私本:ゆかいな仲間たちよ   作:黒木紫雨

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マリアンの視た未来

【幕間3:■■■■■■の✕✕】

 

『ずっと真っ暗だ。ずっと冷たい。たまに声が聴こえる。なんだかムカつくのだが、なんでムカつくのかも分からない。このまま声に従ってもいいことがないという確信だけはある』

 

 

 

【マリアンの視た未来】

 

 

 目が見えない。耳が聞こえない。よりにもよってロビンの扱うトラップを逆に利用されたようだ。

 口を開けて叫べない。手際のよいことに布を詰め込まれてしまっている。舌を噛んで血を垂らして、それを痕跡とさせるのも無理そうだ。涎は口の端から垂れているが何の役にも立たない。

 

 ロビン以外にも優秀なレンジャーはエルフの中にもおり、土の上の足跡、草を踏みしめた跡、木を登るのに手をかけこぼれた木の皮、そんなものから追ってくることもできるだろう。

 それすらも叶わない。

 あの《指輪》を無理に嵌めさせられた。もちろんマッチの言っていた透明になる力も作用している。

 

 ただ、透明になる、というのは外から見た結果であって、

 今のマリアンはこの世にいない。この世の裏側、あの世、死者の世界、そんな場所を通らされている。

 目も耳も機能していないにもかかわらず「この世でない」と分かるものだった。まず冷たい。寒いのでなく冷たくて、幸福感もなにもかも奪われていくのを感じる。

 なぜ「この世でない」からさらに死者の世界だと分かったというと、つい先日に大往生したマリアンの乳母の気配をここで感じたのだ。あとは父王に似たエルフも見た、あれは祖父なのだろう。もしものんびりと散策する機会があれば戦士長やその他の死んだ知り合い、歴代の王族もいたのかもしれない。真っ平御免だが。

 いのししから逃れるためマッチは《指輪》による透明化の力を使っていたが、彼も同じ体験をしていただろうに、

 

(のんびり屋の小人族でなかったら、一度でも使ったら嫌になるわよこれ……)

 

 マリアンを肩に担いで運ぶあの黒い男はこの生者にとって異常な世界もものともせず走り続けていた。鼻だけは仕事をしてしまうせいで、余計に腐臭が強調されている。

 

 

 目を塞がれているから他の感覚が鋭敏になってしまうというのなら、せめて、他のものを《視よ》う。

 エルフの王族は未来をも見通す瞳を持つ。より強く定まっている未来ははっきりと視えるし、いくらでも移ろう未来は水面のようゆらゆらと視える。

 当たる予知と外れる予知、知らせるべき予言と握りつぶすべき予言、それらを厳密に判断できるようになるまで王族はシャーウッドの森の中でも陽の光も通さない深い場所で過ごす。エルフの中では年若いマリアンがロビン・シャーウッドと共に森の中を駆け回っているのは、もしも先祖が知ったら泡を吹いて倒れるくらいの暴挙だ。

 

(今は……視るべきよ)

 

 深呼吸をして集中する。時間の感覚がないくらい運ばれてしまっているせいで、却って揺れていても目や耳が機能しないのも妨げにはならなかった。

 

 

 マリアンはふたつの未来を視た。

 ひとつめはこの黒いのがロビン・シャーウッドに討たれている。

 ふたつめは……マリアン自身に一本の矢が迫っている。

 どちらも同じくらいの濃さで、だがそれ以外の何者も挟まる余地のない強さで重なり合っている。

 

 

(あたしは――やられっぱなしでたまるものか)

 一枚目でも『マリアンが助かる未来』の像ではない。自分が殺されてから黒いのを討っても助からない。

 視えていない未来は確定していない。だからこそ自分が生き延びる余地はあるはずだ。

 強く念じたとき、視えている像が水面のように揺れた。

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