封印に尽力していたエルフの王は見た、清らかな光が森から出て行くのを。
森へ避難していた人々は見た、光の中に百にも及ぶ射手たちが並ぶのを。
ロビンは見た、射手の中に父の姿も混ざっていたのを。
エルフの戦士たちは見た、森を守ってきた歴代の番人たちの姿を。
正体を知らない人々にも恐怖を与える目玉に、光の射手たちによる百の矢の雨が打ち込まれる。こちらもまた死者であるとまで理解できた人は少なく、あのシャーウッドの森には百もの戦士たちが潜んでいたのかと驚いた。
シャーウッドの森からあの目玉までは足で行くなら数時間はかかるかの距離――ノッティンガムと森の間くらいの位置にいる――あるにもかかわらず、百の射手は並の人間でならあり得ない軌道で飛ぶ矢を見事に放っている。この全員が歴代の《シャーウッドの番人》であり、《指輪》への超射程射撃を成功させた今のロビンに勝るとも劣らない使い手であった。
御霊たちが放った矢は、生者も死者も過去も未来も押し流そうとしていた《闇》を押しのける。
この世のものでないものを連れ帰るかのように、《闇》が元あった場所に戻されると共に英霊たちもそのまま消え還っていった。それを形容するならば奇跡と呼ぶしかあるまい。だが奇跡を呼んだのは、今を生きる者たちでもあった。
常識はずれの闇の軍勢は、同じく常識はずれの光によってかき消された。
《指輪》から溢れた《闇》の濁流が消え去り、呑まれた人間や動植物の姿が現れる。生きている者は起き上がろうとしていた。戦いで亡くなった者も《黒い死者》もすべて波が連れ去っていったようで、一体も残っていない。
この世の終わりのような光景――死者が出張っているという意味であながち間違っていない――は嵐のように過ぎ去った。
「ごほ、……く、夜明けはまだ先だが、悪夢は終わったか」
遠目でも分かる輝くきらびやかな鎧が立ち上がった。それが獅子心王で、主君が生き延びたと分かった兵や民たちは歓喜の声を上げた。あとから現れた軍勢が侵攻をはじめていたらさすがに生き残れなかったかもしれないが、現実はそうはならなかったのだ。
生存者の中に王弟ジョンもいる。どういう悪運なのか、あの獅子心王自身が濁流から抱えて救い出していた。
真っ黒に汚れていてみすぼらしい姿になった王弟ジョン、そもそも生き延びたことに気づいてくれる者が少ない。喜んで獅子心王のもとに駆け寄った人々のうち、ごく一部が傍らにごみのようなものが倒れているのに気づいて、さらに一部がこれが王弟だと口には出さずに思ったくらいである。
ごそごそと、できるものならこの場から逃げだしたい……といった風に首がもたげられた。
「この大馬鹿者よ!」
獅子心王は見逃さず、這いずって去ろうとする弟に一喝。ようやく周りもこれが王弟だったと気がつく。
「おぞましい力に溺れおって、高みから見下ろすばかりで誰も付いて来ぬ傀儡になった気分はどうだったか! 小癪な策を練っては民からは背を向けられるばかりで、それは貴様が人間だからか? 余が獣の頭をした王だからか?」
「ひぃ……ひ……っ」
「まずはハンティントンやノッティンガム、シャーウッド一帯の復興を成し遂げたてから、人々が付いていくようになってから王位のことを考えることだな! 今日からお前の任はそれだ……」
ジョンは大きな罪を犯した。だがやり直せるのもまた、生きているからこその特権だった。
「後継がいるからこそ余は無茶ができる。余には子がおらぬ。まだまだ学ぶことは多いぞ」
*
犠牲も払った。その戦果として人の世界から《闇》は今ひとたび追いだされた。エルフの王も久方ぶりに地下から表に現れた。王は人間たちの王である獅子心王との場を設け、不在のうちに起きた危機にエルフと人間とを率いて立ち向かった獅子心王を称えた。そしてこの事態の中で表に出られなかったことを――《闇》を封じていたという真相は秘密にしなくてはならない――謝罪した。獅子心王も身内がシャーウッドの森を燃やし怪しげな魔術による軍勢を率いたことについて謝罪をした。これからは人間の側の世界にて、このような魔術は規制することもまた約束をする。
獅子心王はやはり武人で、エルフとの素晴らしい歴史的な会合でこそ政治らしいこともしたが、その後は国を出ての戦に明け暮れた。彼が連れて行く兵の中には、その金髪に映える白い服に身を包んだ弓兵ロバート・ハンティントンもいた。
戦の中で獅子心王が亡くなったのち、王位を継いだのはかの王弟ジョンである。
公式記録ではこの頃のハンティントン領主は、ロバートから別の人物へ変わっている。
エルフの国は人間たちの記録に婚姻のも含めて残っていない。
先の話は『ゆかいな仲間たち』に関わらない。ゆえにここで物語の筆は置こう。