ」
プシットとセピアは姿が変わったアタリメに苦笑しながらも声をかける。
どうやらアタリメは、エキスこそ吸い取られたが命に別状はなかったようだ。
「ヌ……? ちと体が軽くなったかのゥ」
「あれだけエキスを吸い取られたらそうなりますよ」
「それにしてもジジィ、まるでスルメみたいだな」
「ス、スルメとはなんじゃ! それに、ワシはジジィではなくアタリメじゃ!」
セピアに相変わらず「ジジィ」呼ばわりされて、アタリメは少しだけ怒っていた。
しかし、セピアの事は相変わらず信頼していた。
「てゆ~か生きてんじゃん!」
「じーちゃん! よかったぁぁ!!」
孫娘の二人が蘇生を喜ぶ中、セピアはまた浮かない顔になった。
「だが、ロケットは宇宙へ飛び立った……。どうすればいいのだろうか……」
「そうそう! まだピンチだよ!
このままじゃ、ケバインクが降ってきてみんな毛玉になっちゃう!!」
アオリは再びホタルの肩を揺する。
クマサンはロケットに乗って、地球に大量のケバインクをばら撒くつもりだろう。
そうすれば、地球の生態系がひっくり返ってしまうのはご存じである。
「けど、あの速さのロケットに追いつくのは、流石にこっちだと無理じゃね?
う~ん、どうしよ……」
だが、プシット達にクマサンを追う手段はなく、まさしく万事休すといった状態だった。
「そうですよ。僕達には乗り物はありません。司令、どうすればいいんですか!」
「……」
ホタルが作戦を考える中、セピアは一人、腕を組んで考え事をしていた。
(プシットは先程『僕達には』と言ったな。つまり、別の人に頼むしかないようだ)
「どうしたんですか? 司令」
「乗り物は……」
セピアが乗り物の在処を言おうとした時。
「ちょっと待つんじゃあーーー!!」
「アネゴ、アネゴーーーーッ!!」
突然、どこかから二人の女性の声が聞こえてきた。
「すりみ連合じゃありませんか!」
現れたのは、すりみ連合のメンバーであるウツホ、フウカ、マンタローだった。
三人は「アネゴ」と慕うホタルを放っておくわけにはいかなかったのだ。
「みなみなさま、お困りのご様子! ここは一つ、ワシらに任せてほしいのじゃ!」
「僕達を助けてくれるんですか?」
「勘違いするでない、アネゴのためじゃ。イエローウツボ、カモン!!」
ウツホが天に向かってそう言うと、彼女の後ろからたくさんのウツボが現れ、
次々に噛みつくと巨大な黄色い竜巻になる。
アオリは竜巻を見て大はしゃぎし、プシットは呆然としていた。
「先生~先生~おこしやすぅ~」
フウカの号令でサングラスつきの鮫が現れ、竜巻に向かって突っ込んでいく。
「……エイ!(どぞ!)」
「ありがとうございます」
そして、マンタローは応援としてヒーローブレインと宇宙服をプシットに渡した。
これならきっと、宇宙に飛び立ったクマサンに追いつけるはずだ。
「この魚介類の星を、守る!!」
ヒーローブレインを装備したプシットは、
フウカが呼んだ鮫に乗り、竜巻と共に天空に上っていった。
「ほんじゃー、レッツゴー! イカ、よろしく!」
「行っけー、プシット!! 地球の運命は、キミに任せた!」
「君が、クマサンに立ち向かう唯一の希望だ」
アオリ、セピア、アタリメの応援の中、プシットはオルタナの空から宇宙に飛んでいった。
「ラクス君もよろしくね~」
続いて、コジャケのラクスもプシットに遅れて飛んでいった。
「ま……間に合ったぁーー!!」
「ここが……宇宙……」
宇宙に辿り着いたプシットは、その壮大さに驚きを隠せなかった。
空には隕石が浮いており、人工衛星もちらほらと浮かんでいる。
プシットが後ろを振り返ると、そこには青く輝く星――「地球」があった。
そう、プシットは地球を背負って、クマサンと戦おうとしているのだ。
「あれ? クマサンは?」
「そういえば……どこにもいませんね」
ロケットにはたくさんのケバインクがある。
クマサンはそこに乗っているはずだが、彼の姿はどこにも見当たらなかった。
プシットが辺りを見渡していると、巨大な身体がゆっくりと起き上がった。
その身体は両手で自身の身体を支えると、爛々と光る眼でプシットを見つめた。
「そこにいたんですね、クマサン」
クマサンは滅んだ哺乳類を蘇らせるため、
ロケットに乗って地球にケバインクを降らせようとしている。
もしクマサンの目的が果たされれば、
地球は元通りになるどころか、バランスがひっくり返ってしまう。
それを阻止するために、プシットはクマサンを倒そうとしていた。
「かつての地球を取り戻したくないのかい? 楽園に住みたくないのかい?」
「そんなの、僕には分かりません。ケバインクは今の地球には有害です。
だから、お前が望んだ楽園は、いらない」
丁寧な口調から冷たい口調に変わったプシットにクマサンは落ち着きながらも敵意を隠さない。
「そうか……君は私の楽園を拒むのか。君達も働き者だね……休むのも仕事のうちだよ」
そして、クマサンの目がさらに光った。
「来なさい……永遠の休みをあげよう」
どうやらクマサンは、自分に挑むプシットを始末しようとしているようだ。
クマサンが威圧すると、ラクスは驚き、慌ててプシットのタンクの中に隠れた。
絶対に負けられない戦いがここにある。
プシットは魚介類の地球を守るため、クマサンにヒーローシューターを向けた。
次回が最終決戦です。